PRESS RELEASE (技術)
2013年1月29日
株式会社富士通研究所
ファイル転送や仮想デスクトップなどの通信性能を
ソフトウェアだけで改善する新データ転送方式を開発
日米間のファイル転送を30倍以上高速化し、仮想デスクトップの操作遅延を1/6以下に短縮
株式会社富士通研究所(注1)は、ファイル転送や仮想デスクトップなどの様々な通信アプリケーションの性能をソフトウェアだけで大幅に改善する新しいデータ転送方式を開発しました。
従来、通信アプリケーションで標準的に用いられている通信プロトコルのTCP(注2)では、無線接続時や回線が混雑しているなどの品質の悪い通信環境での利用において、データ損失(パケットロス)が発生し、データ再送による遅延により転送性能が大幅に低下するという課題がありました。今回、1)ストリーム配信に適したプロトコルのUDP(注3)をベースに独自に開発した効率的な再送方式を組込み、パケットロス時のデータ再送の遅延を低減する新プロトコル、2)UDP通信が帯域を占有する問題に対して、ネットワークの空き帯域をリアルタイムに計測し、従来のTCP通信を圧迫することなく最適な通信帯域を確保する制御技術、3)既存のTCPアプリケーションを変更することなく本プロトコルを適用するだけで簡単にTCPアプリケーションの高速化を実現する技術を開発し、ソフトウェアのみで実現することに成功しました。
本技術により、従来は高価な専用ハードウェアを必要としていたTCPアプリケーションの高速化を、ソフトウェアをインストールするだけで簡単に実現できるとともに、モバイル端末などへも簡単に実装することが可能となります。また、TCPと比較して日米間のファイル転送を30倍以上高速化でき、さらに仮想デスクトップの操作遅延を1/6以下に短縮することが可能となるため、今後普及が見込まれる国際回線や無線回線を使った様々な通信アプリケーションを快適に利用することが期待できます。
開発の背景
近年、モバイル端末やクラウドサービスの普及により、様々なアプリケーションで通信機能が利用されています。その際の通信プロトコルとして、例えば、ファイル転送や仮想デスクトップのような通信アプリケーションではTCPが標準的に用いられています。しかし、TCPは品質の悪い通信環境ではデータ損失(パケットロス)が発生し、データ再送による遅延により転送性能(スループットや遅延時間)が大幅に低下するという課題がありました。今後、国際回線や無線回線を使った利用シーンが増えることが予想され、このような品質の悪い通信環境でも通信時の転送性能が低下しないことが望まれています。
課題
現在、品質の悪い通信環境でアプリケーションの通信を高速化する手段として、専用の高速化ハードウェアを用いる方法が知られています。しかし、このような専用装置は、高価でサイズも大きいため、モバイル端末に実装することは困難でした。また、ソフトウェアによる高速化ではファイル転送に限定した高速通信手段は存在しますが、既存の様々なTCPアプリケーションに対応するためには各アプリケーションの通信処理部分に変更を加える必要がありました。
開発した技術
独自の転送方式をソフトウェアで実現し、既存のTCPアプリケーションのスループットと操作遅延を大幅に改善しました。開発した技術の特長は以下の通りです。
- 品質の悪い通信環境においてスループットと遅延時間を改善する新プロトコル
ストリーム配信に適したプロトコルのUDPをベースに独自に開発した効率的な再送方式を組込み、パケットロス時のデータ再送の遅延を低減する新プロトコルを開発しました。消失したパケットと送信中でまだ相手先に届いていないパケットを高速に識別し、無駄な再送と遅延の発生を抑止します。本プロトコルをUDP上にソフトウェアで組み込み、UDPの持つ高速性能を維持すると同時にUDPの欠点であるパケットの消失と順序の逆転を回避し、パケット送達の遅延時間を改善しました。標準的なTCPと比較した場合、日米間を想定したファイル転送で30倍以上のスループットを実現し、パケット送達時間に伴う操作の遅延時間を1/6以下に短縮しました。
図1 開発した新プロトコルの効果 - ネットワーク空き帯域のリアルタイム計測による通信帯域制御技術
本技術とTCP通信が混在する通信環境において、ネットワークの空き帯域をリアルタイムに計測し、他のTCP通信が占める帯域を圧迫することなく最適な通信帯域を確保する制御技術を開発しました。例えば、他のTCP通信の帯域使用率が低い場合は本技術の帯域使用率を増やし、他のTCP通信の帯域使用率が高い場合は、本技術の帯域使用率を減らすよう制御を行います。
- 既存のTCPアプリケーションに手を加えずに高速化する技術
今回、様々なアプリケーションで標準的に利用されているTCP通信を1.の新プロトコルに自動的に変換する機能を開発しました。これにより、ファイル転送、仮想デスクトップ、ブラウジングなどの様々な既存のアプリケーションに手を加えることなく、性能を大幅に改善することが可能となります。
効果
今回開発した技術を用いることで、今後普及が見込まれる国際回線や無線回線を使った様々な通信アプリケーションを快適に利用することが期待できます。例えば、モバイル通信においてビル影や移動にともない無線性能が劣化した環境でもWEBブラウジングやファイルのダウンロードを高速化できます。また、日米のデータセンター間におけるデータ転送の高速化が可能です。さらに品質の悪い通信環境を通じて遠隔地にあるサーバに仮想デスクトップでアクセスする場合でも、画面の操作性能を改善することが期待できます(図2)。
図2 本技術の利用シーン
今後
富士通研究所では、本技術を2013年度中に既存のTCPアプリケーションを変更することなく通信を高速化する通信ミドルウェアとして実用化することを目指します。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
- 注2 TCP(Transmission Control Protocol):
- インターネット・プロトコルの一つ。再送機構によりデータの到達を保証する。
- 注3 UDP(User Datagram Protocol):
- インターネット・プロトコルの一つ。データの到達を保証しない。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ITシステム研究所 デザインイノベーション研究部
044-754-8830(直通)
unap2013@ml.labs.fujitsu.com
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