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[ PRESS RELEASE ] 2001-0262
平成13年12月5日
株式会社富士通研究所

Si-MOSトランジスタで、従来比2倍の最高発振周波数185GHzを実現

株式会社富士通研究所(社長:藤崎道雄、本社:川崎市)は、これまでの約2倍となる最高発振周波数(fmax)、185GHzと、低雑音HEMTと同レベルの低雑音性能、0.8dB(10GHzの周波数において)を実現するSi-MOSトランジスタを開発いたしました。この性能は国際半導体ロードマップによる予測では2014年以降とされていたもので、今回の開発で大幅な前倒しと性能向上が可能となりました。
開発した技術を用いると、Siだけでギガヘルツ帯やミリ波帯の増幅器が実現でき、これまで基幹の通信システムに限られていた大容量通信をオフィスや家庭内で利用できるようになると期待されます。また、デジタルLSIに容易に混載できるため、高周波回路/デジタル回路-SoC(System on a Chip)への展開が可能になります。
なお、本件は、12月3日から米国・ワシントンで開催される2001 International Electron Devices Meeting(IEDM)にて発表する予定です。

[開発の背景]
一般に、光通信などの高周波用デバイスには、化合物半導体デバイスやシリコンバイポーラトランジスタが用いられています。しかし、MOSトランジスタの微細化、高性能化技術が進歩し、従来、化合物半導体やシリコンバイポーラトランジスタなどの高周波デバイスでなければ対応できなかった光通信などの分野で、MOSトランジスタが使える可能性が出てきました。
もし、CMOSの作製技術を用いて、優れた高周波特性をもつMOSトランジスタとCMOSロジック回路が同時に作製できれば、従来別々のチップになっていたロジック信号処理部と高周波デバイスがワンチップ化でき、通信システムの高性能化と低コスト化が図れます。
このため、数十ギガヘルツ帯以上の増幅器に応用すべく、微細化による高性能化の進捗が著しいSi-MOSトランジスタの研究が活発になっています。学会では、これまでに最高発振周波数 (fmax)(*1) 98GHzのSi-MOSトランジスタが報告されていました。
最高発振周波数 (fmax)とは、MOSトランジスタの電力利得が1となる周波数のことで、高周波での増幅を可能にするためには、この値をできるだけ大きくする必要があります。このためにはトランジスタの相互コンダクタンス(*2)の増大、ゲート抵抗と寄生容量の低減が有効です。また、ゲート抵抗を減らすことで、増幅器での雑音の発生を抑えることも、微弱な信号を増幅する場合に必須となります。

[開発した内容]
今回開発したトランジスタは次の3つの技術を採用しています。
  1. SOI基板の採用
    通常のMOSトランジスタ作製技術を用いて、SOI基板(*3)上に高周波用MOSトランジスタを作製しました。SOI基板は、通常のシリコン基板に比べトランジスタの寄生容量を低減できるため、高い発振周波数 (fmax)が得られます。

    MOSトラジスタ構造概要
  2. DTMOS(Dynamic Threshold MOS)構造(図1)の採用
    相互コンダクタンスを大きくするため、ボディーとゲートを電気的に接続したDynamic Threshold MOS(以下DTMOS)構造を採用しました。ゲート電圧を加えることで閾値電圧が動的に変化するため、相互コンダクタンスを大きくすることが可能で、高周波特性の向上が期待されます。

  3. ゲート電極のメタル裏打ち(図2)
    試作したMOSトランジスタの断面構造
    ゲート抵抗を低減するため、ゲート電極上部に通常のシリサイドを形成後、さらに低抵抗のアルミ(Al)をゲート電極上に這わせることで、従来の1/200となる0.02Ω/□のシート抵抗を実現しました。

以上の技術を適用したゲート長80nmのデバイスを試作し、高周波特性を評価しました。その結果、ドレイン電圧1.2V、ゲート電圧0.8Vのとき、最大発振周波数として185GHzが得られました(図3)。この値はこれまでのSi-MOSトランジスタの値の約2倍で、国際半導体ロードマップの予測(図4)を大幅に上回る世界最高性能を実現しました。また周波数10GHzでの雑音指数(NFmin) (*4)は、低雑音増幅器に使用されているAlGaAs/GaAs低雑音HEMTと同レベルの0.8dBでした(図5)。

高周波特性
[図3] 高周波特性

雑音特性
[図5] 雑音特性
ITRSロードマップとの比較
[図4] ITRSロードマップとの比較

今後、当社では、2004年〜2005年の実用化をめざして、商品開発を進めてまいります。

[用語解説]
1) 最大発振周波数(fmax):
トランジスタの電力利得が1となる周波数。遮断周波数(fT)と並び、トランジスタの高速性能の指標としてよく用いられる。
2) 相互コンダクタンス(gm):
ゲート電圧の変化に対するドレイン電流の変化の割合
3) SOI基板:
Silicon On Insulatorの略。シリコン酸化膜が埋め込まれたシリコン基板
4) 雑音指数(NFmin):
入力信号のS/N比と出力信号のS/N比の比

以 上

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