PRESS RELEASE
2015年3月10日
株式会社富士通研究所
Fujitsu Ireland Ltd.
富士通株式会社
スマートハウスの様々なセンサーで患者の隠れた運動機能異常を早期発見する技術を開発
一人ひとりの日常行動と症状の関係からリスクを捉え自立生活を支援
株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)、Fujitsu Ireland Ltd. (注2)、富士通株式会社(注3) (以下、富士通)は、居住空間(スマートハウス)や患者の身に着けた様々なセンサーから、対象者の隠れた運動機能異常を早期発見する技術を開発しました。
富士通研究所はアイルランドの研究機関であるCASALA(注4)とINSIGHT@UCD(注5)とともに、アイルランドのスマートハウスに居住している高齢者や患者のICTを活用した健康モニタリングと自立生活支援のための研究プロジェクト(KIDUKUプロジェクト)(注6)を2013年7月より実施しています。本プロジェクトでは、居住環境に埋め込んだ約110種類のセンサーと患者につけたウェアラブルセンサーから日常生活における大量のデータを収集しています。
従来、膨大なデータから医療従事者にとって意味のある機能異常などの健康リスクに関係するデータを抽出するのは容易でなく、また個人ごとの状態に応じた判定が困難でした。今回、本プロジェクトの1年目の研究成果として、センシングデータから個人の歩き方に合わせて「歩行」や「ドアの開閉」などのイベントを抽出し、同時発生、もしくは連続発生するイベントに着目することで、これまで医療従事者が気づかなかった隠れた異常を発見する技術を開発しました。本技術により、例えば、「足を引きずるように歩く患者さん」が「歩行」しながら「ドアの開閉」を行う際に「バランスを崩す傾向(運動機能不全)がある」などの異常を検出でき、日常生活に潜んだ個人ごとに異なるリスクを見つけることが可能になります。
今後、ほかの症例での検証や、スマートハウス外での適用・検証を進める予定です。また、将来的には高齢者や患者向けに、自宅や施設において個人に合わせたリスク行動の提言など日常生活を支援するサービスへの適用を目指します。
背景
高齢化社会が進展しても、個人の安全・安心で豊かな自立した生活を支援することを目的に、2013年7月より3年間、富士通研究所は、アイルランドの研究機関であるCASALA、INSIGHT@UCDと共同研究を実施しています。共同研究では、スマートハウスに居住する高齢者や患者を対象に、身に着けたセンサーや居住空間に埋め込んだセンサーから収集したデータを可視化・分析する技術の開発を進めています。
自立生活を支援する専門医の知見も取り入れ、健康管理や日常生活をICTで支援するためのシステムの開発や、そのシステムを用いた高齢者や患者向けのソリューション構築を目指しています。
現在、アイルランドのスマートハウスで実施中の、ICTを活用した居住者の健康モニタリングと自立生活支援のための研究プロジェクトでは、居住環境に埋め込んだ約110種類のセンサーと患者が身に着けたセンサーから日常生活におけるデータを収集しています(図1)。
図1 日常生活におけるセンシングデータの収集
課題
従来、センサーから得られる膨大なデータから医療従事者にとって意味のある機能異常などの健康リスクに関係するデータを抽出するのは容易でなく、また個人ごとの状態に応じた判定が困難でした。例えば、歩行のデータの場合、歩幅や、ふらつき、強さなど、抽出できる特徴は50種類以上あり、さらにその特徴は個人ごとに異なるため、様々な疾病や体調不良で起こりうる運動機能不全の兆候など、日常におけるリスクを見つけるのは困難でした。
開発した技術
今回、膨大なセンシングデータから、個人の歩き方の特徴に合わせて「歩行」や「ドアの開閉」などのイベントを抽出し、同時発生、もしくは連続発生するイベントに着目することで、例えば、足を引きずるように歩く患者が歩行をしながらドアの開閉を行う際にバランスを崩す傾向があるといった異常を検出する技術を開発しました(図2)。
開発した技術の特長は以下のとおりです。
- 個人の状態に合わせてイベントを検出しその特徴を数値化する技術
環境センサー、体の動作センサー、バイタルセンサーを用いて、起立や歩行といった人の日常の動作(生体イベント)を継続的に抽出し、さらに個人や症例ごとに異なる特徴を数値化します。
例えば、足に着けたセンサーの値が基準値を超えた場合に歩行と判定する場合、歩行速度が極端に遅い人は基準値を下げる必要があります。一方、通常の歩行速度の人は基準値を下げることが誤検出の原因になります。これを避けるため、居住環境に埋め込んだセンサーを利用して行動を特定し、生体イベントの情報と関連付けることで、個人に合わせて基準値を自動最適化する技術を開発しました。
