PRESS RELEASE (技術)
2016年5月10日
株式会社富士通研究所
国立大学法人電気通信大学
都市の警備配置問題を高速に解くAI数理技術を開発
20万ノードの道路ネットワークにおける最適な検問配置パターンを5分で導出
株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)と国立大学法人電気通信大学(注2)(以下、電気通信大学)は、AIを活用して警備計画の立案を支援する技術として、数学理論の一つであるゲーム理論を用いて、犯罪者を捕捉するための検問所などを想定した「都市道路ネットワーク警備問題」を高速に解くアルゴリズムを開発しました。
人の集まる場所でのセキュリティ対策では、完全に侵入経路や逃走経路を封鎖することは限られた警備資源の中では不可能なことが多く、警備員を効果的に配置し想定される被害を最小化することが求められています。これまで警備計画の立案は専門家の経験と勘に委ねられていましたが、近年、専門家の判断を支援する技術として、攻守双方を数理的に記述するゲーム理論が注目されています。しかし、ゲーム理論を用いて犯罪者を検問所などで捕捉する都市道路ネットワーク警備問題については、扱う道路のネットワーク規模に対して計算量が指数的に増加するため、実際の都市への適用が困難でした。
今回、富士通研究所独自のネットワーク縮約技術によって、都市道路ネットワーク警備問題を高速に解くアルゴリズムを開発しました。これにより、従来技術と比較して、100ノードの問題では平均20倍、200ノードの問題では平均500倍の速度で理論上最適な警備計画を見つけられるようになりました。本技術により、例えば、従来技術では計画立案に数日かかっていた東京都23区規模である20万ノードの問題において、本技術では5分程度で警備計画を導出することが可能になるなど、計画立案への対話的な支援が実現します。
富士通研究所は、本技術を、富士通株式会社のAI技術「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)(以下、Zinrai)」の1つとして2017年度中に実用化すること目指します。電気通信大学は、本技術の都市道路ネットワーク以外への拡張を進める予定です。
本技術の詳細は、5月9日(月曜日)からシンガポールで開催されている人工知能・マルチエージェント分野における世界最大級の国際会議「AAMAS 2016 (International Conference on Autonomous Agents and Multiagent Systems 2016)」にて発表します。
開発の背景
都市や空港など人の集まる場所でのセキュリティ対策では、犯罪者の経路パターンを全て封鎖することが理想となりますが、限られた警備資源の中で実現することは困難なケースが殆どであるため、犯罪者の行動特性や心理特性を考慮した上で、限られた警備資源を効果的に配置することが求められています。これまで警備計画の立案は専門家の経験と勘に委ねられていましたが、組織犯罪などの新たな脅威に対抗する高度な警備が求められる近年、AIを活用した警備計画の立案が注目されています。特に、犯罪者側と警備側を対立する意思決定者と捉えたゲーム理論を用いた技術は、警備ゲームと呼ばれ、専門家の判断を助ける道具としての実用化が始まっています。
課題
都市道路ネットワーク警備問題は、目的地に向かう犯罪者や逃走しようとする犯罪者を検問所などで捕捉することを目的とした警備ゲームの問題の一つですが、犯罪者側の行動パターン(進入地点から攻撃目標までの経路)の数が、道路ネットワークの規模(道路の数)に対して指数的に増加してしまいます。そのため従来は、1都市の道路ネットワークを表現した膨大なノード(交差点)の問題を現実的な計算時間で解くことが不可能であり、実問題への適用は困難でした。
開発した技術
今回、富士通研究所は、警備ゲームの問題の一つである都市道路ネットワーク警備問題において、大規模な道路ネットワークにおける警備計画を高速に解く技術を開発しました。また、電気通信大学と共同で、この技術に関する理論的な裏付けを行ないました。
開発した技術の特長は以下のとおりです。
- ネットワーク縮約の技術
今回、検問配置の候補に応じて計算に用いるネットワークを大幅に簡単化する縮約技術を開発しました。道路ネットワークの中には検問所の配置による警備効果(注3)が高い箇所と低い箇所があるため、警備効果の低い箇所を検問配置の候補から外すことで警備側の行動パターンの数を削減することができます。さらに、道路ネットワークの中で警備員を配置しない箇所をまとめることにより、犯罪者側の行動パターンの数も大幅に削減することが可能になります(図1)。本技術については、富士通研究所と電気通信大学が共同で、この縮約後の道路ネットワークを総当たりで求めた計画による警備効果が、縮約前の道路ネットワークを総当たりで求めた計画による警備効果と一致することを理論的に示しました。これにより、計算量を大幅に削減する事に成功しました。
図1 ネットワーク縮約による計算量の削減
拡大イメージ - 高速・高精度なアルゴリズム
開発したアルゴリズムでは、まず、最も被害が想定されるノードに着目して決定した検問配置の候補を決め、検問を行う場所と、その割合について、全体として被害の期待値が最も小さくなる最適な組み合わせについて、ネットワーク縮約の技術を用いて高速に計算します。その結果、新たに被害の期待値が大きくなったノードに着目して検問配置の候補となる道路を追加して、同様に最適な組み合わせを計算します。これを繰り返すことにより、近似的な最適解を高速に計算します。3万通りの擬似的な道路ネットワークを使ったシミュレーションでは、このアルゴリズムにより99%以上の問題に対して、より高い警備効果を持つ解が存在しない最適な解を見つけられることを確認しました。
効果
従来手法と比較して、100ノードでは平均20倍、200ノードでは平均500倍の速度で最適な警備計画を見つけることができます。さらに、従来手法では数日かけても良い解を見つけられなかった10万ノード規模の道路ネットワークの場合でも、本技術では数分で解が得られます。東京23区を含む20万ノードの道路ネットワークに50箇所の検問所を配置するシミュレーションでは、一般的なPCを使って5分で警備計画を導出することに成功しました。
今後
富士通研究所は、本技術を用いた警備計画立案の実用化を進めます。また、本技術の適用などにより警備計画立案の対象を拡大していきます。また、本技術を、富士通株式会社のAI技術「Zinrai」の1つとして2017年度中に実用化することを目指します。電気通信大学は、本技術の都市道路ネットワーク以外への拡張を進める予定です。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木繁。
- 注2 国立大学法人 電気通信大学:
- 所在地 東京都調布市、学長 福田喬。
- 注3 警備効果:
- 攻撃を受けた際の被害額の期待値を低減させる効果。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
知識情報処理研究所
044-754-2328 (直通)
unsg@ml.labs.fujitsu.com
国立大学法人電気通信大学
大学院情報理工学研究科情報学専攻
准教授 岩崎 敦(いわさき あつし)
042-443-5667
iwasaki@is.uec.ac.jp
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