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PRESS RELEASE (技術)

2017年5月29日
株式会社富士通研究所

高い電圧を持つリン酸鉄系リチウム二次電池用正極材料を開発

レアメタルのコバルトフリーで、リチウム二次電池の低コスト化が可能に

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、これまでコバルト系材料でしか実現できていなかった高い電圧を持つリン酸鉄系リチウム二次電池用正極材料の開発に成功しました。

現在電気自動車(以下、EV)や家庭用蓄電池などに使われている高容量・高電圧なリチウム二次電池の正極には、レアメタルであるコバルトが使われています。これらの急速な普及により、今後、リチウム二次イオン電池に用いられるコバルトの不足やそれに伴う材料コストの大幅上昇などが懸念されており、コバルトに代わる二次電池の構成元素として豊富で安価な鉄を用いた材料が注目されています。しかし、これまでは、コバルト系材料に匹敵する電圧には足りず、コバルト系材料からの置き換えを可能にするには課題がありました。

今回、鉄系材料の電圧を向上させる新たな要因を発見し、独自の材料設計技術と、原料の配合や材料形成を精密に制御する技術により、従来のコバルト系材料に匹敵する3.8Vの電圧を持つ、新しいリン酸鉄系の材料であるピロリン酸鉄リチウム「Li5.33Fe5.33(P2O7)4」の合成に成功しました。

今後は、今回得た新たな知見を元に、高電圧の状態をより長く維持できるような新規結晶構造の設計を進めることにより、開発した鉄系材料による電極の性能を向上させ、コバルト系材料に匹敵する高エネルギー密度を持つ正極材料の実現を目指します。これにより、リチウム二次電池や、それを用いたデバイスの低コスト化に貢献します。

本技術の詳細は、5月28日(日曜日)から6月1日(木曜日)まで米国ニューオーリンズで開催中の電気化学に関する国際会議「231st ECS Meeting」にて発表します。

開発の背景

現在、高性能な充電式の電池として広く利用されているリチウム二次電池は、正極材料にレアメタルであるコバルトが使用された「LiCoO2」(コバルト酸リチウム)などが用いられていますが、コバルトの不足やそれに伴う材料コストの大幅上昇などが懸念されています。今後、地球温暖化の原因となる温暖化ガスの排出や石油資源に頼らない低炭素化社会の実現に向けて開発が進められ利用拡大が予想されるEVには、大容量のリチウム二次電池を必要とするため、コバルトに代わる構成元素として地球上に豊富に存在する鉄を用いた材料が開発され注目されています。

課題

従来、鉄系の材料を用いたリチウム二次電池ではコバルト系の材料を用いたものと比べエネルギー密度の点で及ばないという問題点がありました。エネルギー密度は容量密度と電圧の積で表されますが、鉄系材料がコバルト系材料に及ばない理由として、従来の鉄系材料の持つ電圧が2.8Vから3.5Vと、3.75Vから4.1Vのコバルト系材料と比べて低いことがあげられます。正極材料の電圧は、材料の結晶構造中の原子配置によって変化することが知られており、電圧の高い新しい鉄系材料の開発が課題になっていました。

開発した技術

今回、鉄系材料の結晶構造と電気化学特性との相関を分析することにより、鉄系材料において電圧を向上させる新たな要因を発見し、独自の材料設計技術と、原料の配合や材料形成を精密に制御する技術により、従来のコバルト系材料に匹敵する3.8Vの電圧を持つ新しいリン酸鉄系の材料であるピロリン酸鉄リチウム「Li5.33Fe5.33(P2O7)4」を設計し、合成しました。

開発した技術の詳細は以下の通りです。

  1. 鉄系正極材料の電圧を向上させるための新たな要因の発見

    鉄系正極材料の電圧の高低は、結晶中の鉄、酸素などの原子配置に大きく影響されます。材料の結晶構造と電気化学特性との相関について分析することにより、鉄系正極材料の電圧を向上させる新たな要因を発見しました。具体的には、結晶構造における鉄原子周囲の酸素の配置を歪んだ構造にすることが、高電圧の大きな要因の1つであることが分かりました。

  2. コバルト系材料に匹敵する高電圧の鉄系材料の開発に成功

    原料の配合と材料形成を精密に制御する富士通研究所独自の技術により、新しいリン酸鉄系の材料であるピロリン酸鉄リチウム「Li5.33Fe5.33(P2O7)4」の合成に成功しました(図1)。これを用いてコイン型電池を試作し、電気化学特性を評価した結果、従来のコバルト系材料の電圧に匹敵する3.8Vの電圧が実現できていることを確認しました(図3)。これは、従来開発されてきたリン酸鉄リチウム(LiFePO4)に代表されるリン酸鉄系材料よりも高い電圧を持っています。

    今回試作したコイン電池で実測した充放電容量は1グラム当たり約105ミリアンペア・アワー(mAh/g)(注2)であり、理論値の139 mAh/gやLiCoO2の137 mAh/gに比べると75%程度となり、今後、解析を進めさらに改善していく予定です。

図1. 新規材料の結晶構造
図1. 新規材料の結晶構造

図2. 試作したコイン型電池
図2. 試作したコイン型電池

図3. 試作したコイン電池の電圧と放電深度
図3. 試作したコイン電池の電圧と放電深度(注3

効果

今回新規開発した鉄系正極材料は、エネルギー密度の面では従来のコバルト系材料と同等の電圧には至っていませんが、開発にあたり難関とされている鉄系材料の電圧向上に対し解決の道筋をつけました。

また、コバルト系正極材料は、EVのみならず、スマートフォンやデジタルカメラなどの多くのリチウム二次電池として用いられています。コバルト系材料と同等のエネルギー密度を持つ正極材料を開発した場合、レアメタルであるコバルトを、豊富に存在する鉄に置き換えることで、正極材料の安定生産を可能にします。これにより、リチウム二次電池や、これを用いたEVなどの安定生産に貢献することが期待されます。

今後

富士通研究所では、今回の開発を通じ得られた知見をもとに、コバルト系材料に匹敵する電圧を、より長く維持できるような鉄系正極材料の結晶構造の改良に取り組み、高電圧かつ高エネルギー密度を目指します。また、本電極は、安全な固体二次電池用の低コスト正極材料としても適用可能です。今後も、低コスト・低環境負荷・高エネルギー密度・高い安全性を持つ次世代の二次電池向け技術の開発を通し、持続可能で快適な社会の実現を目指します。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木繁。
注2 mAh/g:
正極材料1gあたりの容量密度を表し、1時間で満充電状態から放電し切ることを想定した時に必要な電流値。
注3 放電深度:
定格容量を100%とした時の、満充電状態からの放電量の割合。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
デバイス&マテリアル研究所
電話 046-250-8244
メール battery@ml.labs.fujitsu.com


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