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PRESS RELEASE (技術)

2018年12月7日
株式会社富士通研究所
学校法人早稲田大学

人間行動シミュレーションから混雑原因を短時間で発見する技術を開発

空港全体の混雑原因を数分で発見でき、有効な緩和施策を提案

株式会社富士通研究所(注1)と学校法人早稲田大学(注2)理工学術院高橋真吾教授は、人間行動シミュレーションの結果から混雑につながる原因を自動で分析する技術を開発しました。

人間の行動をエージェントとしてモデル化する人間行動シミュレーションは、現在、緊急時の避難行動の予測や都市計画時の人の動線確認などで活用されています。その中でも、混雑予測のシミュレーションでは、大量のシミュレーション結果から専門家が混雑の原因を分析し一つずつ検証していくため、多大な時間がかかる上、原因の見落としが発生することが課題となっています。

今回、数千から数万のエージェントがそれぞれとった行動や経路の結果を1つ1つ項目として羅列せずに、ある程度共通する項目でグルーピングし、少数の項目の組合せでエージェントの特徴を表現することで、混雑に関わったエージェントの特徴を抽出しやすくする混雑原因発見技術を開発しました。これにより、様々な人の属性や行動パターンにあわせた混雑緩和の対策が可能となります。

本技術により、インバウンド増加や都市集中型による商業施設やイベント会場などの混雑への緩和策をいち早く検証でき、快適で安全な社会に貢献します。

本技術の一部は、12月9日(日曜日)からスウェーデンのヨーテボリで開催される国際会議「WSC 2018 (Winter Simulation Conference)」にて発表します。

図1. 空港内の混雑を予測する人間行動シミュレーション画面
図1. 空港内の混雑を予測する人間行動シミュレーション画面

開発の背景

イベント会場や空港、ショッピングモールなど、多くの人が集まる場では、しばしば混雑による顧客満足度や売上の低下が問題となります。現状では、入退場や支払いなどへの設備・対応人員の増強以外に、案内板の設置やクーポン配布による空いている場所や時間に誘導する方法などで混雑の緩和を図っています。しかし、より効果的な対策を行うためには、どのような属性の人々がどのような情報を認知し、どのような行動をとるかを知り、効果的な混雑緩和の手法を採ることが重要です。

現在、多様な人々の属性や認知、行動を表現したエージェントモデルを構築し、計算機上で混雑状況を仮想的に模擬することで、混雑が生じる原因の分析と施策の評価を行う人間行動シミュレーションが注目されています。これまで富士通研究所および富士通株式会社は、国内外で16件の特許出願を行うなど、精緻なシミュレーションを可能にするエージェントのモデルに関する研究を進めてきました。また、早稲田大学高橋研究室では、組織システム、消費者行動、企業戦略など、様々な社会システムの課題解決のためのエージェントベースシミュレーションを開発してきました。

課題

人間行動シミュレーションでは、数千以上のエージェントが、それぞれ年齢、性別、来場目的などの多くの属性を持ち、案内板などから経路や混雑の情報を認知しながら目的地と経路を選択、移動するといった行動をとることで、多様な混雑を生み出します。

従来は、専門家がシミュレーションによる大量のデータを分析し、知見やノウハウに基づいた混雑原因と対策の仮説を立て、再度シミュレーションにかけて検証するという試行を繰り返していました。そのため、原因を分析して施策を決定するまで数カ月かかるほか、原因の見落としにより有効な施策を見つけられないといった問題が起きています。

開発した技術

人間行動シミュレーションから、混雑に関係するエージェントの特徴を、網羅的に自動分析する混雑原因発見技術を開発しました。

従来は、食事をする、A地点での案内板を見るなど、数十以上の項目で表現されるエージェントの属性、認知、行動に関するデータを、すべて組合せてエージェントの特徴として表していたため、膨大な組合せパターンが発生していました。今回、共通要素が含まれる項目を属性、認知、行動の観点からグルーピングした上で、グループごとにエージェントの特徴をクラスタリングすることにより、組合せパターンを減少させることが可能になります(図2)。これにより、ある部分で発生した混雑の原因を探りたい場合に、どのような属性の人々に対して、どのような認知や行動を変化させる施策が有効であるかといった、施策に直結する原因を網羅的に発見することが可能になります。

図2. 属性、認知、行動の関係に基づく網羅的な混雑原因を発見
図2. 属性、認知、行動の関係に基づく網羅的な混雑原因を発見
拡大イメージ

たとえば、複合施設で起きた店舗Aと店舗Bの混雑に対して、店舗Aの混雑は認知に着目すると案内板の集客効果が原因であり、店舗Bの混雑は行動に着目するとレストラン利用客のまとまった来客が原因であると特定できます(図3)。これにより、店舗Aの混雑は利用者のもう一つの目的であるATMへ誘導する案内板により集客を分散させる施策が有効であり、店舗Bの混雑にはスタッフを増員し処理速度を上げる施策が有効であると判断できます。

図3. 本技術による混雑の原因発見と施策例
図3. 本技術による混雑の原因発見と施策例
拡大イメージ

効果

空港の混雑緩和施策分析を目的として2015年に開発した人間行動シミュレーション(注3)に本技術を適用し、効果を検証しました。その結果、専門家の分析と比較して、約4倍の混雑原因を発見することができました。たとえば、保安検査の混雑分析では、旅客が特定のチェックインカウンターで滞留することに起因して保安検査の突発的な混雑が生じることを新たに発見しました。本技術により発見された混雑原因に基づき施策を導出したところ、専門家分析の結果から導出した施策に比べて、保安検査の待ち人数を6分の1に削減し、施策実施に必要な人員数を3分の2に抑える効果があることをシミュレーション上で確認しました。また、分析時間も数カ月から数分へと大幅に短縮できました。

今後

本技術を用いて、イベント会場や空港、ショッピングモールなどでの混雑に対し実証を進め、デジタルサイネージやテナント配置などの効果も含めて検証していきます。また、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」とスーパーコンピュータ技術を活用し、都市の状況をリアルタイムに把握するサービス「FUJITSU Technical Computing Solution GREENAGES Citywide Surveillance(グリーンエイジズ シティワイド サーベイランス)」(注4)との連携を通じて、混雑の将来予測ソリューションの早期提供を目指します。早稲田大学は、混雑に限らず、人間行動を含む社会・市場・組織における複雑な現象を分析し、問題解決を図るためのシミュレーション技法の確立を目指します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木繁。
注2 学校法人早稲田大学:
所在地 東京都新宿区、総長 田中愛治。
注3 空港の混雑緩和施策分析を目的として2015年に開発した人間行動シミュレーション:
福岡空港での実証実験で作成したシミュレーションを使用。2015年9月10日プレスリリース
注4 FUJITSU Technical Computing Solution GREENAGES Citywide Surveillance

本件に関するお問い合わせ

早稲田大学
理工学術院教授 高橋真吾
電話 03-5272-4544(直通)
メール shingo@waseda.jp

株式会社富士通研究所
人工知能研究所
電話 044-754-2328(直通)
メール abss@ml.labs.fujitsu.com


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