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PRESS RELEASE (技術)

2017年10月10日
株式会社富士通研究所

5Gスモールセル向け基地局の低消費電力技術を開発

駅前やスタジアムにも設置可能な10W程度の低消費電力で高速通信が可能に

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、第5世代移動通信方式(5G)で要求されている毎秒10ギガビット(以下、Gbps)超の高速通信を、Wi-Fiアクセスポイント並みの低消費電力で実現できる基地局向けミリ波回路技術を開発しました。

128個といった多数のアンテナ素子を格子状に並べて、それぞれのアンテナ素子への信号の位相を制御することで電波を特定の方向だけに集中させるミリ波ビームフォーミング技術において、富士通研究所ではこれまで、不要な電波干渉をキャンセルさせるように信号を符号化することにより、高速通信と低消費電力を両立させるサブアレイ間符号化技術を開発しています。今回、アンテナ素子への信号の位相を制御する、フェーズシフタと呼ばれる回路を構成するアンプの数を削減し、回路の電力ロスを最小化するミリ波回路技術を開発することにより、フェーズシフタ部分の消費電力について、128個のアンテナ素子の場合に、従来比で半減となる3Wとすることに成功しました。

本技術と開発済みの技術を組み合わせることで、駅前やスタジアムなど人が集まる場所で小型の5G基地局によるミリ波の高速通信が可能になります。

本技術の詳細は、10月8日(日曜日)から13日(金曜日)まで、ドイツのニュルンブルグで開催中の「European Microwave Week 2017(EuMW 2017)」にて発表します。

開発の背景

近年、2020年頃の実用化を目指して第5世代移動通信方式(5G)の研究・開発が世界各国で進められています。5Gの要件の1つである10Gbps超の高速・大容量通信を実現するために、広い周波数帯域幅が利用可能なミリ波帯が活用される見込みです。期待されるシーンの一例として、スタジアムにおいて、それぞれの利用者が個別にゴールシーンや様々なスタジアム内の状況を高精細映像で視聴できるサービスなどが想定されています。

図1 5Gの大容量・高速無線
図1 5Gの大容量・高速無線

課題

ミリ波は、高速・大容量通信が実現できる一方で、直進性が高く、障害物などに対して回り込みが少ないため、多くの人が集まる場所では、数10mの間隔で基地局を設置するスモールセルと呼ばれる方式での利用シーンが想定されています。それぞれの基地局では、多数のアンテナ素子を利用して電波を所望の方向に集中させるビームフォーミングと呼ばれる技術を用いて、ビームを分割多重して同時に複数のユーザーと通信を行う技術が必要となります。

富士通研究所では、既にこのビームフォーミング技術において、アンテナアレイの消費電力を削減するサブアレイ間符号化技術を開発(注2)して、高速・大容量でありながら低消費電力を実現していますが、駅前やスタジアムなど、人が集まるところに多数の基地局を設置するためには、Wi-Fiアクセスポイント並みの10W程度に抑えることが課題でした。

開発した技術

今回、アンテナ素子への信号の位相を制御する、フェーズシフタと呼ばれる回路を構成するアンプの数についてスイッチ回路と差動アンプを組み合わせることにより削減しつつ、回路の電力ロスを抑える新しいミリ波回路により、フェーズシフタ部分の消費電力を半減させる技術を開発しました。

フェーズシフタは各アンテナ素子への入力信号の位相を0度から360度の範囲で調整することにより、アンテナアレイから出力されるビームの方向を決める回路であり、従来、フェーズシフタごとに4つのアンプが必要でした。

今回、入力信号の±の符号により出力位相を0度と180度に切替え、また90度と270度に切替えることができるスイッチ回路を新たに開発することにより、アンプの数を2つに減らすことに成功しました。また、ビーム間の干渉を低減するために、フェーズシフタに実際に設定された位相と振幅を測定し、ずれを補正する機能を持たせることで、低消費電力と高精度なビーム方向の制御を実現しています。

図2 スモールセル向け基地局の無線部機能ブロック図
図2 スモールセル向け基地局の無線部機能ブロック図

図3 従来のフェーズシフタ
図3 従来のフェーズシフタ

図4 開発したフェーズシフタ
図4 開発したフェーズシフタ


図5 開発したフェーズシフタのチップ写真
図5 開発したフェーズシフタのチップ写真

効果

本技術により、128個のアンテナ素子の場合、フェーズシフタ部の消費電力について従来比で半減となる3Wを実現しました。本技術と開発済みの技術を組み合わせることで、10Gbps超の高速通信を、Wi-Fiアクセスポイント並みの10W程度の低消費電力で可能とし、基地局を狭いエリアに多数設置することによって、多くの利用者が集まる駅前やスタジアムといった場所でも、利用者あたりの通信速度低下を最小限に抑えた、快適な通信環境を構築できます。

今後

富士通研究所は、スモールセル向け基地局の実用化に向けた装置開発および実証実験を行い、富士通株式会社での2020年頃の製品化を目指します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木 繁。
注2 サブアレイ間符号化技術を開発:
ビームフォーミングの技術において、デジタル回路とアナログ回路の両方で制御することで回路の数を減らし消費電力を抑えることができるハイブリッド方式は、複数の端末に向けた電波が干渉し通信速度が低下する課題があったが、この干渉を低減して通信速度の低下を抑えながら、低消費電力を実現する技術を開発。(2016年9月6日プレスリリース

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ネットワークシステム研究所
電話 044-754-2647(直通)
メール mm-wave@ml.labs.fujitsu.com


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