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[ PRESS RELEASE ](技術)
2003-0211
2003年12月8日
株式会社富士通研究所

窒化ガリウムHEMT増幅器で世界最高出力と効率を達成

株式会社富士通研究所(注1)は、第3世代移動通信基地局向けに開発した窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注23)増幅器で、63ボルト174ワットという世界最高出力を得ることに成功し、同時に、世界最高性能のドレイン効率40%を、基地局向けW-CDMA規格を満足して達成しました。

今回開発した技術は、第3世代移動通信基地局の小型化と低消費電力化の実現に向けた大きな進歩といえます。

本技術の詳細は、米国ワシントンD.C.で開催される国際電子素子会議(International Electron Devices Meeting, IEDM)で12月9日に発表します。


図1 今回開発した窒化ガリウムHEMT

【開発の背景】

次世代の高出力増幅器としては窒化ガリウムHEMTを用いた増幅器に期待がよせられています。材料の性質として、高い電圧での動作が可能であると同時に、高い出力性能と出力効率を達成できる条件を満たしているためです。

第3世代移動体通信システムの基地局の送信用増幅器において、複数のチャネルを同時に増幅できる高い出力が得られ、電力を効率的に電波に変換させることができれば、基地局の消費電力を低減し、同時に、冷却システムが単純になるためシステムを小型化できます。

これまで当社は、独自の窒化ガリウムHEMT構造と歪補償回路(注4)を組み合わせ、第3世代携帯基地局用増幅器として、高い効率での動作を実証してきました。

【課題】

これまで当社で開発してきた窒化ガリウムHEMTを、第3世代移動体通信システム向けに実用化するためには、高い効率での動作に加え、単体で150ワットを超える出力が必要です。

送信用増幅器の効率と出力は、その動作電圧が基地局システムで使用される電源電圧48ボルトに比べ、高いほど大きくできます。

しかし、従来は、50ボルト100ワットまでの出力が限界でした。高い出力を得ようと50ボルト以上の電圧を加えると、素子が壊れやすくなると同時に、高周波動作時の出力が不安定になり、逆に、出力と効率が低下していました。

【開発した技術】

今回開発したのは、窒化ガリウムHEMTの高電圧動作時の安定化技術です。50ボルト以上の高い電圧を加えたときに「素子が壊れやすい」「出力が不安定になる」という問題が、窒化ガリウム結晶の不均一性と欠陥によるものであることを明らかにし、HEMT用結晶成長の均一化と最適化により、高電圧動作を可能としました。その効果は、以下のとおりです。

  1. 世界最高の高電圧・高出力動作の実現

    結晶構造の最適化により、高電圧を加えたときに出力と効率が低下する現象を抑制することに成功しました。その結果、63ボルト動作、174ワット出力という世界最高の動作電圧と出力とを実現しました(図2)。最大電力付加効率(注5)についても、大出力素子としては世界トップレベルの54%を達成しています。

  2. 世界最高の高効率動作を第3世代携帯電話基地局用規格下で実現

    実用化を進める上で最も重要なことは、W-CDMA信号(注6)など、第3世代携帯電話基地局の標準的な規格を満たした上で、高い効率での増幅が可能となることです。今回開発した窒化ガリウムHEMTは、60ボルト以上の電圧を加えた状態で、W-CDMA信号の隣接チャネル漏れ電力(注7)の規格を満足しながら、世界最高となるドレイン効率(注8)40%を達成しました。60ボルト以上の動作電圧で歪補償を実証したのは世界初です。

今回得られた結果は、窒化ガリウムHEMT増幅器が、第3世代移動通信基地局向けの送信用増幅器として高い性能を持ち、基地局システムの低消費電力化、小型化に大きく貢献できることを示すと同時に、出力150ワットという実用化に向けてのハードルを越えたことを示しています。

今後は、信頼度データ蓄積と量産化技術の研究開発を進め、1-2年以内での実用化を目指します。


図2 今回開発した窒化ガリウムHEMT増幅器の出力電力
(63ボルト動作を●で表示、○はこれまでのもの)

【商標について】

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

用語説明

(注1)
社長:藤崎道雄、本社:川崎市
(注2)
窒化ガリウムは、ワイドバンドギャップ半導体で、シリコンやガリウム砒素など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
(注3)
HEMT(High Electron Mobility Transistor)は、バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
(注4)
発生する歪の逆特性をあらかじめ加えておくことで歪補償を行うデジタルプリディストーション(Digital Pre-Distortion: DPD)方式を用いた歪補償LSI。
(注5)
増幅器に供給された直流電力が出力信号として高周波電力に変換される効率を表す指数。
(注6)
第3世代携帯電話の規格のひとつ。高速かつ柔軟なデータ伝送を可能とする。CDMA技術は周波数利用効率が高いという特長がある。CDMA技術のひとつがW-CDMA。
(注7)
増幅器の歪みにより、隣の通信チャネルへ信号がどの程度もれるかを表す指数。増幅器に求められる重要な規格の内の1つで、第3世代(W-CDMA)方式では従来の第2世代方式に比べ厳しい仕様になっている。
(注8)
増幅器に供給された直流電力が出力信号として高周波電力に変換される効率を表す指数。第3世代基地局の場合、電力付加効率が最大となる出力で使用するわけではなく、歪特性の規格を満足する平均電力(最大電力の約6分の1程度)で使用する。この電力でのドレイン効率が第3世代基地局向け増幅器では重要となる。

関連リンク

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