当社はこのほど、コンピュータや情報家電の記憶装置であるハードディスク装置(HDD)を大容量化するために、熱ゆらぎによる記録密度限界を従来の3倍まで高める能力を持つ、新方式の記録媒体を開発いたしました。この技術と新たに開発したヘッドとを組み合わせることで、1平方インチ(*1)あたり 56ギガビットの記録密度(現時点で世界最高)を実証しました。この密度のディスクを2枚内蔵した3.5インチ型HDDでは、DVDビデオ相当の画質で30本程度の映画を録画できます。さらに、より高出力のヘッドと組み合わせることで、1平方インチあたり300ギガビットの記録密度を実現できる可能性をもっています。
本件は、4月9日からカナダ・トロントで開催される磁気記録関連の学会「インターマグ国際会議」にて、発表を行なう予定です。また、本件の一部の技術は、ASET(超先端電子技術開発機構)の研究成果に基づくものです。
[開発の背景]
インターネットやデジタルカメラの普及により、家庭でもパソコンに音声や画像を記録保存する機会が増えています。画像データは、静止画で数十キロバイト(圧縮されたデータ)、動画では1分間のデータでも30メガバイト(現行のテレビ放送の画像を圧縮したデータ)の容量となるため、それを記録するHDDには、ますます大容量化が求められています。
近年、HDDは1年で1.6から2倍という目ざましいペースで高密度化による大容量化が進んでおり、この勢いが続くと2003年頃には100ギガビット/平方インチの記録密度を持つ製品が登場する可能性があります。 しかし、さらに高密度化が進むと、記録した情報が熱によって不安定になり消失するいわゆる熱ゆらぎによる記録密度の限界が、予測されていました。
[開発した内容]
今回、従来の熱ゆらぎによる記録密度限界を打破する新方式の記録媒体(層間結合安定化媒体)を開発いたしました。具体的な技術内容と実証した結果を下記に示します。
(1) | 多層膜で構成される安定化層を新たに記録層の下層に設けることで、媒体の熱ゆらぎによる信号劣化を抑圧しました。安定化層は信号出力には寄与せず、記録層と磁気的に強固に結合(反強磁性結合、*2)するため、記録分解能を劣化させず記録信号を安定化できます。 |
(2) | この技術により、熱ゆらぎによる記録信号の劣化を従来の1/5まで低減できることを実証しました。 |
(3) | この技術を用いた媒体を試作し、開発中のスペキュラー型(*3)GMRヘッド(*4)と組み合わせることで、世界最高の56ギガビット/平方インチの記録密度を実証しました。この記録密度は、3.5インチディスク1枚で78ギガバイト(627ギガビット)もの大容量に相当します。 |
従来の媒体の熱ゆらぎによる限界は、1平方インチあたり100ギガビットと予測されています。本技術を用いた媒体は、構造上から従来に比べ3倍の磁気エネルギーを得ることができるため、TMRヘッド(*5)などの高出力のヘッドと組み合わせることで、1平方インチあたり300ギガビットの記録を実現できるポテンシャルを持っています。
[用語説明]
- *1 インチ
- 1インチ=約2.5センチメートル。
- *2 反強磁性結合
- 鉄やニッケルなどの強磁性材料では、隣り合う原子の磁化は同じ方向に向こうとする力がはたらいています。これに対し、ある種の材料では、隣り合う磁化を逆向きに働かせる力(反強磁性結合力)を持つものがあり、これを反強磁性材料と呼びます。極めて薄膜の導電膜を強磁性膜の間に挟み込むことでも、同様の反強磁性結合力を働かせることができることが知られています。
- *3 スペキュラー型
- GMRヘッドを構成する多層膜の一部に、電子の散乱を高めるスペキュラー膜を設けることで、従来型GMRヘッドに比べデータ読み取り出力を高めることができる新世代のGMRヘッドのことです。
- *4 GMR(Giant Magneto-Resistive:巨大磁気抵抗効果)ヘッド
- 従来のMR(Magneto‐Resistive)ヘッドより読み取り感度に優れ、そのため記憶密度を飛躍的に向上することができるヘッドのことです。MRヘッドでは、媒体上の磁気情報を磁性膜上の磁化の向きにより電気抵抗に変換して読み取っていますが、GMRヘッドでは、磁性膜を2枚使うことにより、2枚の磁性膜の磁化の向きの角度差により大きな抵抗変化を実現し、読み取り感度を高めています。この結果、小さい信号も読み取れるので、一つの信号に必要なディスク面積を小さくでき、記録密度の向上につながります。
- *5 TMR(Tunneling Magneto-Resistive:トンネル効果型MR)ヘッド
- 強磁性トンネル効果(極めて薄い絶縁膜を強磁性薄膜ではさんだ構造において、強磁性膜の磁化の向きに応じて膜厚方向の抵抗値が大きく変化する現象)を利用したヘッドのことです。高出力が期待できるため、50ギガビット/平方インチ以上のヘッドとして期待されています。
以 上
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