PRESS RELEASE (導入事例)
2014年1月24日
富士通株式会社
東京大学宇宙線研究所様の新計算機システムが稼働
膨大な宇宙線観測データの蓄積と高速解析性能により、宇宙・素粒子物理学研究の発展に貢献
当社はこのほど、国立大学法人東京大学宇宙線研究所(所在地:千葉県柏市、所長:梶田 隆章様、以下、宇宙線研)様のPCクラスタシステムを中核とした宇宙線(注1)研究向けの新計算機システムを構築し、宇宙線研様は1月1日より稼働を開始しました。
本計算機システムは、陽子、ガンマ線、ニュートリノといった宇宙粒子線の観測データの蓄積・解析を行うシステムで、宇宙線研様が推進する国内外の様々な宇宙・素粒子共同利用研究プロジェクトで活用されます。
本計算機システムは、当社製PCサーバ「FUJITSU Server PRIMERGY CX250 S2」136台を用いたPCクラスタシステムによる計算サーバと、ストレージシステム「FUJITSU Storage ETERNUS DX80 S2」33台、高性能、高信頼なスケーラブルファイルシステムソフトウェア「FEFS(エフ・イー・エフ・エス)」(注2)を用いた高速分散ファイルシステムを中心に構成されています。
計算サーバにおける整数演算性能は、ベンチマークSPECint_rate2006において96,426(注3)となり、従来システムの約10倍、ファイルサーバにおけるストレージ容量は、約3.2倍の4.4ペタバイト(以下、PB)、データ転送速度は18ギガバイト(以下、GB)/s以上と従来システムに比べて、約30倍向上しています。
当社は、本計算機システムにより、KAGRA(かぐら)プロジェクト(注4)をはじめとする最先端の宇宙・素粒子研究を支援し、宇宙・素粒子物理学研究の発展に貢献してまいります。
新計算機システム導入の背景
宇宙線研様では、国立大学法人東京大学を中心とした複数の研究プロジェクトが宇宙・素粒子分野において共同利用する研究環境として、1991年1月からPCクラスタシステムを導入されています。国内外の拠点において、高エネルギー宇宙線、高エネルギーガンマ線、ニュートリノ、重力波などに関する研究を行っており、現在までに、スーパーカミオカンデ(注5)プロジェクトにおけるニュートリノ振動の発見や、宇宙線による太陽の影(注6)の観測などの成果を上げてきました。
今後、宇宙線研様では、宇宙・素粒子研究の拡張とともに、重力波の世界初観測を目指すKAGRAプロジェクトや、宇宙の超高エネルギー現象の解明を目指す国際宇宙ガンマ線天文台CTA(注7)など、新たな実験プロジェクトの推進を計画されています。
このため、蓄積する観測データや解析量が大幅に増えることが想定され、新計算機システムには、データ解析性能の向上、ストレージ容量の増大とデータ入出力性能の向上などが求められました。
新計算機システムでは、これらの要件を満たすため、ハードウェア刷新により整数演算性能を従来比約10倍にするとともに、宇宙・素粒子研究における観測データを約6年間分蓄積できるストレージ容量を備え、スケーラブルファイルシステムソフトウェア「FEFS」の採用により、データ入出力負荷が集中した場合のボトルネックを解消するなど、より精度の高い研究を効率的に行える環境を構築しました。
新計算機システムの概要
新計算機システムは、データ解析を実施するための計算サーバと、観測したデータを蓄積するためのファイルサーバの大きく2つの機能で構成されています。
- 計算サーバ:
「PRIMERGY CX250 S2」136台で構成されるPCクラスタです。最新CPUを用いたシステムにより、整数演算性能はSPECint_rate2006で96,426となり、従来システムに比べて性能が約10倍向上しました。
- ファイルサーバ:
「FUJITSU Server PRIMERGY RX300 S7」10台と、「ETERNUS DX80 S2」33台で構成され、ストレージ容量4.4PB、 データ転送速度は18GB/sであり、従来システムに比べてストレージ容量で約3.2倍、データ転送速度は約30倍向上しました。また、ユーザーやグループごとに割り当てる容量と転送帯域を設定する機能を持つ当社のスケーラブルファイルシステム「FEFS」を採用し、複数研究プロジェクトが共同利用するのに最適な研究環境を実現しました。「FEFS」は2011年にスーパーカミオカンデのシステムにも導入し、その実績が評価されています。
このほか、宇宙線研様は450名のユーザーのログイン環境となるサーバとして「FUJITSU Server PRIMERGY RX200 S8」12台、ネットワークストレージとしてストレージ容量22テラバイト(以下、TB)の「FUJITSU Storage ETERNUS NR1000 F3220」、メールやWEBといったネットワークサービスを提供するサーバとしてPCサーバ15台、ストレージ1台、さらにネットワークスイッチなどをあわせて導入しました。
今後の展望
本計算機システムを利用して、宇宙線研様は、国内外のプロジェクトとともに、宇宙をより深く広く探査することにより、高エネルギーの宇宙粒子線がどこでどのように生成され、加速されるかなどの宇宙の超高エネルギー現象のメカニズムを解明します。さらに、ニュートリノの性質や未知の素粒子の探査を通して、今までの宇宙や素粒子物理に関する研究がさらに発展します。また、史上初の重力波検出を通し、一般相対性理論の検証や宇宙の進化の謎に迫るなど、全く新たな側面から見た宇宙の描像が明らかになることが期待されます。
新計算機システムの主な構成
新計算機システムは、宇宙線研を中心とした複数の研究プロジェクトによって、利用されています。
図1 新計算機システムの主な構成
東京大学宇宙線研究所 准教授 奥村 公宏様からのコメント
宇宙線研究所では今後新しい研究プロジェクトが次々と開始予定であり、それに伴って観測データの増加が見込まれます。これらのデータの蓄積および高速処理を行うべく、本研究所の電子計算機システムの性能向上が求められました。特にデータ転送性能は大幅な高速化を目指し、その要求を満たす高性能かつ高信頼のストレージとして、富士通のFEFSファイルシステムを採用しました。今後はこの計算機システムを用いて研究グループから次々と新しい観測結果が公表され、宇宙・素粒子に関する、我々が知らなかった新しい知見をもたらしてくれることを期待しています。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 宇宙線:
- 銀河系外や銀河系内に起源する原子核や素粒子などの高エネルギー粒子。どこでつくられ、どのように高エネルギーにまで加速されるのかなどはまだ解明されていない。
- 注2 FEFS:
- 「FEFS」の名称はFujitsu Exabyte File Systemの頭文字に由来。10万ノード規模で共有できる高性能分散ファイルシステム。
- 注3 SPECint_rate2006において96,426:
- 推定値。SPECint_rate2006はCPUの性能を表す指標の1種。
- 注4 KAGRA(かぐら)プロジェクト:
- 大型低温重力波望遠鏡(KAGRA)プロジェクト。2012年度文部科学省の「最先端研究基盤事業」による補助対象事業の1つとして選定され、宇宙線研様が推進しているプロジェクト。現在研究施設を建設中。2015年度に研究開始予定。
- 注5 スーパーカミオカンデ:
- 岐阜県飛騨市の地下に設置されている大型水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置。
- 注6 太陽の影:
- 銀河宇宙線(銀河で生成され、宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線)が太陽によって遮られる現象。
- 注7 国際宇宙ガンマ線天文台CTA:
- 従来の10倍の感度を持った望遠鏡群を用いて、1000以上のガンマ線天体の発見が期待される新プロジェクト。2014年3月に建設サイトを確定。2015年に建設開始、2020年度よりフル観測を開始する予定。
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