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1996-0232
平成8年12月10日
株式会社富士通研究所

高性能システムLSIを実現する配線技術を開発

-- アスペクト比8以上の単結晶アルミニウムプラグを実現 --

株式会社富士通研究所(社長:佐藤 繁,本社:川崎市中原区)は,このほどMPUとDRAMを混載したシステムLSIにおいて最大の課題である混載起因の配線特性劣下を回避できる配線技術を世界で初めて開発しました。
今回開発した技術は、 MPUとDRAMを混載したときに不可欠となる高アスペクト比(8以上)のプラグを、多結晶シリコンと単結晶アルミニウムの置換によって実現するものです。また、多結晶シリコンが埋め込まれてさえいればアルミニウムに置換することが可能であるため、0.1μm以下の微細配線が必要な将来のLSIにも適用することができます。

これからのコンピュータシステムでは、音声や画像などの膨大な量のデータを高速で処理できることが必須となっていますが、LSIを単に微細化・高集積化するだけではこの課題を解決することはできません。このため、DRAMとMPUの混載によるデータ転送時間の短縮化が進められています。しかし、DRAMのキャパシタが配線層中に存在しているため、微細化が進むとMPUのプラグ(縦方向の配線)のアスペクト比(*1)が8以上に増大して、従来のプロセスでは形成できなくなることが予想されています(*2)
したがって、混載したMPUの性能を劣化させないためには、新しい配線形成技術の導入が不可欠となっています。この問題を解決するため,当社は多結晶シリコンプラグを単結晶アルミニウムプラグに置換する配線技術PAS(Polysilicon Aluminum Substitute)を開発しました(*3)
この技術 は,埋め込み能力は優れているが抵抗が高い多結晶シリコンと、抵抗は低いが埋め込み能力に劣るアルミニウムの特長を利用して、アスペクト比が8以上で低抵抗のアルミニウムプラグを形成するものです。
さらに、本技術を用いればアルミニウムプラグを単結晶化できるため、マイグレーション耐性(*4)が向上し、配線の信頼性を大幅に改善することができます。これによって、DRAMとMPUをそれぞれ最高の性能を維持したまま混載することが可能になり、高性能のシステムLSIを実現することができます。
多結晶シリコンの埋め込みと単結晶アルミニウムへの置換は、0.1μm以下のルールでも可能であるため、将来の微細DRAMおよびMPUの混載にも適用が可能です。

多結晶シリコンと単結晶アルミニウムの置換ではまず、プラグを形成するための穴(ビアホール)に化学気相成長法(CVD)で多結晶シリコンを堆積します。つぎに研磨技術を用いて表面を平坦化したあと、その上にアルミニウムをスパッタ法で形成します。多結晶シリコンと単結晶アルミニウムの置換は450℃から500℃で加熱するだけで完了します。最後に、表面に移動したシリコンや残存しているアルミニウムを研磨で除去し、表面を平坦化します。多結晶シリコンに空隙が発生していても単結晶アルミニウムで充填されますので、配線工程での歩留まりを向上させることができます。多結晶シリコンが埋め込まれていれば置換が可能であり、ビアホールの直径が0.17μm,アスペクト比が10の場合でも完全に単結晶アルミニウムに置換することができます(*5)
従来技術の限界であるアスペクト比6を大幅に上回るだけでなく単結晶化できることから、配線の性能と信頼性が大幅に向上します。(従来の配線は、抵抗の高いタングステンや多結晶アルミニウムでした)また、450℃以下の低温でも置換が可能であることが確認できており、各種のLSIに適用することができます。

本技術は、急激に広まりつつあるDRAMとMPUの混載化において、それぞれの性能を低下させることなく混載できるシステムLSI対応プロセスとして期待されます。また、プロセスが単純であること、充填能力が高いことから、メモリやロジックなどの従来の各種LSIにも用いることが可能であり、配線プロセスを共通化することができます。

〔多結晶シリコンと単結晶アルミニウムの置換による配線技術の主な特長〕

なお本研究は、12月10日、米国サンフランシスコで開催される1996IEDM(international electron devices meeting: 開催期間 12月8日から11日まで)で発表いたします。

*1) プラグのアスペクト比
LSIの配線のうち、上下層の配線を接続する縦方向配線をプラグという。また、プラグを形成するための穴をビア ホールという。プラグのアスペクト比はプラグの深さと直径の比で表わされる。微細化するとプラグの直径が小さくなるため、アスペクト比が増大する。
現状のLSIにおけるプラグのアスペクト比は5以下であるが、微細化および混載化とともに急激に増大することが予想されている。

*2) DRAMとMPUを混載したときの配線構造
DRAMのキャパシタのため、層間膜の厚さが増大する。MPUでは上層配線と下層配線を直径が小さいプラグで接続する必要があるため、層間膜が厚くなるとプラグのアスペクト比が増大する(図1)。
従来技術ではプラグの直径を大きくして形成しているため、MPUが微細化できなくなり性能が低下する。

*3) 多結晶シリコンと単結晶アルミニウムの置換技術(PAS technique)
シリコンとアルミニウムは合金化するが化合物を作らないことから、両者を加熱して相互に拡散させたあと冷却すると置換現象が起こる。プラグの中のシリコンは表面付近で析出する。表面にシリコンと化合物をつくる金属(チタン、タングステンなど)を形成しておくと、シリコンがシリサイド化合物として捕獲されるため、置換が起こりやすくなる。
(図234)。

*4) マイグレーション耐性
配線を構成する金属原子が移動することをマイグレーションという。配線が局所的に細くなり断線に至ることから、配線の信頼性に大きな影響を与える。マイグレーション耐性を向上させるためには、配線を単結晶化することが有効である。また、タングステンや銅などマイグレーション耐性に優れた材料を用いることも有効である。

*5) 置換技術の微細化限界
多結晶シリコンが埋め込まれていれば、単結晶アルミニウムで置換することができる。
多結晶シリコンの埋め込み能力は非常に高いため、0.1μm以下のビア・ホールでも置換技術が適用でき、単結晶アルミニウムのプラグを形成することが可能である(図5)。


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