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PRESS RELEASE (技術)

2015年3月9日
独立行政法人土木研究所
株式会社富士通研究所

減災に向け、洪水予測シミュレーターのパラメーター値を自動的に決定する技術を開発

独立行政法人土木研究所(所在地:茨城県つくば市、理事長:魚本 健人、以下、土木研究所)と株式会社富士通研究所(本社:神奈川県川崎市、代表取締役社長:佐相 秀幸、以下、富士通研究所)は、洪水予測の際に河川の流量を計算する洪水予測シミュレーターの最終浸透能や流出係数など(雨水の土壌への浸透しやすさや下流への流れやすさ)のパラメーターを最適な値に自動調整する技術を開発しました。

現在、水害対策で重要な河川の流量を予測するため、一部の河川管理業務では洪水予測シミュレーターが運用されています。シミュレーターでは、流域の状態をきめ細かく反映するため地形や、森林や市街地といった土地利用の分布をモデル化した「分布型流出モデル」の利用が望まれていますが、予測の精度を高めるための最適なパラメーターの決定の難しさが課題でした。

今回、分布型流出モデルにおいて、パラメーターを、最適化アルゴリズムの選定と適用により、自動決定する技術を開発しました。これにより、分布型流出モデルに基づく洪水予測シミュレーターを常に最適な設定に調整して運用することができ、予測した河川の流量によって、河川管理者が防災、減災のための対策を適切に判断できるようになります。

本技術の詳細は、3月10日(火曜日)から早稲田大学で開催される国内会議「土木学会 第59回水工学講演会」にて土木研究所と富士通研究所が発表します。

開発の背景

河川管理事務所などでは、台風や大雨の際に河川の流量を予測し、現場への担当者の派遣、住民への避難指示など、減災のための対策が取られていますが、集中豪雨など自然災害の大規模化にともない、水害対策の更なる高度化が求められています。

水害対策において重要となる河川の流量の予測については、洪水予測シミュレーターが有効です。河川付近の地形や土地利用の分布をモデル化した分布型流出モデルでは、詳細な河川シミュレーションが可能で、河川管理を高度化することができます。

分布型流出モデルの普及を進めるために、土木研究所と富士通研究所は共同で、「洪水予測モデルに対する数理最適化手法の導入に関する研究」(注1)を、2014年4月から2016年3月までの期間で取り組んでいます。

課題

分布型流出モデルに基づく洪水予測シミュレーターを、広く水害対策に役立てるためには、まず、過去の洪水についてモデルのパラメーターを適切に調整する必要があります。この調整には、従来、専門技術者による高度なスキルや河川工学・水文学の専門知識が必要でした。

開発した技術

土木研究所と富士通研究所は、共同研究1年目の成果として洪水予測シミュレーターに設定するパラメーターを自動決定する技術を開発しました(図1)。

開発した技術の特長は以下のとおりです。

  1. 分布型流出モデルに適した最適化アルゴリズムの選定と、過去の洪水における検証

    過去の洪水における雨量データを入力として、洪水予測シミュレーターによる流量計算結果と実際の流量データを比較します。ここで、設定するパラメーターは、与えられたルールにしたがって可能な限り良い解を少ない試行回数で求める数理最適化と呼ばれる計算技術を利用して自動調整します。

    今回、75種類の最適化アルゴリズムを評価して、分布型流出モデルに適した13種類の最適化アルゴリズムを選定しました。その際の選定を自動化する数理最適化プラットフォームも併せて開発しています。

    国内のある河川で発生した15種類の洪水について、各々の河川の流量測定値と洪水予測シミュレーションによる計算値を比較しました。モデルの再現性を評価するNash-Sutcliffe指標(注2)では1に近いほどモデルの精度が高いと言われていますが、今回この指標は再現性の高い0.9以上となることを確認しました(図2)。

  2. 洪水の特徴とパラメーターの関連性を解析

    洪水を特徴づける各種の統計量と洪水ごとに再現性が良いパラメーターを分析することにより、雨量と河川の流量の比である流出率とパラメーターに関連があることを明らかしました。この知見は、新たな洪水に対してパラメーターを調整する際に役立てられる有用な情報です。

図1 数理最適化と流量の計算
図1 数理最適化と流量の計算

図2 河川の流量の測定値とシミュレーションによる計算値
図2 河川の流量の測定値とシミュレーションによる計算値

効果

開発した技術により、最適なパラメーターに調整された状態で、分布型流出モデルに基づいた洪水予測シミュレーターを運用することが可能となり、河川管理者は、最適な条件下で予測された河川の流量に基づいて、防災、減災のための対策を適切に判断できるようになります。

今後

土木研究所と富士通研究所は、様々な洪水における検証により予測精度を向上させ、本技術の2016年度の実用化を目指します。さらに、洪水予測シミュレーションの普及に向け、土木研究所が開発する統合洪水解析システムIFAS(注3)への数理最適化プラットフォームの組み込みや、複数の河川流域での評価、シミュレーションと観測データを融合するデータ同化によるリアルタイム洪水予測に取り組みます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 洪水予測モデルに対する数理最適化手法の導入に関する研究:
土木研究所が公募し、富士通研究所が応募した共同研究。土木研究所が洪水予測シミュレーションに関する技術、シミュレーター、データなどを提供、富士通研究所が数理最適化に関する技術を提供。http://www.pwri.go.jp/jpn/news/2013/1206/kyoudou.html
注2 Nash-Sutcliffe指標:
測定値とシミュレーションによる計算値の当てはまりの良さを評価するための指標。
Nash-Sutcliffe指標 = 1 - (測定値とシミュレーションによる計算値の平均二乗誤差/測定値の分散)
注3 統合洪水解析システムIFAS:
土木研究所が開発、公開している洪水予測シミュレーションに関する統合解析システム。http://www.icharm.pwri.go.jp/research/ifas/index.html

本件に関するお問い合わせ

独立行政法人土木研究所
水災害・リスクマネジメント国際センター
電話 029-879-6809
メール suimon@pwri.go.jp

株式会社富士通研究所
ソーシャルイノベーション研究所 ナレッジプラットフォーム研究部
電話 044-754-2652(直通)
メール flood@ml.labs.fujitsu.com


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