PRESS RELEASE (技術)
2015年2月10日
株式会社富士通研究所
下水道氾濫の兆候を低コストに検知する技術を開発
社会インフラリスクを検知するスマートなセンシングシステムを実現
株式会社富士通研究所(注1)は、都市におけるゲリラ豪雨などによる被害軽減に向け、ICTを活用して下水道氾濫の兆候を低コストに検知する技術を開発しました。
水位計測機能を備えたセンサーをマンホールに組み込んで兆候を精度良く検知するためには、管路施設に広域にわたってセンサーを設置する必要がありますが、回線や電源などの専用施設や無線接続のセンサーなどで電池交換が必要な場合もあり1台当りの運用コストが高く、広域への設置が困難でした。
今回、地形や下水道管路の形状・距離によって生じる上流から下流までの所要流水時間の分析からセンサーを組み込むべきマンホールの位置と数を決定する技術を開発し、約5分の1のセンサー数で下水道全体の流れを把握・予測することが可能になりました。さらに測定水位の変化状況を考慮して、測定パラメーターを最適に制御する技術を開発し、状況に応じた測定精度を維持しながら消費電力を約70%削減する技術を開発しました。これにより、太陽光発電のような自然エネルギーのみで動作させることが可能となり、1台あたりの運用コストを従来の約90%削減しました。これらの技術を適用することで、都市における下水道氾濫被害の軽減に繋げていきます。
開発の背景
近年、局所的な集中豪雨による都市の浸水被害が多発しており、その予防策として、ICTを活用したリアルタイムの下水道水位モニタリング(図1)が期待されていますが、センサーの設置や運用管理に必要なコストが課題となっています。設備の削減や省エネなどの対策でコスト低減を図ることが可能ですが、その場合、測定精度や安定性・信頼性が犠牲になります。
図1 ICTを活用したリアルタイムの下水道水位モニタリングシステムの例
課題
広域にわたる下水道水位を低コストにモニタリングするためには、主なコスト要因である情報を取得するためのセンサーの設置数をできるだけ少なくすることが有効です。しかしながら、センシングする箇所は管路施設内の状況を正確に把握するための重要な要素であるため、必要最小限のセンサー設置箇所を特定することは容易ではなく、その決定方法が課題となっています。
こうしたことから、少数のセンサーで下水道管路内の状況を正確に把握するために、ICTを活用してセンサー設置箇所を決定する、下水道水位モニタリングシステムの実現が求められています。
開発した技術
今回、地形や下水道管路の形状・距離によって生じる上流から下流までの水の流れの所要時間(所要流水時間)を分析し、適切なセンサーの設置箇所を決定する技術を開発しました。また、個々のセンサーの電池交換コストを削減するために、測定水位の変化状況に応じて測定パラメーターを最適に制御する技術により、センシングの省電力化を実現しました。
開発した技術の特長は以下のとおりです。
- 水位変化の所要流水時間に基づくセンサー設置箇所の決定
今回、地形や下水道管路情報、降雨パターンから求めた水位変化の相関に基づいて、下水が上流から下流に流れるのに必要な時間を計算し、この時間を考慮して上流域の水位変化と下流域の水位変化の関係性を算出する技術を開発しました。これにより関係性の弱い箇所へのセンサー設置を省くことができ、地形・下水道管路・降雨特性に汎用なセンサー設置箇所を決定することができます。
図2 下水の所要流水時間に基づくセンサー設置箇所の決定
図3 従来例と本開発技術でのセンサー設置箇所の比較 - 状況に応じたセンシングの電力制御技術
センシングでは、測定時の電力と、測定値をネットワークの中継装置(ゲートウェイ)に通知する際の電力の合計が主に必要な消費電力になります。水位の変化が少ない晴天時は測定間隔を長めに、水位の変化が大きい降雨時は測定時間を短めに制御しながら測定と通知を行うことで、センシングの省電力化が可能になりますが、降雨時の対応が十分ではありませんでした。
今回開発した技術では、測定した水位に基づいて今後の水位変化を予測し、その時々のセンサー状況に応じて、(1)測定間隔、(2)測定値の通知間隔、(3)測定時間の三種類の測定パラメーターを自動的に調整することで、状況ごとに必要な測定データの精度を維持しながら、センシングの省電力化を実現しました。
図4 状況を考慮したセンシング省電力制御技術
効果
今回開発した技術により、全体の約5分の1のマンホールのみにセンサーを設置し、下水道全体の流れを把握・予測することを実現しました。シミュレーションでは、代表的な降雨パターンに対してセンサー状況を考慮した電力制御を適用することで、測定精度を維持しながら消費電力を約70%削減できることを確認しています。太陽光発電のような自然エネルギーのみでの運用を想定すると、1台当りの運用コストを従来の約90%削減することが可能です。
今後
富士通研究所は、センシングデバイスのさらなる省エネやコスト低減のための技術開発、センシングデータの利活用方法などの検討をすすめ、本技術の2015年度中の実用化を目指します。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ソーシャルイノベーション研究所 第一ソリューション研究部
046-250-8186(直通)
m2m-water-query@ml.labs.fujitsu.com
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