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PRESS RELEASE

2016年8月24日
国立大学法人九州大学
福岡県糸島市
株式会社富士通研究所

自律成長するAIを用いて移住満足度向上を目指す実証実験を開始

AIの社会受容性を考慮して移住希望者と移住候補地の適切なマッチングを実現

国立大学法人九州大学(以下、九州大学)マス・フォア・インダストリ研究所富士通ソーシャル数理共同研究部門(注1)と福岡県糸島市(注2)(以下、糸島市)、株式会社富士通研究所(注3)(以下、富士通研究所)は、人間の好みを徐々に学習し、自ら成長するAI(人工知能)を用いて、地方都市への移住希望者と移住候補地を適切にマッチングさせるための共同実証実験を開始します。

糸島市では、昨今の地方への移住・定住に関する注目度の高まりにより移住相談が増加しています。しかし、移住希望者は移住先検討の際、地域に密着した情報を得ることが難しく、移住者の満足度が低下することもありました。

今回、移住希望者の好みを自律成長するAIに学習させ、好みに基づいて移住希望者に適切と考える移住候補地の地域密着情報(注4)を提示し、提示された地域の評価を繰り返してもらうことで、移住希望者と移住候補地のマッチングを支援する実証実験を開始します。本実験を通じて、社会受容性を加味したAI技術の開発を行い、今後の移住希望者にとって満足度の高い移住地マッチングを行う仕組みの構築を目指します。

背景

近年、都市部から地方への移住・定住に関する注目度が高まっていますが、糸島市は、自然や景観に恵まれており、福岡市内へのアクセスの良さや、九州大学伊都キャンパスが市内にあることから、近年、移住候補地としての注目度が極めて高くなっており、移住相談が増加しています。しかし、糸島市は市域が広く、海、山、田園、市街地、離島など様々な地域特性があるため、多様なニーズを持つ移住希望者に対して提示する地域密着情報のミスマッチによる機会損失の発生や、情報不足による移住希望者の不安増などが懸念されています。このような状況の中、移住希望者が望む地域密着情報を的確に提供する仕組みの構築が必要になっています。

課題

地方への移住・定住促進のため、移住希望者が望む地域密着情報を的確に提供する仕組みとして、移住希望者から得られたデータをもとに学習していくAI技術が有効であると考えていますが、主に次の3つの点が課題となっています。

  1. データ量:

    移住者の意思決定に関して、AIが学習可能なデータが少ない。

  2. 移住希望者から取得できるデータの正しさ:

    地方での暮らしを体験したことがない移住希望者は、移住先への希望を正確に伝えきれていない。

  3. 社会受容性:

    個人的な重要事項の判断にAIを使用することに対する心理的な障壁。

これらの課題解決に向け、九州大学、糸島市、富士通研究所は移住満足度向上を目指した実証実験を開始します。

実証実験の概要

  1. 目的

    移住希望者の好みを学習するにあたり、データが少ない状況でも、自律的に成長するAIによって徐々に学習していくことで、小規模データからスタートできるAIの構築を目指します。また、AIが移住希望者に対し単純に最適な地域を提示するだけではなく、移住希望者から得た好みを市担当者に伝え、最終的に移住希望者と市担当者の間の会話につなぐ役割を果たす社会的な受容度の高いAI活用を目指します。

    図1. 実証実験 イメージ図
    図1. 実証実験 イメージ図

  2. 期間と場所
    期間  :  2016年9月~2016年10月(予定) 少数の被験者によるAI技術のプレ評価
    2016年11月~2017年3月(予定) 移住相談の場におけるAI技術の効果検証
    場所  :  糸島市役所および、主に国や自治体の主催する全国の移住・定住支援イベント内糸島市ブース
  3. 実証概要

    今回の共同実証実験の実施にあたり、糸島市は移住希望者・地域住民インタビューのフィールド提供および移住地域推薦のノウハウ提供を、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所富士通ソーシャル数理共同研究部門と富士通研究所はAI技術の開発および社会科学の知見を用いたAI技術の評価検証を担当し、以下の研究を実施します。

    • 自律成長AI技術の効果検証

      移住希望者の特性と好みの関係を数理技術を用いてモデル化します。自律成長AIは、移住希望者に対して、このモデルに従って移住希望者の特性に適した地域を提示します。この提示された地域に対して移住希望者が評価を行い、その評価結果を基にAIが移住希望者の好みをさらに学習し、自動で数理モデルを修正して、自律成長していく技術を構築します。

      本実証実験では自律成長AIの性能を実フィールドで検証するとともに、同じ属性の移住希望者に対し、実証前の移住相談と比較して自律成長AIにより移住希望者の満足度が全体的にどの程度向上するかという行政サービスの質の観点からの効果も検証します。また、実証実験期間中も移住希望者から得られたフィードバックを基に適宜AI技術を修正し、より良い移住支援システムへと改善します。

    • AIの社会受容性に関する効果検証

      本実証実験では、AIは機械的に移住希望者と移住候補地をマッチングすることを主眼とするのでなく、移住希望者が自分の移住先での希望を知る手助けを行い、AIが提供する推薦結果を市担当者と共有して効率的な会話を実現することを主要な狙いとしています。こうした人間同士の会話を促進するためのAI活用とすることで、AIを使用する際の心理障壁を取り除き、移住希望者の満足度向上を期待します。さらに、実証実験の結果を基に、移住希望者にとっての利用しやすさの観点からも見直しを行い、人と協創して社会に受容されるAIの構築を目指します。

今後の展開

糸島市は、細かな地域密着情報を提供し、移住希望者に移住先の地域を知ってもらい、気に入り、納得して転入してもらうことで、移住者の不安解消、周辺住民とのトラブルの防止、生活満足度の向上、地域活動の活発化、住民の転出抑制などに繋げます。

九州大学と富士通研究所は、人間の好みや希望といった心理に関する数理モデルとAI技術を融合し、移住希望者のマッチングのみならず、多様な社会課題の解決を目指します。また、富士通研究所は、本実証実験の結果から自律成長AIの改善を行い、2017年度中に富士通株式会社のAI技術「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」の新技術としての実用化を目指します。

以上

注釈

注1 国立大学法人九州大学マス・フォア・インダストリ研究所富士通ソーシャル数理共同研究部門:
国立大学法人九州大学:所在地 福岡市西区元岡744番地、総長 久保千春。
マス・フォア・インダストリ研究所:所在地 福岡市西区元岡744番地、所長 福本康秀。アジアで初めての産業技術に関わる数学研究の拠点で、産業のための数学理論研究を行う研究部門に加え、理論のソフトウェアとしての実装・公開を行う「数学理論先進ソフトウェア開発室」を設置。
富士通ソーシャル数理共同研究部門:2014 年9 月に、九州大学、富士通株式会社、株式会社富士通研究所の三者でマス・フォア・インダストリ研究所内に設置した社会課題の解決に向けた数理技術の研究開発部門。
注2 福岡県糸島市:
市役所所在地 福岡県糸島市前原西1丁目1-1、市長 月形祐二。
注3 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木繁。
注4 地域密着情報:
人口や面積といった統計的な情報だけでなく、地域の行事や雰囲気などを伝える地域での生活に密着した情報。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
知識情報処理研究所
電話 044-754-2328(直通)
メール fsmjru@ml.labs.fujitsu.com


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