このほど当社は、コンピュータなどの高速化の妨げとなる配線間のクロストークノイズ除去方法を開発いたしました。従来、素子間を結ぶ多数の配線を用いて同一方向に信号を送る場合に受信側で発生していたクロストークノイズは、物理的に配線間の距離を離す以外に低減できないとされていましたが、簡単な回路構成で理論的には完全に除去できる方法を発見し、 実験によりその有効性を確認しました。このノイズ除去方法は、高速バス、パラレルインタフェース、および一般のプリント板設計など広い分野への応用が可能です。
[開発の背景]
近年のコンピュータなどの処理速度の高速化は著しく、パソコンでもMPUの動作速度は数百メガヘルツとなっています。これに伴い素子間を結ぶ配線(信号線)を流れる電気信号も高速になり、隣接した信号間への信号の漏れ(クロストーク : 漏話)が顕著になってきました。このクロストークは、 配線間の距離が近いほど大きくなることから、高速回路の小型/高密度化を阻害しはじめてきています。
特に、扱うデータ幅が32ビットや64ビットと多くなっているために、多数の信号を同一方向に送るケースが多くなっています。これにより、複数のノイズ源によるノイズの重畳によって、誤動作を起こす可能性が増しています。このノイズは、ほぼ距離に反比例して減少しますが、多数の信号線の距離を同時に離すことは、配線面積を増加させるために実用的ではありませんでした。
[開発した内容]
隣接した複数の信号線に伝わる信号を、複数の独立したモードに分解した信号の理論解析を行い、下記の条件でクロストークがゼロになることを発見しました。
◆クロストークがゼロになる条件
信号駆動源のドライバの出力抵抗と受信側のレシーバに付加した終端抵抗との値の積が信号線の特性インピーダンスの二乗に等しい。たとえば、ドライバの出力抵抗が20オームで信号線の特性インピーダンスが69オームの場合、 終端抵抗は69×69/20=237オームとなります。
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ドライバの出力抵抗と遠端の終端抵抗値が反比例することから、両者の間には双曲線の関係があるので、この終端方式をHyperbola(双曲線)終端と名付けました。本方法については、試作ボードで実験を行い有効性の確認を行っています。
また、この終端抵抗値の誤差に対しては、-30%/+50%程度にばらついても、対策前の1/5のクロストークノイズ量となり、 LSIへの内蔵に適しています。さらに、本方式をラッチ型終端方式(信号の変化時のみ終端抵抗が有効となる)とすることにより、消費電力の増加をほぼゼロに抑制することも可能です。
クロストークノイズの除去以外にも、ノイズ源となる駆動信号自体の波形乱れも抑制できる二次効果があります。さらに、複数の信号を同一方向に送る回路全般に有効で、ボード/LSI内配線だけでなく、 ケーブル伝送にも効果があります。
なお、本件は、5月31日に横浜で開催される"Design Conference 2000 Japan"において、「高速ボード設計のトラブル事例とその対策」というテーマで発表を予定しています。
以 上
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