PRESS RELEASE (技術)
2014年12月10日
株式会社富士通研究所
業界初、バイオ素材を用いた水性植物性塗料を開発
溶剤系塗料と比較し、CO2排出量60パーセント、揮発性有機化合物(VOC)を80パーセント削減
株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)はこのたび、業界で初めて、サーバやパソコンなどのICT機器のプラスチック筐体に適用可能な水性植物性塗料を開発しました。
今回開発した水性植物性塗料は、植物由来のポリ乳酸樹脂のエマルション(注2)を用い、反応性に富むイソシアネート(注3)との結合による硬化反応と加熱によるポリ乳酸樹脂の粒子間の融着を同時に進めることで、低温乾燥での塗膜化を実現しています。開発した塗料は、従来の溶剤系塗料と比べて、CO2発生量を60パーセント(以下%)(注4)、揮発性有機化合物(注5)(以下、VOC)を80%削減できます。
今後、サーバ、パソコンなど自社製品への適用拡大を図り、省資源化と環境負荷の低減に取り組んでいきます。
本技術は、12月11日(木曜日)より東京ビッグサイト(東京都江東区)にて開催の「エコプロダクツ2014」に出展します。
開発の背景
地球温暖化が急速に進んでおり、CO2排出量の低減が急務となっていますが、さらに大気中の光化学反応により、光化学スモッグを引き起こす原因物質の一つとされるVOCの削減も地球環境保全における重要な課題となっています。VOCは主に、溶剤系塗料、印刷インキ、接着剤、洗浄剤、ガソリン、シンナーといった物質に含まれおり、その排出量の約40%は塗料が占めています(注6)。
当社は2002年よりトウモロコシなどを原料とするポリ乳酸系のバイオプラスチックをノートパソコンの筐体などに採用してきました。近年は、バイオ系の素材の適用として、筐体材料に加えて、溶剤系塗料への採用も始まっています。
VOCの大部分は塗料中の溶剤に含まれることから、VOC削減には、溶剤系塗料から水性塗料への切り替えが有効であり、当社では、2013年、業界で初めてICT機器に適用可能な水性塗料を開発し、富士通のUNIXサーバ「SPARC M10-4」、「SPARC M10-4S」に適用されています。
課題
サーバやパソコンなどICT機器の塗装を溶剤系塗料から水性植物性塗料に切り替えるためには、ICT機器の筐体塗装に求められる塗膜性能である、硬度、密着性、耐薬品性、耐候性、意匠性などの点から以下の課題がありました。
- ポリ乳酸エマルションを用いて塗膜化すると、塗布基材と密着性が低く、もろい塗膜となる。
- ポリ乳酸は、加水分解しやすいため、水の付着により塗膜が白く変化してしまう。
- 水性塗料において、樹脂粒子は水に溶解せず微粒子の状態で浮遊しているので、樹脂粒子間を接近、融着させるために、水分を蒸発させ乾燥する必要がある。そのためには、乾燥温度を100度以上にする必要があるが、ICT機器で使われているプラスチック筐体は、高い乾燥温度に耐えることができず、変形してしまう。
開発した技術
富士通研究所では、このたび塗料メーカーのミカサペイント株式会社(注7)の協力の下、バイオ素材であるポリ乳酸エマルションを用いて、ICT機器に適用可能な塗膜性能が得られる水性植物性塗料を開発しました。
今回開発した水性植物性塗料は、硬化反応と樹脂粒子の融着との両方の効果を使って塗膜化し、ICT機器の筐体に求められる塗膜性能を実現しました。開発した技術の特長は以下のとおりです。
- ポリ乳酸エマルションの加水分解を進める水酸基とイソシアネートをウレタン結合させて加水分解を抑制し、耐水性のある強固な塗膜を実現しています。
- 補助的な溶剤(助剤)を少量添加して水分の揮発状態を調整することにより、ウレタン結合が進みにくいポリ乳酸エマルションの反応促進、融着の同時進行を、プラスチック筐体の形状変形が発生しない低温乾燥で可能とし、ICT機器の筐体に求められる塗膜性能を達成しています。
ICT機器に必要な塗膜性能
効果
本水性植物性塗料を使用することで、CO2排出量を従来に比べ60%削減でき、環境負荷の低減に貢献します。さらにVOC排出量も従来の溶剤系塗装と比較して80%削減できます。
溶剤系塗料、水性塗料、水性植物性塗料の組成
今後
富士通研究所は、調色や量産技術の研究開発を進め、2016年度中の実用化を目指します。また、富士通のICT機器への適用を進めることにより、より一層の省資源化と環境負荷の低減に取り組んでいきます。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐相 秀幸。
- 注2 エマルション:
- 互いに混じり合わない2種の液体で、一方がほかの液体中に微粒子状で分散しているもの。身近な例としてはマヨネーズ、牛乳など。
- 注3 イソシアネート:
- -N=C=O という部分構造を持つ化合物。イソシアネートの炭素は電子不足となっているため非常に反応性に富む。
- 注4 CO2発生量を60パーセント削減:
- 開発した塗料の製造から廃棄まで全体にわたってCO2換算した値。
- 注5 揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds):
- 常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化学物質の総称。環境中へ放出されると、公害などの健康被害を引き起こす。
- 注6 VOC排出量の約40%を塗装が占める:
- 平成25年度 揮発性有機化合物排出インベントリ検討会報告書。
- 注7 ミカサペイント株式会社:
- 本社 千葉県市川市、代表取締役社長 寺内裕雅。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ものづくり技術研究所 ハードウェアエンジニアリング研究部
046-250-8224(直通)
hel-pr@ml.labs.fujitsu.com
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