PRESS RELEASE
2018年6月21日
富士通株式会社
理化学研究所
ポスト「京」開発状況について
CPUの試作チップが完成、機能試験を開始
富士通株式会社(代表取締役社長 田中達也、以下「富士通」)と理化学研究所(理事長 松本紘、以下「理研」)は共同で、文部科学省がスーパーコンピュータ「京」(以下「京」)の後継機として推進するポスト「京」の開発を、2021年頃の共用開始を目指して進めています。このたび、富士通はポスト「京」の中核となるCPUの試作チップを完成し、機能試験を開始しました。
ポスト「京」は科学技術のみならず様々な社会課題の解決に向け、幅広いアプリケーションの性能を引き出す世界最高水準のスーパーコンピュータを目指しています。その実現に向け、CPUには広く普及しているArm®命令セットアーキテクチャ(ISA:Instruction Set Architecture)を採用し、スーパーコンピュータ向けに新たに策定された拡張命令を実装しました。さらに、「京」で実現された高いメモリバンド幅と倍精度演算性能をより強化するとともに、AIなどの分野で重要となる半精度演算にも対応しました。今回、このように設計したCPUの試作チップにおいて初期動作を確認したことで、システム開発における重要なマイルストーンを順調にクリアしたこととなります。
富士通と理研は、今後も引き続きポスト「京」の完成、共用開始に向けて開発を進めていきます。
なお、ポスト「京」の試作機は、ドイツにて2018年6月24日(日曜日)から28日(木曜日)まで開催される、世界的なハイパフォーマンスコンピューティングに関する国際会議・展示会「ISC2018」にて出展します。
背景
富士通と理研は2006年より「京」を共同で開発し、2012年に完成、共用が開始されました。「京」はスーパーコンピュータの実用面を示す主要な性能指標で現在でも世界トップの性能(2017年11月のランキング)を有しており、先端的研究において不可欠な研究開発基盤として運用されています。
ポスト「京」は、この「京」の後継機であり、様々な科学的・社会的課題を解決する先端研究開発基盤および今後我が国が目指す新たな人間中心の社会"Society 5.0"(注1)の実現を支える重要な基盤としても期待されています。
富士通は2014年10月から理研と共に基本設計を開始、様々な分野のアプリケーション開発者と協調設計(コ・デザイン)を実施しつつ、試作・詳細設計を進めています。
ポスト「京」の開発状況
ポスト「京」の中核となるCPUには、より幅広いユーザー層による利用を想定し、広く普及しているArm Limited社(以下「アーム」)のArmアーキテクチャを採用しました。それに加え、富士通はアームとの協業によりHPC(High Performance Computing)システムのベクトル処理能力を大幅に拡張するArmv8-Aアーキテクチャの拡張命令セットアーキテクチャ(SVE:Scalable Vector Extension)の策定に貢献するとともに、その成果を採用しました。ポスト「京」は、このアーキテクチャに準拠する、世界初のハイエンドCPUを搭載したスーパーコンピュータとなります。また、ポスト「京」は、コンピュータシミュレーションなどで重要となる倍精度演算に加え、ディープラーニングなどで重要となる半精度演算にも対応でき、AI分野への利用拡大も期待されます。
富士通は今回、CPUの試作チップを完成させ、初期動作の確認を行い、機能試験を開始しました。今後も引き続き、理研と共にさらなる開発を進めていきます。
ポスト「京」のシステム概要について
富士通と理研は、可用性と実行性能で実績がある「京」の技術をさらに向上させ、幅広いアプリケーションソフトウェアを利用できる世界最高水準のスーパーコンピュータとしてポスト「京」を開発しています。
中核となるCPUは、Armv8-A SVEアーキテクチャを採用しつつ、「京」を含むこれまでのスーパーコンピュータ開発で富士通が培ったマイクロアーキテクチャ(ハードウェアの設計)を継承し、高性能積層メモリと相まったメモリバンド幅と演算性能を備え、アプリケーションの実行性能が高いレベルで実現できるように最適化しています。
さらに、最先端の半導体技術を用いることと、省電力設計および電力制御機能を盛り込むことで、高い消費電力あたり性能を実現します。
ポスト「京」のプログラム開発環境を含むシステムソフトウェアは、「京」と互換性のあるものを富士通が継続して提供します。言語仕様とマイクロアーキテクチャに継続性があることにより、「京」で蓄積されたプログラム資産は、リコンパイルすることで確実な移行と性能確保が可能となります。また、理研で開発しているシステムソフトウェアMcKernel、XcalableMP、FDPS(Framework for Developing Particle Simulator)も利用でき、さらなる実行性能・利便性の向上に役立つものと考えています。
ポスト「京」で採用するArmアーキテクチャは、幅広い開発者・ユーザーに受け入れられています。このコミュニティへの参加により、ポスト「京」でもオープンソースソフトウェアなどを含めたソフトウェア資産が広く利用可能になります。また、ポスト「京」の成果や技術をコミュニティにフィードバックすることで、Armアーキテクチャによるエコシステム形成にも貢献できると考えています。
ポスト「京」を活用することで、先端的な研究成果を生み出し、健康長寿、防災・減災、エネルギー、ものづくり分野などの社会的・科学的課題の解決や、産業競争力の強化に貢献することを目指して、開発を進めていきます。
<システムの特徴>
