PRESS RELEASE (技術)
2012年12月13日
株式会社富士通研究所
来店客行動をモデル化することで
店舗の複雑な混雑状況を可視化するシミュレーション技術を開発
社会シミュレーション技法をビジネスの現場に応用し、質の高い意思決定を支援
株式会社富士通研究所(注1)は、来店客の行動をモデル化することで店舗の複雑な混雑状況を可視化するシミュレーション技術を開発しました。
近年、社会における人間の行動をモデル化し、将来起こる可能性のある現象を可視化する社会シミュレーションの研究が進んでいます。これまで当社はこの社会シミュレーションを応用して、ビジネス現場での意思決定支援技法の開発を目指してきました。
今回、実際のビジネス課題である小売店のレイアウトを対象に社会シミュレーションを適用しました。小売店ではレジの台数や配置により混雑状況が大きく変わります。従来の待ち行列の計算ではレジの待ち時間を分析することは可能でしたが、レイアウトに依存した混雑の様子を把握することはできませんでした。今回、レジの来店客の行動をモデル化しシミュレーションすることで、様々な条件において混雑が生じる様子を再現することに成功しました。これにより、異なる条件での混雑状況の比較や混雑の原因の理解を支援することができ、より多くの情報に基づく質の高い意思決定が可能になります。
開発の背景
近年、サービス分野の生産性向上が強く求められていますが、サービスは顧客特性など複雑で多様な条件を扱うことが必要なため、従来のエンジニアリングの技法では意思決定の支援が難しく、マネージャーの勘と経験によって運営されることが少なくありませんでした。これに対して、複雑な現象の理解を支援する社会シミュレーションという研究が進んでいます。社会シミュレーションでは人間の行動をモデル化し、その相互作用の結果をシミュレーションすることによって、意思決定を支援する研究が行われています。しかし、社会シミュレーションは新しい研究領域であり、実際のビジネスの現場での意思決定にはほとんど用いられていませんでした。
課題
スーパーマーケットやドラッグストアなどの小売店では、レジに並び支払いを終えるまでの効率を上げ人員コストを削減するために、新しいタイプのチェックアウトシステムの導入が進められています。従来は、店舗内の混雑状況を検討する際に、レジの台数や来店客の人数を変えることで待ち時間を計算する待ち行列の計算を用いていましたが、実際の店舗において混雑状況の変化を観察したところ、時間帯によってすべてのレジに同程度の混雑が生じる場合や空いているレジと混んでいるレジに分かれる場合があることがわかりました(図1)。
今回、これらの混雑状況を再現するために社会シミュレーションを応用しました。本技術の課題は、図1の混雑状況をすべて再現するために来店客の行動ルールを明らかにし、1つの来店客行動のモデルを作ることです。
図1 現実の店舗で観測された混雑状況のパターン
開発した技術
来店客の3つの行動ルールを組み合わせることで、実際の店舗で観測された図1の混雑状況のパターンを再現できることを明らかにしました。図2は各行動ルールの概要を示したものです。
- 限定行動:来店客に視野を持たせ、一定の範囲内のレジだけを到達可能範囲と限定する。
- 評価行動:到達可能範囲内のレジの中で、各レジの待ち人数や距離を評価する。
- 回避行動:複数の来店客間での干渉を避けることで、移動経路を変更する。
図2 来店客の行動ルール
この行動ルールをモデル化し、混雑状況の変化をシミュレーションしたところ、図3のように現実の店舗で観測された混雑状況を再現することができました。これらの状況は上述した3つの行動ルールのうち1つでも欠けてしまうと、再現できません。
図3 シミュレーションから得られた混雑状況
効果
本技術では、シナリオ分析(注2)と呼ばれる技法を用いてレジの台数や配置、開閉のタイミングなどの条件を変化させ、可能性のある様々な混雑の様子を可視化します。可視化された結果をもとに、店舗で生じる様々なリスクや可能性をあらかじめ検討し、レジの配置変更やレジ開閉のタイミング、案内係りによる顧客の誘導方法などを議論することができ、より多くの情報に基づく質の高い意志決定が可能になります。
下記に本技術を用いて、レジの配置の影響を分析した例を示します。ここでは中央の商品棚から来店客が多く出現する場合に、下記の2通りのレイアウト(図4)が与える影響の分析結果を示します。
図4 レジの配置を変えた場合のシナリオ例
同じレイアウトであっても、来店客の人数や買い上げ点数の分布などの条件が変わることで結果は異なるため、これらの条件をランダムに設定し、複数回のシミュレーションを行いました。図5は、10試行ずつシミュレーションを行った際の来店客のチェックアウトに要した平均時間を示しています。
図5 シミュレーション結果
10試行の平均値で比較すると、レイアウト1のほうがチェックアウトに要した時間が長くなっています。しかし、レイアウト2でも長い時間を要する場合があることがわかります。このときの混雑状況を分析すると、商品買い上げ点数が多い来店客が中央のレジに集中することが長い時間を要する原因であり、早めに他のレジへの誘導が必要であることがわかります。このように、本技術は起こりうる混雑状況を詳しく把握でき、改善策の検討も可能になります。
今後
今回、社会シミュレーション技法を用いることで、店舗の複雑な混雑状況を可視化することに成功しました。2013年度中に、本技術を組み入れたシミュレーターを用いて、ビジネス現場での意思決定支援の試行を開始する予定です。
今後、本技術を顧客サポート業務や医療福祉業務などのサービス業務に応用していきます。また、社会シミュレーション技法の研究をさらに進め、新しいソリューションの効果を事前に評価し、意思決定を支援するための技術の開発を進めています。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
- 注2 シナリオ分析:
- 現場の状況や今後実施したい施策をシナリオとして扱い、すべてのシナリオでシミュレーションを行うことで、現場で生じる様々な可能性とその可能性が生まれる原因を分析する。早稲田大学 高橋真吾教授の提案技法。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ソフトウェアシステム研究所 インテリジェントテクノロジ研究部
044-754-2652 (直通)
simsoo@ml.labs.fujitsu.com
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