[ PRESS RELEASE ] |
![]() 1996-0236 平成8年12月16日 富士通株式会社 |
当社では、このたびギガビットスケールの大規模集積回路を実現するために不可欠な0.1μmクラスのディープサブミクロンMOSFETを高精度に解析できるフルバンドモンテカルロデバイスシミュレータ"FALCON" (Fujitsu Advanced fuLl band ensemble monte Carlo device simulatiON program)を開発いたしました。
モンテカルロデバイスシミュレータは、トランジスタ内部の電子やホールといった電流を担うキャリアの動きを個々の粒子レベルで追いかけ、その集団としての挙動を解析することでデバイスの動作を再現するものです。したがって、個々のキャリア毎に物理的な相互作用をモデル化できるため、キャリアの速度やエネルギ等の物理量について平均量のみを扱った従来のデバイスシミュレータに比べ高精度な解析が可能となります。特にディープサブミクロンMOSFETで顕著になってくるキャリアの速度オーバーシュート効果(注1)や、デバイスの信頼性に影響を及ぼすホットキャリア現象(注2)の解析に威力を発揮します。
しかし、今まで報告されているモンテカルロデバイスシミュレーションプログラムは、数十万個の粒子を扱いかつフルバンド構造に代表されるような高精度な物理モデルを取り込んだ解析を行おうとすると、最新のスーパーコンピュータを駆使しても数十時間以上の計算時間を要し、デバイスエンジニアが手軽に使用できるシミュレータとはほど遠いものでした。
当社がこの度開発したフルバンドモンテカルロシミュレータFALCONはそのような問題点を解決し、物理的に高精度な解析ができるモンテカルロシミュレーションの特徴を保ちながら、通常のワークステーションを用いても1バイアス点(注3)あたり数分のCPU時間でシミュレーションすることが可能になりました。これは、従来の流体モデルをベースにしたデバイスシミュレータとほぼ同等の計算時間であり、ホットキャリアの重要なモニタである基板電流の解析を手軽に行うことができます。
FALCONでは計算時間の短縮を図るため、まず、電流などの知りたい物理量が予め定めた誤差の範囲に落ちつけばすみやかに計算を終了させるような新しい判定アルゴリズムを導入しました。更に、高エネルギー粒子の振る舞いや衝突電離現象のような頻度の少ない現象での解析については、そのような条件に対して粒子の絶対数が少なくなっても統計的な精度を落とさない手法を導入することにより、結果的に短い計算時間でも高精度な解析が実現できるように致しました。
また、物理的に正確なキャリアの動きを記述するために、疑ポテンシャル法により計算したフルバンド構造(注4)を取り込み、キャリア・フォノン散乱、キャリア・不純物散乱、表面散乱、衝突電離散乱等の散乱モデルを取り入れています。
特に、衝突電離散乱モデルは、ホットキャリア現象を解析する上で最も重要なモデルであり、均一電界下での衝突電離係数のみならず、X線による電離スペクトルから得られる量子収率の双方の実験値が再現できるよう物理モデルパラメータをチューニングしています。
その結果、シリコン基板内部での衝突電離現象とMOSFETの基板電流の発生源となる表面での衝突電離現象は、同一の物理モデルで表現できることが確認できました。
この事実は、基板内部と基板表面で衝突電離メカニズムが異なっているという従来の定説をくつがえすものです。
添付図の説明
図はドレイン電極に2.5V, ゲート電極に1.0Vを印加したときのトランジスタ内部の電子の温度分布を示しています。左図は電子の温度分布を2次元的に示したもので、図の縦軸と横軸の単位はμm、また電子の温度はケルビン[K]で表しています。ゲート酸化膜に沿ったドレイン接合端部では高電界が発生しており、そこで加速されることによって電子の温度が4000K以上と非常に高くなっていることがわかります。右図は左図のドレイン端領域を切り出して鳥瞰図で温度分布を示したものです。
以 上 |