基準値の実例としては、部屋のドアに装着した開閉センサーが、一定時間内に2か所反応した場合、その間の廊下を歩行したと判断し、そのデータを基準に歩行検出のための基準値を設定します。
これにより、日常生活を通じて個人に合わせた基準値を設定できるため、より正確な生体イベントの検出が可能になります。足の疾患の有無にかかわらず患者の歩行を容易に検出できるようになり、歩幅や、ふらつき具合、歩みの強さなど、歩き方の特徴を50種類以上抽出して、行動や健康状態に応じた特徴の変化を定量的に比較できます。
- イベント間の隠れた関係性を抽出する技術
運動機能不全の兆候は、連続する異なる動作や、同時に発生する動作によって起きやすいことが知られています。例えば、ドアを開ける動きは、開ける動作と体のバランスを取る動作が重なるため、足さばきが難しくなり、隠れた異常が現われやすいと言われています。また、椅子から立ち上がって歩くといった2つの連続した動作では、行動が変化するところで異常が現われやすいと言われています。
これらの医学的知見を起点として、大量に抽出される歩行特徴などの生体イベント情報と、扉を開閉など居住環境の変化(環境イベント)の情報から関係の深いパターンを抽出する技術を開発しました。各患者の症状に関わる生体イベントと発生条件に関わる環境イベントの関係性を繰り返し抽出することで、これまで医療従事者が気づかなかった新たな運動機能不全の事象を発見することが可能になります。例えば、ベッドから起きた後に歩行の状態が異常となる事例では、医療従事者によると、関節のこわばりや起床後の血圧などの異常が疑われるということがわかりました。
図2 連続する動作や同時発生する動作の抽出イメージ
図3 開発技術の活用イメージ
効果
本技術により、日常の行動や状態を数値化して、人によって異なる隠れた異常を明らかにすることが可能となり、例えば、「足をひきずるように歩く」ある患者さんは「ベッドから起きた」直後の「歩いている」時にバランスを崩す傾向があるなどの、日常生活に潜んだ個人ごとに異なるリスクを検出することが可能になります。
今後
富士通研究所、Fujitsu Ireland Ltd.、富士通は、本技術の2017年度中の実用化を目指し、アイルランドでの実証プロジェクトを通じて、ほかの症例での検証や、スマートハウス外での適用・検証を進めます。
また、将来的には、自宅や施設などにおいて個人に合わせたリスク行動の提言や医療従事者向けの業務支援など様々なサービスへの適用を目指します。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 代表取締役社長 佐相秀幸、本社 神奈川県川崎市。
- 注2 Fujitsu Ireland Ltd.:
- 本社:Lakeshore Drive , Airside Business Park , Swords, County Dublin, Ireland, CEO Regina Moran。
- 注3 富士通株式会社:
- 代表取締役社長 山本正已、本社 東京都港区。
- 注4 CASALA:
- Centre for Effective Solutions for Ambient Living Awareness
センシング環境を備えた実験用スマートハウス「Great Northern Haven」をアイルランドのダンドークにて設立・運営し、居住者の方々の協力のもと、様々な機器の試験や活動のモニタリング、サービス提供実験などを実施。 - 注5 INSIGHT@UCD:
- Insight Centre for Data Analytics at University College Dublin
生命科学・臨床科学・生体医用工学の専門家の知識を一つに集め、センサーWEBのコネクテッドヘルス分野への適用を推進。効率的で邪魔にならないセンシング機能と、慢性疾患や機能回復などの治療に関わるすべての関係者にタイムリーで正確な情報提供を実現するためのデータの共有・分析機能によって構成されたコネクテッドエコシステムを研究対象として活動。 - 注6 自立生活支援のための研究プロジェクト(KIDUKUプロジェクト):
- アイルランドのスマートハウスにてICTを活用した居住者の健康モニタリングと自立生活支援のための研究プロジェクトを開始(2013年6月28日 プレスリリース)
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ヒューマンセントリックコンピューティング研究所 ヒューマンソリューション研究部
044-754-2668(直通)
kiduku-press2015@ml.labs.fujitsu.com
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