PRESS RELEASE (技術)
2012年5月8日
株式会社富士通研究所
次世代移動通信システムLTE-Advanced向け高性能受信方式を開発
データのダウンロード時間を最大30%削減し、携帯電話やスマートフォンでのスムーズな動画視聴を実現
株式会社富士通研究所(注1)は、次世代移動通信システムのLTE-Advanced向けに高性能受信方式を開発しました。
LTE-Advancedなどのシステムでは、多くのユーザーに信号を送信する場合に、基地局から複数ユーザー向けの信号を同じ時間・周波数で同時に送信することで周波数利用効率を向上させるマルチユーザーMIMO技術(注2)が採用されています。しかし本方式では、端末で自分向けの信号だけを高精度に分離することが困難でした。
今回、新たな受信方式を開発することで、従来は難しいとされていた高精度な信号分離を可能にし、受信性能の大幅な改善を実現しました。
これにより、大都市やイベント会場などの混雑した状況において、データのダウンロード時間を最大約30%削減し、動画の視聴などをよりスムーズに行うことが可能となります。
本技術の詳細は、5月6日(日曜日)から横浜(パシフィコ横浜)で開催される国際会議「IEEE 75th VTC(Vehicular Technology Conference) 2012-Spring」にて発表します。
開発の背景
近年、スマートフォンやタブレット端末の急速な普及による通信量の増大に伴い、世界各国でより高速な通信方式であるLTEが普及しつつあります。また、さらに高性能な次世代移動通信システムのLTE-Advancedは、標準化が完了し実用化を目指して技術検討が進められています。LTEは規格上、最大300Mbpsの通信速度が実現可能な方式ですが、LTE-Advancedでは、さらに高速の最大3Gbpsの通信速度を規定しています。高速化に対応するための技術として、基地局と端末側でそれぞれ複数のアンテナを利用するMIMO(注2)技術が知られています。従来は、複数のユーザー向けの信号は異なる時間や周波数を用いて基地局から送信されていました(図1)。しかし、LTE-Advancedでは、ユーザー数や通信量の増大に対応するために、MIMO技術を応用して複数のユーザー向けの信号を異なるアンテナから同じ時間・周波数で送信するマルチユーザーMIMO技術が採用されています(図2)。
図1 従来の複数ユーザー向け信号の送信方法
図2 マルチユーザーMIMO技術における複数ユーザー向け信号の送信方法
課題
基地局から複数のユーザー向けの信号を異なるアンテナから同じ時間・周波数で送信した場合、端末側では自分向けだけの信号を取り出すために、受信信号から干渉となる他ユーザー向けの信号を分離する必要があります。その際、従来はMMSE(注3)と呼ばれる技術を用いて信号分離を行うのが一般的でした(図3)。
一方、さらに高性能な信号分離方法として、基地局から送信される可能性のある全ての信号から最も信頼度の高い信号を選択するMLD(注4)と呼ばれる技術があります(図4)。MLDでは、送信される可能性のある信号を端末側で再生するために、信号の送信フォーマット(変調方式)を知っている必要があります。しかし、LTE-Advancedの規格では他ユーザー向け信号の変調方式が端末に通知されない仕様となっているため、MLDを適用できないという課題がありました。
図3 従来の信号分離技術(MMSE)
図4 高精度な信号分離技術(MLD)
開発した技術
今回、受信信号から他ユーザー向けの信号の変調方式を推定する方法を開発しました。本技術を用いることで、マルチユーザーMIMOシステムにMLD技術を適用することが可能となり、高精度な信号分離が可能となります(図5)。
図5 本技術の概要
開発した変調方式推定の特徴は以下の通りです。
他ユーザー向け信号の変調方式として、LTE-Advancedで用いられる可能性がある3種類の変調方式を仮定して、一部の受信信号についてそれぞれ受信処理を行い、推定された送信信号の信頼度を求めます(図6)。仮定した変調方式が正しい場合には推定された送信信号の信頼度は高くなり、間違っている場合には信頼度は低くなるため、この信頼度情報を比較することで変調方式を推定することが可能となります。
図6 本技術の処理の流れ
効果
今回開発した技術を用いることで、LTE-AdvancedシステムでのマルチユーザーMIMO通信において、より高性能な信号分離技術を適用することが可能となりました。計算機シミュレーションによって性能を確認したところ、多くのユーザーが同時に通信を行う状況で、通信速度が最大で約1.5倍に改善することが確認されました。これにより、データのダウンロード時間を約30%短縮できます(図7)。
図7 通信速度
今後
今後は、推定精度のさらなる改善および小型化の検討を進め、2015年頃の実用化を目指します。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市
- 注2 MIMO:
- Multiple-Input Multiple-Output。複数の送信アンテナから異なる信号を同時に送信し、複数の受信アンテナで受信した信号を分離することで高速通信を可能にする技術。
- 注3 MMSE:
- Minimum Mean Square Error(最小平均二乗誤差)。平均誤差が最小となる信号を判定する方法。
- 注4 MLD:
- Maximum Likelihood Detection(最尤検波)。受信信号と全ての送信信号候補を比較し、もっとも確からしい信号を判定する方法。
- 注5 QPSK:
- Quadrature Phase Shift Keying(四位相偏移変調方式)。2ビットのデータを平面上の4個の点に対応させる変調方式。
- 注6 16QAM:
- 16 Quadrature Amplitude Modulation(16値直交振幅変調方式)。4ビットのデータを平面上の16個の点に対応させる変調方式。
- 注7 64QAM:
- 64 Quadrature Amplitude Modulation(64値直交振幅変調方式)。6ビットのデータを平面上の64個の点に対応させる変調方式。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ネットワークシステム研究所 ワイヤレス信号処理研究部
press-mu-mimo-rx@ml.labs.fujitsu.com
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