PRESS RELEASE (技術)
2012年5月29日
株式会社富士通研究所
世界初!センサーが自律的に送信電力を最適制御することで
最大データ収集量が従来の2.6倍になる技術を開発
低コスト・高品質な無線センサーネットワーク構築に貢献
株式会社富士通研究所(注1)は、今後需要が高まると予想される無線センサーネットワーク向けに、各センサーが自律的に送信電力を最適に制御することで最大データ収集量が従来の2.6倍になる技術を世界で初めて開発しました。無線センサーネットワークでは、複数のセンサーが同時にデータ(パケット)を送信することによりパケットの衝突が起こり、通信性能が劣化することが知られています。特にセンサーが高密度に遍在するような環境ではパケット衝突が頻繁に発生してしまい、性能が著しく劣化します。
今回、パケット衝突が各センサーのデータを収集するデータ集約装置周辺に集中することに着目し、各センサーが自律的に送信電力を最適な値に制御することで、データ集約装置周辺のパケット衝突を著しく低減する技術を開発しました。これにより、従来の無線センサーネットワークと比べ、最大データ収集量を2.6倍増加させることに成功しました。
本技術を使用することで、センサーが高密度に遍在するような環境においても低コスト・高品質な無線センサーネットワークを提供することができ、各家庭の電力検針の自動化(スマートメータ)をはじめとした、人が介在しない物同士の通信であるM2M(注2)ネットワーク社会の実現へ向けて大きな貢献が期待されます。
本技術の詳細は、5月6日(日曜日)から横浜 (パシフィコ横浜)で開催された国際会議「IEEE 75th VTC (Vehicular Technology Conference) 2012-Spring」にて発表しました。
開発の背景
近年、散在するセンサーが無線を用いて自律的にネットワークを形成し、さまざまな情報を収集する無線センサーネットワークが注目を集めています。特に東日本大震災以降、人が介在しない物同士の通信であるM2Mネットワークの必要性が高まってきています。すでに各家庭の電力検針の自動化(スマートメータ)をはじめとしたM2Mネットワークが商用化されており、今後もオフィスや工場だけでなく橋梁や高架から人体に至るまであらゆる場所にセンサーが配置されることが予想されます(図1)。このため、センサーが高密度に遍在するような環境において安定したネットワークを形成することが求められています。
図1 M2Mネットワークの例
課題
無線センサーネットワークに使用されるセンサーは、他のセンサーがパケットを送信していないことを確認してパケットを送信します。ところが、互いに送信パケットが届かない関係にあるセンサー同士はパケットを同時に送信してパケット衝突を引き起こすことがあります(図2)。
従来、各センサーは通信距離をできるだけ確保するため、最大送信電力でパケットを送信していますが、互いに送信パケットが届かないセンサーの存在する領域が増大するため、パケット衝突が発生しやすくなってしまいます。特に、各センサーのデータを収集するデータ集約装置では、全センサーの情報が集まるためパケット衝突が頻繁に発生し、通信の性能が著しく劣化してしまうという課題がありました。
図2 パケット衝突の例
開発した技術
今回、各センサーが自律的に最適な送信電力に制御することで、最大データ収集量が従来の2.6倍になる技術を世界で初めて開発しました。開発した技術の特徴は以下の通りです。
- 着目点
無線センサーネットワークでは全センサーがデータ集約装置に向かってデータを送信するため、データ集約装置の周囲にパケットが集中し、それ以外の場所ではパケットがほとんど発生しないという特徴があります。そこで、データ集約装置におけるパケット衝突を最小化することで性能が大幅に向上できることに着目しました。
- データ集約装置と直接通信する領域を定義
開発技術ではデータ集約装置との距離が最大通信距離Rの半分であるR/2をセンサーがデータ集約装置と直接通信する領域と定義しました。こうすることで、その領域に存在するセンサーが互いにパケット検知することが可能となるため、データ集約装置に同時にパケットを送信することがなくなり、センサー同士のパケット衝突が無くなります(図3)。
図3 データ集約装置と直接通信する領域 - データ集約装置と直接通信しないセンサーの送信電力の抑制
データ集約装置との距離がR/2以上のセンサーが最大送信電力でパケットを送信すると、データ集約装置にパケットが届いてしまうためパケット衝突が発生します。そこで、データ集約装置と直接通信しないセンサーはデータ集約装置にパケットが届かないように送信電力を絞り込むことで、データ集約装置でのパケット衝突が無くなります(図4)。
図4 データ集約装置と直接通信しないセンサーの送信電力 - データ集約装置と直接通信するセンサーの送信電力の抑制
データ集約装置と直接通信を行うセンサーの送信電力を必要最低限にすることにより、データ集約装置と直接通信するセンサーと、データ集約装置と直接通信しないセンサーとのパケット衝突頻度を最小化します。つまり、データ集約装置と直接通信する領域のセンサーは領域内の最も遠いセンサーにパケットがぎりぎり届く程度にまで送信電力を絞り込むことで、領域内のセンサー同士がパケット検知することが可能でありつつ、データ集約装置と直接通信しないセンサーとのパケット衝突頻度を削減することができます(図5)。
図5 データ集約装置と直接通信するセンサーの送信電力 - 送信電力制御の手順
上記2,3,4を考慮して、各センサーは以下のような動作で送信電力を自律的に制御します。
(1) 各センサーはデータ集約装置からパケットを受信し、その受信電力を測定
(2) (1)で測定した受信電力から自センサーとデータ集約装置の距離を推定
(3) (2)で推定した距離から自センサーがデータ集約装置と直接通信するかどうかを上記2にもとづき判定
(4) 各センサーは送信電力を計算し、上記3、4にもとづき送信電力を制御
効果
今回開発した技術を用いることで、最大データ収集量が従来の2.6倍に向上しました(図6)。最もパケットが集中するデータ集約装置でのパケット衝突を大幅に削減することができ、安定した無線センサーネットワークを形成することが可能となりました。また、最大データ収集量が増加することで、少ないデータ集約装置数でネットワークを形成することが可能となります。これにより、センサーが高密度に遍在するような環境においても低コスト・高品質な無線センサーネットワークを提供することができ、各家庭のスマートメータをはじめとした、人が介在しない物同士の通信であるM2Mネットワーク社会の実現へ向けて大きな貢献が期待されます。
図6 性能評価結果
今後
富士通研究所では、自律分散型送信電力制御の更なる高性能化、実環境での適用を図り、2014年度中の実用化を目指します。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
- 注2 M2M:
- Machine-to-Machineの略。ネットワークに繋がれた機械同士が人間を介さずに情報交換するシステム。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ネットワークシステム研究所 先端ワイヤレス研究部
044-754-2646(直通)
tpc-press@ml.labs.fujitsu.com
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