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1999-0266
富士通株式会社
平成11年12月8日

論理・記憶の両動作が可能な量子効果トランジスタによるSRAM基本回路の試作に成功

当社はこのほど、論理と記憶の両動作が可能な量子効果トランジスタ「マルチエミッタ共鳴トンネルホットエレクトロントランジスタ」を開発し、それを用いたSRAM基本回路の試作に成功いたしました。1トランジスタによりSRAMの記憶セルを構成できるとともに、デコーダ(*1)などの周辺回路にも適用できるため、SRAMの微細化を可能にする基本的な技術になります。

本研究は、通産省産業科学技術研究開発制度の一環としてNEDOからFEDを通じて委託された「量子化機能素子の研究開発」の成果です。なお、本件は、12月5日から米国ワシントンで開催されている1999 IEDM(International Electron Device Meeting)で発表しました。

[開発の背景]

トランジスタの発明からおよそ半世紀にわたって、トランジスタの高性能化は、素子寸法の微細化によってなされてきましたが、その微細化にも限界が来ると思われます。
そこで、トランジスタの微細化による高性能化以外の方法として、トランジスタの高機能化による高性能化の重要性が、改めて認識されています。

高機能化をはかる手段としては、共鳴トンネル現象(*2)を利用した量子効果素子が有力であると考えられています。当社では、これまでに、共鳴トンネルバリア(*3)を用いた量子効果トランジスタ「共鳴トンネルホットエレクトロントランジス(RHET)」を発明し、さらに、複数の共鳴トンネルバリアからなるエミッタを持つマルチエッミッタRHET(ME-RHET)を開発しています。ME-RHETは、トランジスタ1個で読み書きが随時できる記憶機能や、複数の入力信号が同じか異なるかの比較ができるなどの論理機能を実現できる素子で、それらの試作にも成功しておりました。

しかし、記憶機能を持つME-RHETは、読出しと書込み動作が近い電圧条件であったため動作マージンが小さいという問題、および、ベース層厚が厚かったためトランジスタとしてのゲインがないという問題がありました。そのため、SRAMのような一つの集積回路内に、記憶機能が必要なメモリ部分と論理機能が必要な周辺回路部分に同じトランジスタを適用することは困難でした。

[開発した内容]
ME-RHETの構造を改良し、メモリの新しい読み書き動作モードを導入することで、従来難しかったSRAM回路の記憶・論理回路部分全てを、同一の素子により構成できる新ME-RHETを開発いたしました。開発した主な内容は下記です。
  1. トランジスタのゲインに電圧依存性
    ME-RHETのトランジスタ構造を最適化し、ゲインに電圧依存性を持たせました。その結果、メモリセル部分は低電圧動作による低消費電力化を図り、周辺回路部分はゲインの高い高電圧領域動作による高速化を図りました。

  2. メモリの読み書き動作に新モード
    読み出し動作にはゲインの電圧依存性、書き込み動作には単安定―双安定遷移(*4)とゲインの電圧依存性を用いた新しい動作モードを採用し、動作余裕度の改善をはかりました。

  3. 周辺回路にME-RHETの高機能性を活用
    ME-RHETの多入力論理機能を用い、トランジスタの数を増やすことなくSRAMの大規模化に対応できるデコーダ回路を開発しました。
そして、新ME-RHETを用いた4x4ビットのSRAM基本回路を試作し、77Kにおける動作を確認しました。
現状では、化合物半導体を用いた低温動作の素子であることから、実用化にはさらなる開発が必要ですが、トランジスタ数が多くセルサイズの微細化が困難であるとされているSRAMの微細化を可能にする基本的な技術になると考えています。
[用語解説]
1) デコーダ
mビット符号を入力し、その符号に対応するただ一つの出力信号を1にする回路のことです。
2) 共鳴トンネル現象
ある特定のエネルギーを持った電子、あるいは正孔のトンネル確率が共鳴的に高くなり、障壁を通り抜けられる現象のことです。この現象により、電圧が増加すると電流が減少する負性抵抗が現れます。
3) 共鳴トンネルバリア
異なる半導体の多層の積層構造によって、共鳴トンネル現象を起こす電子障壁層のことです。
4) 単安定―双安定遷移
電圧などによって系の安定状態が一つから二つになる現象。遷移の時に小さな入力でどちらに移るかを用いた論理もあります。

以上


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