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PRESS RELEASE (技術)

2015年3月12日
株式会社富士通研究所

小型電子機器に適用可能な薄型冷却デバイスを開発

厚さ1ミリメートル以下のループヒートパイプで、従来比約5倍の熱輸送を実現

株式会社富士通研究所(注1)は、小型・薄型の電子機器に適用可能な薄型冷却デバイスを世界で初めて開発しました。

スマートフォン、タブレットなどのモバイル機器では、多機能化や高速化が進み、部品からの発熱が大きくなることで、機器が局所的に高温化することが問題になっています。今回、金属薄板を積層し接合する技術を用いて、厚さ1ミリメートル(mm)以下の薄型のループヒートパイプを開発し、従来の薄型のヒートパイプ(注2)に比べて約5倍の熱量を輸送することを可能にしました。

これにより、CPUなどの高発熱部品を低温で動作させることができるようになるとともに、機器内での局所的な熱の集中を防止することが期待できます。

本技術の詳細は、3月15日(日曜日)から米国・サンノゼで開催される電子機器のサーマルマネージメントに関する国際会議「SEMI-THERM 31(Semiconductor Thermal Measurement, Modeling and Management Symposium 31)」にて発表いたします。

開発の背景

スマートフォンやタブレット、ノートPCなどのモバイル機器では、通信やデータ処理の高速化、カメラ機能などの多機能化が進み、機器が小型・薄型化する中で部品を高密度に実装する必要があるため、部品の単位面積当たりの発熱量が増加しています。発熱量の増加は機器の表面温度上昇につながるため、お客様にストレスのないモバイル機器を提供するためには、機器内部での熱の集中を抑える必要があります。

課題

送風用ファンや水冷用ポンプを設置できない小型・薄型の電子機器では、従来、薄い金属やグラファイトなどの比較的熱伝導率の高いシート材料を用いて発熱部品から熱の移動を行ない、機器内部での熱の集中を抑えています。しかし、部品の発熱量が増えると、こうしたシート材料そのものが持つ性質だけでは十分な熱移動ができなくなります。

開発した技術

今回、小型・薄型の電子機器に内蔵可能な厚さ1mm以下のループヒートパイプを、世界で初めて開発しました。

ループヒートパイプとは、熱源の熱を吸熱する蒸発器と、その熱を排熱する凝縮器を備える熱輸送デバイスであり、それぞれがパイプでループ状に接続されています(図1)。この閉ループ構造の内部には冷媒が封入されており、熱源の熱により冷媒が蒸発するときに発生する気化熱により、熱源の温度を下げることができ、言わば打ち水と同じ原理を用いています。

今回開発した薄型のループヒートパイプを、例えばCPUなど電子機器の高発熱部品上に設置し、部品から発生する熱を機器内の比較的低温の部位へ移動させることで、機器の発熱を分散させることができます(図2)。

開発した技術の特長は以下のとおりです。

  1. 高効率な熱輸送を実現する構造設計技術

    ループヒートパイプによる熱の移動は、一般に、繊維、スポンジ、樹木や植物などで水を吸い上げる時に見られる毛細管現象を使い、蒸発器の内部にある多孔体で発生する毛細管力を流体の駆動源としています。この実現のため、今回、銅薄板を重ねて微細な孔を持つ構造を開発しました。複数枚の銅薄板に予め位置が少しずつずれるように設計した孔パターンをエッチングで形成し、それらを重ねることで流体を循環させるための毛細管力を発生させました。さらに、この構造体がループの中で気体(蒸気)と液体の2つの流れを分離するため、これにより高効率な熱輸送を実現しました。また、蒸発器へ液体を戻すパイプである液管内にも毛細管力を発生させる構造を採用し、姿勢によらず安定した熱輸送を行なう機能を持たせることで、モバイル機器への適用が可能になりました。

  2. ループヒートパイプの薄型化

    厚さ0.1mmの銅薄板を用い、表裏面2枚と内層4枚の計6枚を一括形成することにより、これまで実用的には厚さ10mm程度が必要であったループヒートパイプの蒸発器を厚さ0.6mmまで薄型化し、モバイル機器に収納可能なサイズの熱輸送デバイスを実現しました。

図1 ループヒートパイプの構成
図1 ループヒートパイプの構成

図2 薄型ループヒートパイプをスマートフォンに適用した場合の利用シーンのイメージ図
図2 薄型ループヒートパイプをスマートフォンに適用
した場合の利用シーンのイメージ図

図3 薄型ループヒートパイプ試作品の外観
図3 薄型ループヒートパイプ試作品の外観

図4 蒸発器のエッチングパターン(4枚の銅薄板に形成した孔の位置を相互にずらして積層する)
図4 蒸発器のエッチングパターン
(4枚の銅薄板に形成した孔の位置を相互にずらして積層する)

図5 薄型ループヒートパイプによる熱輸送の様子(赤外線サーモグラフィ画像)
図5 薄型ループヒートパイプによる熱輸送の様子
(赤外線サーモグラフィ画像)

効果

今回開発した技術を用いることで、従来の高い熱伝導率のシート材料や薄型のヒートパイプに比べて約5倍の熱量を輸送することが可能となりました。これにより、CPUなどの部品の低温動作を実現するとともに、機器内での局所的な熱の集中を防止できるため、年々小型化する電子機器に対する新たな冷却方式の提供が可能になります。

本技術はポンプなど外部動力によらず熱そのものを駆動源にする熱輸送デバイスであるため、機器の消費電力を増やすことなく機器を均熱化することで、使い勝手や使い心地の良い電子機器の実現に寄与します。

今後

富士通研究所は、薄型のループヒートパイプを用いたモバイル機器の設計技術と低コスト化技術の開発を進め、2017年度中の実用化を目指します。また、本技術は、金属薄板のエッチングを用いたパターン形成によって、製品ごとの配管レイアウトや熱輸送量に対応することができるため、機器により自由に設計することが可能です。今後、モバイル機器のみならず、通信インフラ装置、医療用機器、ウェアラブル機器などへの展開も検討していきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐相秀幸。
注2 ヒートパイプ:
封入した冷媒がパイプ内を移動することで熱を移動する熱輸送デバイス。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ものづくり技術研究所 ハードウェアエンジニアリング研究部
電話 046-250-8260(直通)
メール mlhp@ml.labs.fujitsu.com


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