PRESS RELEASE (技術)
2016年11月7日
株式会社富士通研究所
人工光合成における太陽光のエネルギー変換反応を高効率化する新しい材料技術を開発
本技術の詳細は、英科学誌Scientific Reports(オンライン版)に2016年10月19日(現地時間) に掲載されました。
開発の背景
将来に向けた持続可能な地球環境社会を構築していくためには、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを低減していくことが急務であり、化石燃料に頼らない貯蔵可能なクリーンなエネルギーの創出が望まれています。人工光合成は太陽光と水とCO2を用い、酸素と水素および有機物などの貯蔵可能なエネルギーを人工的に生成する技術であり、注目を浴びています。
課題
水素や有機物など貯蔵可能なエネルギーを人工的に生成するためには、太陽光のエネルギーを用いて光励起材料から反応電子を効率よく取り出し、加えて電極において、効率的に水やCO2と化学反応させることが必要です。これまで、太陽光と水が反応する明反応の電極において、半導体材料や、比較的大きい粒子状の光励起材料を密度の低い構造で固めた材料が用いられていましたが、太陽光(可視光波長)の中で利用できる波長の範囲が狭いことから化学反応に十分な電流量を取り出すことが困難でした。
開発した技術
今回、フレキシブル実装シート上にキャパシタなどの受動素子を形成するための電子セラミックスの成膜法(ナノパーティクルデポジション(NPD、注3))を改良し、光励起材料の原料粉末をノズルで吹き付ける際、原料粉末を薄い板状に破砕しながら基板上に積層させる薄膜形成プロセス技術を開発しました。開発した技術の特長は以下のとおりです。なお、材料内部の構造解析は国立大学法人東京大学(以下、東京大学)幾原研究室と共同で行いました。
- 利用可能な太陽光波長域の拡大
光励起材料の原料粉末を、成膜後に原子レベルのひずみを持つ結晶構造となるような組成にすることで、本技術適用前と比べて太陽光のエネルギーを吸収できる最大波長を490 nmから630 nmへと広げ、利用可能な光の量を2倍以上に向上させることに成功しました(図1)。
図1 開発材料の太陽光の反射率 - 高い電子伝導特性
形成された薄膜は、ミクロ・マクロな欠陥がないため結晶性が良く、材料中の粒子間の電子伝達特性に優れた緻密な構造となっています(図2)。これにより太陽光で励起された電子を効率的に電極に伝えることが可能となります。
図2 高い電子電動特性を持つ薄膜形成プロセス技術 - 水との大きな反応表面積を確保するナノサイズの粒子で構成された構造体
薄膜の表面構造は、材料と水との反応表面積が大きく、また、材料結晶中の電子密度の高い結晶面が膜表面に規則的に形成されています。その結果、水と光の相互反応を大幅に促進させることに成功しました(図3)。
図3 人工光合成の明反応電極部の材料構造
[電子密度の高い結晶面が規則正しく並んだ膜表面付近の様子]
(東京大学幾原研究室 観察)
効果
今回開発した技術により、光励起材料をそのまま用いる場合と比べて、太陽光の中で利用可能な光の量が2倍以上に広がり、さらに、材料と水との反応表面積を50倍以上に拡大することに成功しました。これにより、電子および酸素の発生効率を100倍以上に向上できることを確認しました。
今後
今後、光励起材料とプロセス技術のさらなる改良を進め、明反応の電極の特性向上を図るとともに、暗反応部(ニ酸化炭素還元反応)・全体システムの技術開発についても取り組み、人工光合成技術の実用化を目指します。
富士通研究所では、再生可能エネルギーによる持続可能社会の実現に対して貢献していくとともに、引き続き、エネルギーや環境に関する基盤技術を開発していきます。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木繁。
- 注2 人工光合成技術:
- 人工的に太陽光、水、二酸化炭素(CO2)から酸素、エネルギーを生成する技術であり、光が反応に関与する明反応と関与しない暗反応からなる。
- 注3 ナノパーティクルデポジション(NPD):
- 電子セラミック粒子をノズルで基板に吹き付けることで薄膜を形成する技術。
関連リンク
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
デバイス&マテリアル研究所
電話: 046-250-8389(直通)
aps@ml.labs.fujitsu.com
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