PRESS RELEASE
2014年11月19日
独立行政法人理化学研究所
国立大学法人筑波大学
富士通株式会社
スーパーコンピュータ「京」でHPCチャレンジ賞クラス1、2を受賞
スパコンの総合的な性能と並列プログラミング言語の生産性について高い評価
理化学研究所(理研、野依良治理事長)、筑波大学(永田恭介学長)と富士通(山本正已代表取締役社長)は、スーパーコンピュータの総合的な性能を評価するHPCチャレンジベンチマークをスーパーコンピュータ「京(けい)」(注1)で測定した結果により、2014年「HPCチャレンジ賞(注2)クラス1」の4部門中2部門で第1位を獲得しました。第1位を獲得したのは、(1)Global HPL(大規模な連立1次方程式を解く演算速度)(2)EP STREAM(Triad) per system(多重負荷時のメモリアクセス速度)の2部門です。「京」は「HPCチャレンジ賞クラス1」を2011年から今年2014年まで4年連続第1位を獲得しています。
さらに、理研と筑波大学が共同開発したスーパーコンピュータ用並列プログラミング言語「XcalableMP(エクスケーラブル・エム・ピー)(注3) 」と「XcalableACC(エクスケーラブル・エー・シー・シー)(注4)」が、プログラミング言語の生産性を評価する「HPCチャレンジ賞クラス2パフォーマンス賞」を受賞しました。XcalableMPは2年連続の受賞になります。
米国ニューオーリンズで開催中のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「SC14」で18日(日本時間19日)に発表されました。
HPCチャレンジベンチマークは、科学技術計算で多用される28項目の計算パターンによって、スーパーコンピュータの総合的な性能を多角的に評価するベンチマークプログラムです。年に1度行われているHPCチャレンジベンチマークを用いたコンテストには、ベンチマークの性能を競うクラス1と、ベンチマークを実装するプログラミング言語の生産性を競うクラス2があります。
HPCチャレンジベンチマークの中で特に重要な(1)Global HPL、(2)EP STREAM(Triad) per system、(3)Global FFT、(4)Global RandomAccessの4つについては、「HPCチャレンジ賞クラス1」として各部門の第1位が表彰されます。理研、筑波大学、富士通は、これらのベンチマークの性能を「HPCチャレンジ賞クラス1」に登録しました。特に、筑波大学はGlobal FFTの高速化に大きく貢献しています。
「HPCチャレンジ賞クラス2」は、HPCアプリケーションを実装するプログラミング言語を対象としたコンテストです。本賞では、「HPCチャレンジ賞クラス1」の 4つのHPCチャレンジベンチマークの実装に対して、プログラミング言語の生産性と性能の両方を評価します。
今回受賞した並列言語XcalableMPは、理研計算科学研究機構と筑波大学計算科学研究センターが共同で開発している並列プログラミング言語です。また、同時に受賞したXcalableACCは演算加速器を搭載したスーパーコンピュータに対してアプリケーションを開発できるようにXcalableMPを拡張した言語です。XcalableMPによって作成したHPCチャレンジベンチマークを「京」を用いて性能評価を行い、非常に高い生産性と性能を発揮することを示しました。さらに、XcalableACCにおいても演算加速器を搭載した筑波大学のスーパーコンピュータHA-PACS(注5)を用いて性能評価を行い、同様に高い生産性と性能を発揮することを示しました。
「京」のように大規模な計算環境で動作するアプリケーションを、性能を保ったまま短時間で開発できるプログラミング言語は、研究を加速させることができるため、国内外の多くの研究者から待ち望まれています。本受賞はXcalableMPおよびXcalableACCの持つ高い生産性と性能を実証するものであり、HPCアプリケーションの開発に対してそれらの言語が極めて有効であることを示すものです。
2014年「HPCチャレンジ賞クラス1」4部門の上位は以下の通りです。
Global HPL | 性能値(TFLOP/s) | システム名 | 設置機関 |
---|---|---|---|
1位 | 9,796 | 京 | 理研 計算科学研究機構 |
2位 | 5,709 | Mira | アルゴンヌ国立研究所 |
EP STREAM(Triad) per system | 性能値(TB/s) | システム名 | 設置機関 |
