PRESS RELEASE
2018年7月31日
慶應義塾大学医学部
富士通株式会社
慶應義塾大学医学部と富士通、AIによる診療支援を実現する技術を開発
慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(システム医学)の洪繁准教授、放射線科学(診断)の橋本正弘助教らの研究グループと富士通株式会社(以下 富士通、注1)は、慶應義塾大学メディカルAIセンター(注2)において、2018年1月から3つの研究テーマを掲げた臨床データのAI活用に向けた共同研究を開始し、このたび研究テーマの1つである診療支援のためのAI技術を開発しました。
本共同研究では、慶應義塾大学病院の診療記録、検体検査、画像検査、画像検査報告書などのさまざまな臨床データに対して、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」を適用し、より良い医療の実現に向けた研究を行っています。
今回、放射線科医が読影(注3)した画像検査報告書に、自然言語処理と機械学習が可能なAI技術を適用し、入院などの要否を分類する学習済モデル(注4)を新たに開発しました。入院や手術、他科への診療依頼などを助言する本研究の応用により、画像検査報告書などの内容からAIが緊急性を分析し、治療を優先すべき検査結果を主治医に通知する診療支援ができ、これまで以上に適切かつ迅速な対応が可能な医療体制の構築が期待されます。
慶應義塾大学医学部と富士通は、2020年までの共同研究において、本成果の精度をさらに高めるとともに、臨床データを時系列で解析することで、薬剤の副作用を回避する最適な服薬法を提案するシステムなどについても研究を進めていきます。
背景
2016年11月に開催された内閣未来投資会議では、イノベーションへ向けた社会実装の優先課題として、膨大な健康・医療データを治療や予防に活用するための基盤整備の構築、人工知能(AI)を活用した医療診断支援などが挙げられています。しかし、診療支援に向けた臨床データへのAI活用については、画像検査を対象とした解析では高い効果が得られることが国内外でいくつか報告されているものの、医師による所見などの自然言語データや、データの時系列解析などについては、実用化に向けさらなる研究が必要とされています。また、模擬データではなく「実際のデータ」で学習させることや、「データのボリュームを増やすこと」が、AIの精度を向上させるために重要であると考えられています。
慶應義塾大学医学部と富士通は、慶應義塾大学病院において2012年から導入している富士通の電子カルテに蓄積された膨大な臨床データに、AI技術を適用する共同研究を2018年1月より開始しました。そして、このたび、3つの研究テーマの1つである診療支援のためのAI技術を開発し、その有用性を確認しました。
今回の研究成果
- 研究内容
開発されたAI技術は、医師の所見などの文章形式のデータ(テキストデータ)に、自然言語処理技術を用いて前処理を施した上で機械学習を適用し、入院や手術、他科への依頼などの対応が必要な症例を分類します。今回、放射線科医が読影した画像検査報告書に対して本AI技術を活用し、高い精度で入院依頼の必要な症例の分類に成功しました。本研究の応用により、検査結果や検査報告書が出た時点で優先度をAIが推測し、担当医に通知する診療支援ができ、適切な対処を迅速に行う医療体制をサポートすることが期待されます。また、対処を要する状態の患者に適切な対処が行われていないことを検出し、医療安全へ応用することも視野に入れています。
- 適用・開発した技術
- 自然言語処理技術(適用)
放射線科医が読影した画像検査報告書のテキストデータを以下の技術の適用により解析し、機械学習に用いることのできる形式に変換します。
- 診療支援の学習済モデル(開発)
1. の技術で前処理した医師の所見と、それに対する入院依頼などに関する医師の対応について機械学習を適用し、新規の症例(入力データ)に対しどのような医師の対応が必要か分類する学習済モデルを開発しました。
図.診療支援に適用したAI技術について
- 自然言語処理技術(適用)
- 今後
今回開発した診療支援のためのAI技術は、画像検査報告書という実際の診療データの解析で、その有用性が確認されました。今後は、さらに機械学習の精度を高め、医療現場での実用化に向けて検証を行っていきます。同時に、学習済モデルのAPI(注7)化を進めることで電子カルテシステムとの連携を図ります。
臨床データのAI活用に向けた共同研究の全体概要
- 研究期間
2018年1月から2020年3月(予定)まで
- 研究テーマ
- 医師により記載された自然言語から治療などの緊急性を分類(今回)
- 画像解析から新たな診療指標を確立
- 臨床データの時系列解析による、薬剤の副作用を回避するための最適な服薬法の予測、新規バイオマーカー(注8)の探索
- 役割分担
- 慶應義塾大学医学部
- 計算機環境の提供
- 臨床データの匿名化
- 計算の実行(学習と評価)
- 計算結果の検証
- 富士通
- 計算機環境の整備
- データ加工プログラムの提供
- 計算の技術的支援
- 計算結果の検証に対する技術面での助言と支援
- 慶應義塾大学医学部
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 富士通株式会社:
- 本社 東京都港区、代表取締役社長 田中達也。
- 注2 メディカルAIセンター:
- AIの医療応用を推進する目的で慶應義塾大学医学部が中心となり、複数学部が参加して設置。
- 注3 読影:
- 主治医から出された依頼(症状説明、病歴・家族歴など)をもとに、適正な検査(CT、MRI、超音波検査、一般撮影など)を判断し、その検査画像から画像診断を行い、今後の検査や治療方針の助言を行うこと。
- 注4 学習済モデル:
- AIのプログラムの一種であるニューラル・ネットワークの構造と各ニューロン間の結びつきの強さであるパラメータ(係数)の組み合わせのこと。
- 注5 形態素解析:
- 自然言語のテキストデータを、意味を持つ最小単位で分割すること。
- 注6 データクレンジング手法:
- データを扱いやすくするため、データの表記や形式を統一すること。
- 注7 API:
- Application Programming Interfaceの略。外部のサービスとシステム連携をするためのプログラムやインターフェース。
- 注8 バイオマーカー:
- 血液や尿などに含まれる生体内の物質で、病気の有無や進行、治療に対する反応に相関し指標となるもの。
関連リンク
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