PRESS RELEASE (技術)
2016年9月20日
株式会社富士通研究所
フラウンホーファー・ハインリッヒ・ヘルツ研究所
世界初、次世代光ネットワーク向け
波長制約のない一括波長変換の新技術を開発
1Tbpsを超える波長多重信号を用いた実証実験に成功
株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)とドイツのフラウンホーファー・ハインリッヒ・ヘルツ研究所(注2)(以下、HHI)は、将来の波長多重光ネットワークの光通信中継ノードで必要とされる、波長多重された信号を一括して波長変換する新しい方式を開発し、毎秒1テラビット(以下、Tbps)級の大容量信号を用いた実証実験に成功しました。
従来の光波長変換方式は、一旦電気信号へ変換する方法が取られていましたが、波長ごとに回路が必要となるためTbps級の光通信中継ノードの実用化に課題がありました。
今回開発した技術では、光の波長変換と同時に偏波状態を制御することにより、入力される光信号の波長や変調方式に制約なく、広帯域光信号を一括して波長変換できます。これにより、波長多重数にかかわらず一台の波長変換装置で処理が可能になるため、例えば、10波長を多重した1Tbps級の光信号を変換する場合において、波長ごとに電気信号への変換のための回路が必要であった従来技術と比べ10分の1以下の電力で実現できます。
光ファイバーネットワークを構成する光中継ノード装置に本技術を適用することで、通信帯域の利用効率が向上し、より快適な通信環境の提供に貢献することが期待されます。
本技術の詳細は、9月18日(日曜日)から22日(木曜日)まで独デュッセルドルフで開催中の国際会議「ECOC 2016 (42nd European Conference on Optical Communication)」にて発表します。
開発の背景
大規模データセンターや、クラウド型の高度なICTサービスなどを支えている光ファイバーネットワークは、異なる波長の光信号を束ねて一つの光ファイバーで伝送する波長分割多重(WDM)技術により、光ネットワーク内の多地点間を大容量かつ低遅延で接続しています。近年、1波長当たりの容量は、偏波多重直交位相変調方式(注3)により毎秒100ギガビット(以下、Gbps)が一般的になっており、今後、より多値の変調方式を採用することなどによりTbps級の大容量の通信環境を実現する技術開発が進められています。
課題
光ネットワーク内の多地点間を接続する場合、同じ波長を含む光信号を同じ光ファイバーで伝送することができないため、光中継ノードにおいて同じ波長が重ならないように波長をずらして衝突を回避する波長変換機能が必要です(図1)。
図1 光中継ノードでの波長衝突
従来は、一旦電気信号へ変換する方法(図2左)や非線形光学効果と波長フィルターを用いる方法(図2右)が提案されていました。しかし前者では、電気信号と光の相互変換による処理遅延の増大と、波長ごとに変換回路が必要なため、波長を多重する数が増えると、消費電力が増大する課題があります。また後者では、一括して波長を変換できるものの、変換前の信号の波長だけを除去するような特性をもつフィルター素子が必要となるため、様々な波長の信号に対応することが難しく実用化に課題がありました。
図2 既存の波長変換技術
開発した技術
今回、富士通研究所とHHIは、光の波長変換と同時に偏波状態を制御することによる新しい一括波長変換方法を発見し、本原理に基づいた波長変換回路を試作しました。また、試作回路を用いて、1Tbps超の偏波多重された光信号を一括変換する実験に成功しました。入力される光の波長や変調方式に制約がなく機能する一括波長変換機能の実現は世界初となります。
開発した技術の特長は以下のとおりです。
- 世界初、偏波フィルターを用いた新しい一括波長変換技術
非線形光学媒質に光信号と励起光を合わせて入力することで、入力された光信号と波長変換された光が混在した信号を生成できることが知られています。今回、波長変換に伴って光信号の偏波状態を変化させ、従来技術の波長フィルターではなく、偏波フィルターによって波長変換前の光信号を除去し、波長変換後の光信号のみを抽出する新しい一括波長変換技術を開発しました。励起光の波長間隔を制御することにより、変換後の波長を任意に制御できます。
図3 提案する新しい波長変換技術 - 偏波多重された光信号の一括波長変換技術
変換前光信号を垂直偏波・水平偏波の二つの成分ごとに分離して並列に波長変換し、再び合成することにより、偏波多重信号に対応する技術を開発しました。本原理に基づく回路を試作し、1Tbps超の偏波多重信号を一括変換する実験に成功しました。
効果
本技術により、従来は、例えば1Tbpsの大容量光信号の波長変換のために10台の電気信号への変換が必要となっていた場合でも、1台の波長変換装置による一括変換が可能になるため、従来の10分の1以下の電力で同等の機能が実現可能となります。また、変換前後の波長に制約が無いため、柔軟にネットワークの構成を変更できる次世代光ネットワークの実現に貢献します。
今後
今後は、さらなる変換効率の改善や量産性の向上など実用化に向けた検討を推進し、2020年頃の実用化を目指します。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木繁。
- 注2 フラウンホーファー・ハインリッヒ・ヘルツ研究所:
- Fraunhofer Heinrich Hertz Institute。所在地 ドイツ ベルリン市、所長 Martin Schell、Thomas Wiegand。
- 注3 偏波多重直交位相変調方式:
- 水平偏波と垂直偏波の光信号を多重することで伝送容量を2倍にする偏波多重技術と、4値位相変調を組み合わせた、100Gbpsの光伝送システムで事実上の業界標準となっている光変復調方式。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ネットワークシステム研究所
044-754-2643(直通)
aos-pr@ml.labs.fujitsu.com
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