1.消費電力性能、2.計算能力、3.ユーザーの利便・使い勝手の良さ、4.画期的な成果の創出、それぞれを世界最高水準で備え、世界の他のシステムに対して総合力で卓越するシステムです。また、システムとアプリケーションを協調的に開発し、世界最高水準の汎用性と、最大で「京」の100倍のアプリケーション実行性能と、30~40MWの消費電力(参考:「京」12.7MW)を目指します。
<ポスト「京」の主な仕様>
項目 | 内容 | |
---|---|---|
CPU | 命令セットアーキテクチャ | Armv8-A SVE (512bit) |
コア数 | 計算ノード: 48コア + 2アシスタントコア I/O兼計算ノード: 48コア + 4アシスタントコア |
|
インタコネクト内蔵 | Tofu(6D Mesh/Torus) | |
システム構成 | ノード | 1CPU/ノード |
ラック | 384ノード/ラック | |
ソフトウェア | OS | Linux(RHEL系)+McKernel (Lightweight Kernel) |
システムソフトウェア | FUJITSU Software Technical Computing Suite後継 | |
グローバルファイルシステム | FEFS (Lustreベース) | |
言語 | FUJITSU Software Technical Computing Language 後継 (Fortran/C/C++、OpenMP、MPI)、XcalableMP |
|
ライブラリ・フレームワーク | FDPS(Framework for Developing Particle Simulator) |
<ポスト「京」で取り組む研究課題>
ポスト「京」は、以下のとおり、重点的に取り組むべき社会的・科学的課題(重点課題、萌芽的課題)を中心に、世界を先導する成果の創出が期待されています。そのため、ポスト「京」のシステム開発においては、これらのアプリケーションの開発者との協調設計(コ・デザイン)を実施し、幅広い利用分野において優れた性能を発揮することを目指しています。
- 重点課題
- 生体分子システムの機能制御による革新的創薬基盤の構築
- 個別化・予防医療を支援する統合計算生命科学
- 地震・津波による複合災害の統合的予測システムの構築
- 観測ビッグデータを活用した気象と地球環境の予測の高度化
- エネルギーの高効率な創出、変換・貯蔵、利用の新規基盤技術の開発
- 革新的クリーンエネルギーシステムの実用化
- 次世代の産業を支える新機能デバイス・高性能材料の創成
- 近未来型ものづくりを先導する革新的設計・製造プロセスの開発
- 宇宙の基本法則と進化の解明
- 萌芽的課題
- 基礎科学のフロンティア - 極限への挑戦
- 複数の社会経済現象の相互作用のモデル構築とその応用研究
- 太陽系外惑星(第二の地球)の誕生と太陽系内惑星環境変動の解明
- 思考を実現する神経回路機構の解明と人工知能への応用
富士通、理研、アームからのコメント
富士通株式会社 サービスプラットフォーム部門長 執行役員専務 河部本章 (かべもと あきら)のコメント
今回、ポスト「京」開発の着実な進捗を発表でき、大変うれしく思います。富士通はこれまで40年以上にわたり、世界トップレベルのスーパーコンピュータを開発・提供してきました。スーパーコンピュータは、シミュレーションを通じて科学技術の発展に貢献するのみならず、AIなど活用領域も広がっており、社会インフラとしての重要性を増しています。ポスト「京」では、我々がこれまで培ってきたあらゆる先端技術を結集し、世界最高のスーパーコンピュータを実現することで、人間中心の豊かで夢のある未来の実現に貢献していきたいと思います。
理化学研究所 計算科学研究センター センター長 松岡聡(まつおか さとし)のコメント
ポスト「京」のプロセッサは、高性能計算に適したアーキテクチャを富士通と理研R-CCSがコ・デザインしたことにより、(1) 多くのスパコンのアプリケーションにおいて従来型の汎用サーバプロセッサを遥かに凌駕する性能を発揮しつつ、(2)Arm命令セットの採用により幅広いソフトウェアのエコシステムを活用して利活用性を著しく高め、かつ(3)単にシミュレーションだけでなく、Society5.0における人工知能・機械学習、セキュリティ・ブロックチェーン、ビッグデータ・IoTにおける幅広い分野におけるトップクラスの性能を発揮することが期待できます。これにより、ポスト「京」が国民の皆様の関心事に応える世界トップの性能に貢献するのみならず、我が国の半導体テクノロジーの復興を象徴する存在となると確信しています。今回、試作CPUの初期動作が予定どおりに確認されたことは、2021年頃のポスト「京」の共用開始、またその後の発展に向けた大きなステップをクリアしたことになります。引き続き、理研R-CCSは世界のトップスパコンたるポスト「京」の早期稼働に向け、関係各所と協力し一層の研究開発をまい進していく所存です。ぜひご期待ください。
Arm Limited社 インフラストラクチャ事業担当シニア・バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャー Drew Henry氏のコメント
アームは、富士通および理化学研究所と密に連携し、Armv8-A SVEアーキテクチャのHPCエコシステム構築に取り組んでおり、Armテクノロジーによるベクトル処理を次のレベルへと進化させるために協業してきました。この協業は、ポスト「京」の設計から最大限の成功を引き出すための継続的な取り組みであり、今後HPCをはじめ、その他潜在的に求められるより広範な用途に向けてArmベースのテクノロジーを展開するための重要なステップでもあります。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
関連リンク
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