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PRESS RELEASE

2014年11月11日
株式会社富士通研究所

オーストラリア国立大学(ANU)と共同で、
天然林の新たな管理方法を「World Parks Congress 2014」に提案

株式会社富士通研究所(本社:神奈川県川崎市、代表取締役社長:佐相秀幸、以下 富士通研究所)は、オーストラリア国立大学(所在地:オーストラリア キャンベラ、学長:イアン・ヤング教授、以下 ANU)と共同で、山火事後の天然林の新たな管理方法を「World Parks Congress 2014」に提案します。

世界有数の巨木が生い茂るオーストラリアの天然林の山火事後の生態系に関して、当社の環境負荷を定量評価するLife Cycle Assessment(LCA)技術を適用し、ANUがオーストラリアのビクトリア州のセントラルハイランドにおいて、フィールド調査で取得した植生の状態や動物の生息状態などの生態系のデータ を解析することで、森林の炭素貯留量(注1)の変化を定量的に把握しました。その結果、二酸化炭素(CO2)の排出を抑制する炭素貯留と希少動物の保護の観点から、従来の方法とは全く異なる、天然林の新たな持続可能な管理方法を見出しました。

提案内容の詳細は、11月12日(水曜日)からオーストラリアのシドニーで開催される自然保護地域に関する世界最大の会議「World Parks Congress2014」にてANUと連名で発表(注2)します。

共同研究の取り組み

ANUは、約30年間に渡る実験森林でのフィールドワークで取得した植物の種類や量、成長の記録、哺乳類や鳥類などの動物の種類や個体数、行動範囲などの膨大な生態データ を蓄積し、森林とそこに生息する生物へ、山火事や伐採などの様々な攪乱がどのように影響するかを研究しています。

富士通研究所は、ICTの利活用による、環境負荷の低減や生物多様性の保全への貢献を目指しています。とくに、環境負荷を定量評価するLCA技術や生物多様性保全の評価技術の研究を進めています。

2012年10月から開始した共同研究では、ANUの所有する貴重なフィールドデータに、当社の評価技術を適用して、山火事などの森林への攪乱の影響を解析しました。

背景

日本は、木材チップの世界最大の輸入国であり、その27%をオーストラリアから輸入していますが、オーストラリアでは昨今、山火事が多発しており、天然林が山火事にあうことも珍しくありません。オーストラリアには1.56億ヘクタール(世界の4%)の森林がありますが、2009年のビクトリア州の火災は40万ヘクタールにおよびました。

オーストラリアでは、山火事後の森林は天然林であっても、皆伐とスラッシュバーニング(伐採後、切株など残った木くずをすべて焼き払うこと)を実施し、その後植林することで、将来の木材資源を確保する取り組みが一般的でした。また、山火事後は、生物が生息しにくい環境になるとの考えから、生態保護区としての価値はあまり考慮されていませんでした。

解析と結果

CO2の排出や生物多様性への影響が大きなオーストラリアの山火事を対象に、ANUが取得した山火事後の森林の生態系のデータを用い、当社が開発したLCA技術を適用した炭素貯留量の評価と動物の生息適性の評価に関する以下の共同研究を行いました。

  1. 森林のCO2(炭素換算)の量(排出、貯留、吸収):森林変化(自然の山火事、人為的な木材資源の利用)と炭素量の関係をシミュレーションで解析。

    その際、富士通のLCA技術を、図1に示す木材の利用過程に適用しました。この適用により今まで森林の中だけで考えられていた炭素の移動を社会全体の木材利用にまで拡大し、炭素の最終的な形態であるCO2の排出量としてより正確に計算できるようになりました。

    図1 森林資源の利用による炭素のフロー図
    図1 森林資源の利用による炭素のフロー図

  2. 動物の生息地の適性:実験森林での山火事前後の希少な代表生物である有袋類、ポッサムの生息数の調査と解析。

    以下の解析結果については、生態関連の学会で論文発表(注3)しています。

    1. 山火事後、従来から実施されている皆伐・植林を行うことに対し、森林の自然の回復力を活用する場合の炭素貯留量は2倍以上となる(図2)。
    2. 焼け残った木の穴の状況・状態によりポッサムは山火事の場所に戻ること。

      図2 山火事後の森林管理方法による炭素貯留量のシミュレーション結果
      図2 山火事後の森林管理方法による炭素貯留量のシミュレーション結果

World Parks Congress2014へ新たな森林管理方法の提案

今回、この解析結果を元に、政策決定者、林業関係者、開発事業者などが参加する自然保護地域に関する世界最大の会議「World Parks Congress2014」(国際自然保護連合主催)にてANUと連名で、山火事後の天然林に対しCO2排出抑制や希少生物の保護に適した以下の森林管理方法を提言します。

  1. CO2排出抑制の観点から、山火事後、天然林では従来から実施されている皆伐・植林よりも、森林の自然の回復力を活用すべきである。
  2. ポッサムは山火事の場所には戻らないので保護区の必要はないとの従来の考えに対して、天然林では焼け残った木の存在は重要な棲家となり、穴の状況、状態によっては戻ることができると分かったため、ポッサムの保護区に設定すべきである。

今後

今後は、共同研究を発展させ、森林などの自然資源のトータルな価値を認識し、自然からの恵みを将来も継続的に享受できるよう、ICTを利活用した生物多様性保全に貢献し、人と生物が共存共栄できる社会の実現を目指します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 炭素貯留量:
森林では、立木や倒木、切り株、下草や落ち葉、腐葉土など、いわゆるバイオマスとして様々な形態で保持されている炭素の量。
注2 ANUと連名で発表:
発表タイトル “Evaluation of ecosystem services: the case for protection of the Mountain Ash forests in Victoria“と “Protecting Natural Ecosystems is the Best Form of Climate Change Mitigation in the Land Sector”
注3 生態関連の学会で論文発表:
“Managing temperate forests for carbon storage: impacts of logging versus forest protection on carbon stocks”, H. Keith, et al., Ecological Society of America(esa) Ecosphere, Volume 5, Issue 6 (June 2014)
“Fire severity and landscape context effects on arboreal marsupials”, D.B. Lindenmayer, et al., Biological Conservation 167 (2013) 137-168

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ソーシャルイノベーション研究所 第一ソリューション研究部
電話 046-250-8361(直通)
メール biodiversity@ml.labs.fujitsu.com


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