1位 | 3,857 | 京 | 理研 計算科学研究機構 |
2位 | 1,426 | Mira | アルゴンヌ国立研究所 |
Global FFT | 性能値(TFLOP/s) | システム名 | 設置機関 |
1位 | 226 | Mira | アルゴンヌ国立研究所 |
2位 | 206 | 京 | 理研 計算科学研究機構 |
Global RandomAccess | 性能値(GUPS) | システム名 | 設置機関 |
1位 | 2,021 | Power 775 | IBM |
2位 | 472 | 京 | 理研 計算科学研究機構 |
3位 | 418 | Mira | アルゴンヌ国立研究所 |
以上
注釈
- 注1 スーパーコンピュータ「京(けい)」:
- 文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年9月に共用を開始した計算速度10ペタフロップス級のスーパーコンピュータ。「京(けい)」は理研の登録商標で、10ペタ(10の16乗)を表す万進法の単位であるとともに、この漢字の本義が大きな門を表すことを踏まえ、「計算科学の新たな門」という期待も込められている。
- 注2 HPCチャレンジ賞:
- HPCチャレンジベンチマークとは、科学技術計算で多用される計算パターンから抽出した28項目の処理性能によって、スーパーコンピュータの総合的な性能を多角的に評価するベンチマークプログラム。そのHPCチャレンジベンチマークを基に評価するのがHPCチャレンジ賞である。HPCチャレンジ賞にはベンチマークの性能値を競うクラス1と、プログラミング言語の実装における生産性と性能の両方の高さを競うクラス2がある。クラス1は以下の4つの部門で構成され、それぞれシステムを構成する主要な要素(CPUの演算性能、メモリへのアクセス性能、ネットワークの通信性能)の性能が評価される。
・Global HPL:大規模な連立1次方程式を解く演算速度
・EP STREAM(Triad) per system:多重負荷時のメモリアクセス速度
・Global FFT:高速フーリエ変換の総合性能
・Global RandomAccess:並列プロセス間でのランダムメモリアクセス性能
クラス2は、HPCアプリケーションを作成するプログラミング言語に対して与えられる。クラス1で用いられる4つのベンチマークから3つ以上を選択し、それらの実装に対するプログラミング言語の生産性とベンチマーク性能の両方を評価する。また、クラス1以外のベンチマークも最大2つまで任意に選択可能であり、全てのベンチマークの実装に対する総合評価によって決定され、パフォーマンス賞とエレガンス賞が授与される。 - 注3 XcalableMP(エクスケーラブル・エム・ピー):
- 大規模並列計算機で動作する並列アプリケーションを開発できるプログラミング言語。XcalableMPを用いることにより、計算速度を保ったまま、従来の方法と比較して簡易に並列アプリケーションの開発が可能になる。http://www.xcalablemp.org/
- 注4 XcalableACC(エクスケーラブル・エー・シー・シー):
- XcalableMPおよび演算加速器のためのプログラミングの標準規格であるOpenACCを拡張したプログラミング言語。従来のXcalableMPの構文に加え、演算加速器間の通信を行う構文などが追加されており、演算加速器を搭載した並列計算機で動作するアプリケーションを簡易に開発することができる。XcalableACCはJST-CREST研究領域「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」、研究課題「ポストペタスケール時代に向けた演算加速機構・通信機構統合環境の研究開発」の支援を受け、開発が行われている。
- 注5 HA-PACS(エイチエー・パックス):
- 筑波大学が開発した、代表的な演算加速器であるGPU(Graphics Processing Unit)を搭載したスーパーコンピュータ。少ない電力で効率的に計算することを競うコンテストであるGreen500において、HA-PACSのTCA(Tightly Coupled Accelerators:密結合並列演算加速機構)部が世界第3位にランクインしている(2014年6月時点)。http://www.ccs.tsukuba.ac.jp/research/research_promotion/project/ha-pacs
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