FUJITSU
Worldwide|サイトマップ
THE POSSIBIliTIES ARE INFINITE
Japan
元のページへ戻る本件に関するお問い合わせ先
[ PRESS RELEASE ] (技術)
2003-0170
2003年9月18日
東京大学
株式会社富士通研究所
超小型光アクティブデバイスの実現に道

世界初、強誘電体を用いたフォトニック結晶の形成に成功

東京大学(総長:佐々木毅)大学院工学系研究科の桑原誠教授のグループと株式会社富士通研究所(*1)は、強誘電体を用いたサブマイクロメートル周期構造体「強誘電体フォトニック結晶」(図1)の形成に世界で初めて成功しました。電圧で屈折率を制御できる強誘電体を用いてフォトニック結晶を形成することにより、光スイッチ・光変調器などの光アクティブデバイスを従来の千分の一以下の大きさで実現できる可能性が開けました。

今回開発した技術は、次世代の光通信ネットワーク用の光スイッチや光フィルタを実現するためのものです。数センチの大きさの部品を組み合わせて構成されている現在の光ネットワークシステムを、単一の基板上に形成したフォトニック集積回路によって構成するための基本要素技術となります。フォトニック集積回路が実現できれば、従来技術では実現できないシステム全体の超小型化・低コスト化・高信頼化が可能となります。

本技術の詳細については、9月10日に札幌で開催された日米誘電体・圧電体セミナで発表しました。


図1 強誘電体フォトニック結晶

【開発の背景】

光ネットワークシステムでは、スイッチ・フィルタ・合分波器・変調器など、さまざまな光デバイスが使用されており、システム全体の小型化・低コスト化・高信頼化を実現するための技術開発が進められています。

光デバイスの小型化に対するブレークスルーとして、数マイクロメートルの大きさでプリズムやフィルタなどの光部品が形成できるフォトニック結晶が注目されています。フォトニック結晶とは、屈折率の異なる物質を光の波長以下 (サブマイクロメートルオーダ) のサイズで規則正しく周期的に配列させた構造体です。フォトニック結晶中では、結晶の周期に応じて特定の波長領域の光が透過できないため、光の閉じ込めや急峻な曲げなどが可能であり、微小光回路などとしての応用が期待されています。

しかし、これまでに提案・試作されてきたフォトニック結晶は、主にパッシブデバイス(受動型素子)であり、光の偏光角や透過帯域などの特性を自由に変化させることができません。光ネットワークシステムを構成するためには、光スイッチや光変調器など、外部からの電圧変化に応じて特性を自由に変化させることができるアクティブデバイス(能動素子)を作成することが必要です。

【課題】

強誘電体は、電圧を加えることで屈折率が変化する性質を有しており、光変調器、可変光減衰器などとして実用化されています。サブマイクロメートルの周期構造体を持つフォトニック結晶を強誘電体結晶で実現することができれば、外部電圧によって特性を変化させることができる光アクティブデバイスを、数マイクロメートルの大きさで実現することが可能となります。

しかし、従来の強誘電体結晶を用いるデバイスは、結晶基板を切り出してデバイス加工するため、小型化、高密度化に限界があると考えられていました。また、強誘電体でフォトニック結晶を作製できれば、超小型の光アクティブデバイスが実現できると考えられますが、強誘電体の微細加工が難しく、これまでに報告はありませんでした。

【開発した技術】

今回、以下の技術を開発することで、世界で初めて強誘電体結晶を用いたサブマイクロメートル周期構造体「強誘電体フォトニック結晶」の形成に成功しました。

  1. レジストモールド・ゾルゲル法技術

    レジストモールド・ゾルゲル法は、半導体のパターニングに利用されるレジストに微細な孔を形成し、この中に溶媒に溶かした金属有機化合物を流し込み、乾燥、有機成分の加熱除去後、結晶化のための熱処理を行う方法です (図2)。真空装置が不要で大面積に微細構造を均一に形成できるため、エッチングなどの加工によりフォトニック結晶を製造する方法に比べ、安価で量産に適する方法です。

  1. サブマイクロメートルサイズの強誘電体薄膜結晶の成長技術

    ランタン添加チタン酸ジルコン酸鉛結晶(PLZT結晶)は、透明で、電気光学定数 (電圧印加で屈折率が変化する割合) が大きい強誘電体材料であり、光シャッタなどとして利用されています。このPLZT結晶を、ナノレベルの微細な柱 (ナノロッド) として成長させる技術を開発しました。基板として、PLZTと同じ結晶構造を有するチタン酸ストロンチウム (STO) を用い、STOとの結晶格子の整合性を保つように成膜条件を工夫することで、直径が1マイクロメートル以下の大きさでも非常に強い配向性を示す高品位のPLZT結晶を成長させることができました。

    なお、今回開発したサブマイクロメートルサイズで強誘電体結晶を形成する技術は、強誘電体フォトニック結晶だけでなく、MEMS用マイクロアクチュエータや大容量強誘電体メモリにも適用できると考えられます。

【効果】

今回形成に成功した「強誘電体フォトニック結晶」の特長は以下の通りです。

  1. サブマイクロメートルの周期構造を持つ強誘電体結晶で構成

    直径 200ナノメートル(0.2マイクロメートル)、高さ 1マイクロメートルのPLZTナノロッドが、600ナノメートル(0.6マイクロメートル)ピッチで規則正しく配列した周期構造を有しています(図1)。このナノロッドの一つ一つが高品位のPLZT結晶であることをX線回折および電子顕微鏡観察で確認しました。また、ナノロッドのPLZT結晶が強誘電体として機能することを走査プローブ顕微鏡による特性から確認しました(図2)。

  1. 可視光領域のフォトニックバンドギャップを保有

    作製した強誘電体フォトニック結晶の光反射スペクトルを測定した結果、設計通り、可視光領域にフォトニックバンドギャップと一致する強い反射が観察され (図4)、フォトニック結晶として機能することを確認しました。

【今後】

今後は、強誘電体フォトニック結晶を用いた光アクティブデバイスの開発を進め、光集積回路を用いた次世代の超小型・低コスト・高信頼なフォトニックシステムの研究開発を加速していきます。

図 2 レジストモールド・ゾルゲル法による強誘電体フォトニック結晶作製プロセス 図2
図3 走査プローブ顕微鏡で測定したPLZTナノロッドの電圧・歪み特性。強誘電体に特有の特性(バタフライカーブ)が観察されており、サブマイクロメートルオーダの微細な結晶でも強誘電体として機能することが確認できています。 図3
図4 試作した周期構造体の光学特性計算結果と反射スペクトル測定結果。特定の波長の光を透過しないフォトニックバンドギャップと反射のピークが一致しており、フォトニック結晶として機能することが確認できています。 図4

以上

(*1) 株式会社富士通研究所
社長:藤崎道雄、本社:川崎市

関連リンク

プレスリリースに記載された製品の価格、仕様、サービス内容、お問い合わせ先などは、発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。あらかじめご了承ください。ご不明な場合は、富士通お客様総合センターにお問い合わせください。

元のページへ戻る ページの先頭へ

All Right Reserved, Copyright (C) FUJITSU