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1998-0253
平成10年12月9日
富士通株式会社

新型量子ドットメモリ素子の開発に成功

富士通株式会社は、電子を閉じ込める極限的に微細な半導体の箱である量子ドットを、フローティングゲート(*1)として用いた新型量子ドットメモリセルの作製に成功しました。今回開発した素子は、テラビット級対応の超微細メモリー素子として、21世紀に期待される0.01μmULSI実現のキーデバイスとしての可能性を持つものです。
尚、本研究は通産省産業科学技術研究開発制度の一環としてNEDOからFEDを通じて委託された「量子化機能素子の研究開発」の成果です。

[開発の背景]
量子ドットの大きさは0.01μmで、現在の半導体素子のおよそ1/100の大きさです。これまでに、当社はガリウム砒素(GaAs)基板上に正四面体溝を作り、その溝に半導体積層を成長しこの微細な量子ドットをつくる方法を開発しております(参考1)。この技術では、ドットの位置制御がパターニング(*2)によって可能であるとともに、その大きさは作製時の原料供給量で制御することができるという特徴があります。これらは、高い位置精度と高い均一性が同時に要求される電子デバイスの作製に非常に有利です。この技術は国内大学でも採用され研究が進められております。しかし、今までこの技術を実際に機能するデバイスにまで発展させた例はありませんでした。

[開発した内容]
今回開発した量子ドットメモリ素子は、縦型HEMTのゲートに量子ドットが組み込まれた形となっております。電子がソース電極から正四面体溝の3つの側壁を通り、量子ドットのそばを通り抜けて、ドレイン電極へと流れます。傍らの量子ドットの中に電子閉じ込められていると、電流は僅かしか流れず、量子ドットに電子がいなければ電流は多く流れ、メモリ機能が生まれます。この構造の特徴は、電流が集中する溝の底にフローティングゲートである量子ドットがあるため、フローティングゲート内の電子によって、効率よく電流を変化させることが出来ることです。試作品を評価した結果、140Kの低温下でありますが、メモリ効果による明瞭な電流のヒステリシス特性を観測しました。また、約±1V程度の低い電圧でメモリの書き込み・消去ができ、低消費電力性能も合わせ持つことが分かりました。メモリ保持時間は、100Kで数分程度、77Kでは数時間でした。さらに、保持特性には、電子一つ一つの量子ドットへの出し入れに相当する波形も確認できました。このオンオフ電流差から約10個の電子の蓄積を利用した素子であることが分かりました。デバイス構造の最適化によって、動作温度の高温化と記憶の長寿命化が可能と考えております。
本研究は12月6日からサンフランシスコ・ヒルトンホテルで開催されているIEDM'98(1998 International Electron Devices Meeting)で発表されました。

以上


プレスリリースに記載された製品の価格、仕様、サービス内容、お問い合わせ先などは、発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。あらかじめご了承ください。ご不明な場合は、富士通お客様総合センターにお問い合わせください。

(参考1)
正四面体溝の加工は、面内で結晶が3回対称性を持つ特定な方向で切り出されたGaAs基板を用います。この基板上にパターニング(*2)したシリコン絶縁膜を作製し、これをマスクに特殊な溶液でエッチング(*3)を施した場合、このマスクの開口部に外接する正四面体形になるまでエッチングが進み、その段階でエッチングが自動的に停止するという性質を利用しています。このエッチングによれば、先端が原始レベルで尖った溝を、マスクの形状によらず均一に開けることができます。正四面体溝形成後に、基板加熱温度を最適化した有機金属気相成長法(MOVPE,*4)を用いて、まず、溝の側壁にHEMTのチャネルとなるGaAs層を結晶成長し、次にAlGaAs、InGaAs、AlGaAsを積層成長しています。我々は、この中のInGaAs層では、溝の頂点近傍のインジウム組成(In)が自然に濃くなることを発見しました。この性質を利用し、高さ、幅ともに10mm程度のInGaAs量子ドットを、溝の底付近に形成できました。

(*1)フローティングゲート : 電気的に外部の端子と接続されていないゲートの意味で、情報を記憶する主要部です。電子を貯えておく溜め池のような働きをし、ここに電子がたくさん貯えられている状態とほとんど入っていない状態を、2つの情報(1ビット)に対応させて記憶情報として使います。

(*2)パターニング : 半導体材料の表面に溝を掘ったりアルミの配線を形成するなど、表面を加工する際によく使われる方法です。半導体表面にSiO2(ガラスのこと)の薄い膜を付けておき、この上にレジストと呼ばれる光に反応すると性質が変わる有機膜を薄く塗っておきます。このような表面にあらかじめ微細な図形を書いたガラス板を乗せて、リソグラフィと呼ばれる写真技術を使って、光を当てます。次に、現象と呼ばれる工程で特殊な薬品に半導体を浸すと、レジストの性質によって、光があたった部分のみが薬品に溶けて、ガラス板のパターンが半導体上に転写されます。最終的には、レジストのパターンを利用してSiO2を削ることで、SiO2上に目的の図形を形成します。丁度、日光写真を半導体上で行うのに似ています。

(*3)エッチング : 半導体に、薬品などを利用して穴や溝を形成する工程の総称です。上記のパターニングされた半導体を用意すれば、SiO2膜に穴が開いていて薬品が半導体にしみ込むところだけが部分的にエッチングされます。このようにして半導体表面に特殊な凸凹が作製できます。

(*4)有機金属気相成長法(MOVPE) : ガリウムヒ素のような化合物半導体の薄膜を結晶成長させるのに用いられる一般的な方法です。水素が流れているガラスチューブの中で半導体のウエハ(板)を加熱し、このガラスチューブの中にガリウムの原料ガス(有機金属という)とヒ素の原料ガスを混合して流し、ウエハ上にガリウムヒ素の薄膜を堆積させます。ガス中で結晶成長を行うので気相成長と呼ばれます。この方法は、CDプレーやなどに使われるレーザダイオードなどの半導体デバイスのもとになる結晶の大量生産技術として広く使われています。