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PRESS RELEASE (技術)

2017年11月30日
株式会社富士通研究所

世界最高の放熱性能を持つ純カーボンナノチューブ放熱シートの開発に成功

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、高熱伝導性と耐熱性を両立する垂直配向カーボンナノチューブから構成された、世界最高の放熱性能を持つ高熱伝導カーボンナノチューブシートの開発に成功しました。

電気自動車の急速な発展に伴い、高電圧下で電力を制御する車載パワーモジュールには低消費電力・高耐圧が求められており、モジュールの小型化に伴う高温動作への信頼性確保も同時に必要とされています。これに対して、低消費電力・高耐圧の特徴をもつシリコンカーバイド(炭化ケイ素、SiC)がシリコン(Si)に置き換わり利用されつつありますが、200℃以上の高温領域でも安定動作させるため、SiC素子の熱を効率良く排熱する必要があります。

今回、高い熱伝導性をもつ素材として知られる円筒状構造のカーボンナノチューブの製造プロセスにおいて、熱伝導性が高い円筒の軸と排熱方向を合わせるため、製造条件である温度と圧力の組み合わせを最適に制御することで、カーボンナノチューブを、垂直方向に高密度かつ均一に成長させる、カーボンナノチューブ成長制御技術を開発しました。また、SiCを用いたパワーモジュールの排熱に利用するために、配向成長したカーボンナノチューブを2000℃以上の高温で加熱処理することでシート状に成形し、可搬を容易とするカーボンナノチューブシート化技術の開発に成功しました。本技術により作製した放熱シートは、既存のインジウムを原料とする放熱材料と比べて約3倍の放熱性能であり、カーボンナノチューブ放熱シートとして世界最高の放熱性能を確認しました。

今後、本技術を次世代自動車向け放熱材料として2020年以降の製品化を目指すとともに、次世代HPCや次世代通信機器への適用など、新たな分野への展開も検討します。

本技術の詳細は、11月26日(日曜日)から12月1日(金曜日)まで米国ハワイ島で開催されている国際会議「WINDS2017(2017 Workshop on Innovative Nanoscale Devices and Systems)」にて発表します。

開発の背景

世界的な二酸化炭素排出量削減に関する環境規制を背景に、電気自動車やハイブリッド自動車は今後急速に普及することが予想されています。電気自動車やハイブリッド自動車で使用される電力制御装置であるパワーモジュールでは従来Siを用いた素子が使用されてきましたが、ガソリン車並の長い航続距離などのニーズから一層の消費電力低減が求められており、Siの代替となる素子材料の一つとして、より低消費電力で高耐圧かつ高温環境下で使用可能なSiCの開発が進められています。同時に200℃以上の高温領域でも安定動作するSiC素子の熱を効率良く排熱するため放熱材料を含む周辺部品にも高熱伝導や高温耐性が要求されています。

カーボンナノチューブは炭素原子から形成された直径数ナノメートル程度の円筒状のナノテク材料の一つであり、銅のおよそ10倍の熱伝導性や5000倍の電流密度耐性といった優れた特性に注目が集まり、様々な応用展開が進められており、車載向けをはじめとする次世代の放熱材料の候補として期待されています(図1)。

図1 カーボンナノチューブを放熱材料として適用した場合のイメージ
図1 カーボンナノチューブを放熱材料として適用した場合のイメージ

課題

カーボンナノチューブは高い熱伝導性を持つため、シート化することで放熱材料としての活用が期待されますが、本来の特性を十分に活用するためにはまだ課題があり、従来材料との複合など簡易的な応用への適用にとどまっていました。

  1. 円筒状構造のカーボンナノチューブは、金属材料からなる直径数ナノメートルの微粒子を種とし、カーボンをガスとして供給することで、各微粒子からカーボンナノチューブを成長させる化学気相成長という製造方法により基板上に生成します。ここで、触媒微粒子の大きさの分布、供給するガスの濃度、そして基板面内や基板同士の温度にバラつきがあると、特に大面積基板のような広い範囲で生成した多層カーボンナノチューブの長さや密度が不均一となるため、製造プロセスにおいて常に安定した合成条件を見出す必要がありました。
  2. 生成した基板上の多層カーボンナノチューブは基板から剥がすと形状が保持できず不安定なため、樹脂やゴムなどの固定素材に混ぜ込んでシート化する手法が一般的に用いられています。しかし、低熱伝導な固定素材の影響で耐熱性・熱伝導性が悪化するため、固定素材を使わずシートとして強度を向上させる必要がありました。

開発した技術

今回2つの技術を開発することで、界面抵抗を含めた場合でも80ワット毎メートル毎ケルビン(以下、W/mK)以上と従来の放熱材料に比べ極めて高い熱伝導率を示す高熱伝導カーボンナノチューブシートを実現しました。

開発した技術の特長は以下のとおりです。

  1. 多層カーボンナノチューブ成長制御技術

    熱伝導性が高くなるカーボンナノチューブの円筒の軸方向を排熱方向に合わせるために、カーボンナノチューブの製造プロセスにおいて、カーボンナノチューブの合成温度や圧力が触媒金属微粒子に対して最適になるように制御し、原料ガス供給源の位置を基板に応じて調整することで、垂直方向に配列したカーボンナノチューブを高密度かつ均一に成長させる技術を開発しました(図2)。

  2. 多層カーボンナノチューブシート化技術

    製造したカーボンナノチューブを2000℃以上の高温で加熱処理することで熱伝導性が高い軸方向にカーボンナノチューブの配列を保持したままカーボンナノチューブをシート状に成形する技術を開発しました。これにより、樹脂やゴムなどの固定材を使わずに、高耐熱かつ高熱伝導の純カーボンナノチューブシートを実現しました(図2)。

図2 200mmシリコン基板全面に合成した多層カーボンナノチューブ(左)とカーボンナノチューブシート(右)
図2 200mmシリコン基板全面に合成した多層カーボンナノチューブ(左)とカーボンナノチューブシート(右)

図3 カーボンナノチューブ放熱シートとインジウムを含む一般的放熱材料の特性比較表
図3 カーボンナノチューブ放熱シートとインジウムを含む一般的放熱材料の特性比較表

効果

本技術を適用したカーボンナノチューブ放熱シートは、既存の高熱伝導材料として知られるインジウムを原料とする放熱材料と界面抵抗も含めた実測値で比較した結果、およそ3倍の熱伝導率を確認しました(図3)。また、インジウムの融点は160℃程度ですが、本放熱シートの耐熱温度が700℃以上と、高い耐熱性も確認しました。これにより、次世代電気自動車やハイブリッド自動車の車載パワーモジュールを効率良く冷却することが可能となります。

今後

富士通研究所では、カーボンナノチューブ放熱シートの熱伝導性をさらに高め、実用化に向けた開発を進め2020年度以降での車載向け放熱シートの製品化を目指すとともに、次世代HPCや次世代通信機器への適用など、新たな分野への展開も検討します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木繁。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
デバイス&マテリアル研究所
電話 046-250-8238
メール nanocarbon@ml.labs.fujitsu.com


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