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PRESS RELEASE

2017年5月25日
富士通株式会社
学校法人大同学園 大同大学

溶けた金属の波立ちを再現するシミュレーション技術を開発

粒子法ベースの新たなシミュレーションにより、鋳造の生産性向上を支援

富士通株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:田中達也、以下 富士通)と学校法人大同学園 大同大学(所在地:愛知県名古屋市、学長:神保睦子、以下 大同大学)の前田安郭教授は、溶けた金属を注ぎ込む際に発生する表面の波立ちを忠実に再現できる新しいシミュレーション技術を共同で開発しました。

自動車やIT機器など様々な分野の部品製造に使われている鋳造では、溶かした金属を型に注ぎ込んで鋳物を成形しますが、鋳造装置や型の中の見えない部分での金属の流れ方が成形後の部品品質に大きく影響するため、シミュレーションで流れ方を明らかにすることが求められています。しかし、高温で溶かした金属の流れ方は、空気と接する表面に形成される酸化膜によって大きく変化するため、正確にシミュレーションすることが困難でした。

今回、粒子法(注1)というシミュレーション技術をベースに、液状の金属と空気の境界面付近の流れ方に関わる物性(粘性)を変化させて計算する新しい手法を開発しました。本技術を、鋳造装置への注ぎ込みを模した実験との比較により検証したところ、高温で溶かしたアルミニウムを注ぎ込む際に発生する波立ちが、液面の酸化膜に沿って収まっていく様子を、忠実にシミュレーションできることが確認できました(動画参照)。

本技術により、外から観察できない鋳造装置や型の中の金属の流れ方をシミュレーションで明らかにすることで、品質の高い製品をより短時間に製造できる金属の流し込み方などを見出せるようになり、鋳造の生産性向上に貢献することが期待されます。

本技術の詳細は、5月26日(金曜日)から29日(月曜日)に東京都市大学の世田谷キャンパスで行われる「日本鋳造工学会 第169回全国講演大会」にて発表します。

アルミニウムの注湯実験(上段)とシミュレーション結果(下段)
(再生時間: 5秒 / 音声なし)

水の注湯実験(上段)とシミュレーション結果(下段)
(再生時間: 5秒 / 音声なし)

背景

自動車や家電、IT機器など様々な分野の部品製造に使われている鋳造では、高温で溶かした金属を型に注入するプロセスにおいて、その流れ方が部品の品質に大きく影響します。たとえば、ダイカスト法(注2)という鋳造方法では、金型に高圧射出するために溶かした金属を充填しておくスリーブ(筒)の中で液状の金属が激しく波立つと、空気と接する面に形成される酸化物などが巻き込まれて混入し、成形後の部品が壊れやすくなるといった欠陥の発生につながります。そのため、スリーブ内の液面が激しく波立たないように金型に押し込むタイミングを調整することなどが行われていますが、スリーブ内は見えないので、液面の状態を正しく推定するためには、液状の金属の流れ方を正確にシミュレーションする技術が求められています。

課題

高温で溶かした金属は、空気に触れると瞬時に酸素と反応し、表面に0.1mm以下の非常に薄い酸化膜が形成され、流動性が大きく低下します。そのため、従来より一般的に活用されている均質な液体の流れをシミュレーションする技術では正しい結果が得られません。波立つ液面に沿って形成される薄い酸化膜が液体の流動性に影響を与える様子を計算するには、波立ちをシミュレーションできる技術を用いて酸化膜を区別して計算することが必要になります。しかし、薄い酸化膜を区別できる非常に高い解像度で計算するには、均質な液体のシミュレーションの1,000倍以上の計算時間が必要となり、現実的な時間でのシミュレーションは困難でした。

新シミュレーション技術の概要

富士通と大同大学は、計算量を大きく増やさず、薄い酸化膜による溶けた金属の流動性の低下の影響を計算できるシミュレーション技術を開発しました。この技術は、流体を粒子の集まりとして表現して計算する粒子法という手法に、液面に位置する粒子の物性値を動的に変化させる新たな計算モデルを加えたものです。この計算モデルでは、液状の金属を表現する粒子のサイズと膜の厚さとの比率に応じて、液面に位置する粒子の流動性に関わる物性値(粘性)を設定します。これにより、計算の単位となる粒子サイズを変更せずに、薄い酸化膜の形成による流動特性の低下の影響を計算できるので、シミュレーションに必要な計算時間を、均質な液体の流れのシミュレーションと同程度に抑えることが可能となります。

高温で溶かしたアルミニウムをダイカストスリーブへ注ぎ込むことを模した実験との比較による技術検証(図)では、本技術により、水とは大きく異なる液体アルミニウムの流れ方を忠実に再現するシミュレーションが、8時間程度で実施できることが確認できました。

図.ダイカストスリーブへの注湯実験との比較によるシミュレーション技術の検証
図.ダイカストスリーブへの注湯実験との比較によるシミュレーション技術の検証:
実験(上段)で確認された水とアルミニウムの挙動の違いをシミュレーション(下段)で再現

今後

富士通は、開発したシミュレーション技術について、2018年度の実用化を目指します。

商標について

記載されている商品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 粒子法:
流体を多数の粒子の集まりとして表現する数値計算手法。水面が複雑に変形する挙動などの解析に適する。
注2 ダイカスト法:
金属製の鋳型に溶かした金属を高速注入して鋳物をつくる鋳造方法。精密な形状の部品を大量生産できるという特長があり、自動車や家電、IT機器などの部品製造で広く使われている。

本件に関するお問い合わせ

富士通株式会社
次世代テクニカルコンピューティング開発本部
電話 044-754-8768(直通)
メール contact-hpc-application@cs.jp.fujitsu.com

学校法人大同学園 大同大学
工学部 機械工学科 教授 前田
電話 052-612-6651 内線2525
メール y-maeda@daido-it.ac.jp


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