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PRESS RELEASE (技術)

2012年3月9日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所
富士通研究開発中心有限公司

超高速光ファイバー伝送システム向け補償回路の消費電力を
約1/3に削減する革新的な歪み対策技術を開発

通信量が増大する次世代スマートフォンやクラウドサービスの進展を支えるネットワークを実現

富士通株式会社、株式会社富士通研究所(注1)と富士通研究開発中心有限公司(注2)は、数百キローメートル(以降、km)以上の長距離伝送システムにおいて、信号の波形歪みを補償するデジタル信号処理アルゴリズムを開発しました。回路規模あたりの補償能力を、一般的な従来技術と比較して約20倍、当社従来技術と比較して約3倍と格段に高め、光信号の到達距離の長距離化に成功しました。また、補償回路の消費電力を約1/3に削減することにより、ネットワーク全体の消費電力低減に貢献します。

本技術により、通信キャリアの基幹伝送ネットワークや大規模データセンター間を結ぶネットワークに対して、再生中継器が不要となるため超高速の長距離伝送システムを低消費電力・低コストで提供できるようになり、次世代スマートフォンや次世代クラウドサービスの進展を支えるネットワークを実現します。

本件で開発した技術の効果測定実験に使用した受信側デジタル信号処理LSIは、総務省からの委託研究「超高速光伝送技術の研究開発」によるものです。また、本研究成果の一部は独立行政法人情報通信研究機構(理事長 宮原 秀夫、本部 東京都小金井市)からの委託研究「光トランスペアレント伝送技術の研究開発(λリーチ)」および「ユニバーサルリンク技術の研究開発」によるものです。

開発の背景

スマートフォンの普及やクラウドサービスの進展に伴いインターネットの通信量が増大しており、通信キャリアの基幹伝送ネットワークや大規模なデータセンター間のネットワークでは、より大容量の信号を低消費電力・低コストで伝送することが重要になっています。従来の10倍以上の速さとなる1波長あたり毎秒100ギガビットを波長多重して伝送するシステムの商用化が加速しており、その後も継続的に大容量化するための研究開発が進められています。

課題

毎秒100ギガビットを超える超高速信号は、数百km以上の長距離を光ファイバーで伝送されるにつれて、非線形光学効果(注3)によって波形に歪みが累積し、やがて信号を正しく受信することが困難になります。これに対して、信号の歪みを補正してきれいな波形に復元する非線形補償技術(注4)の研究が行われています。この技術が実現すれば、高価で消費電力の高い再生中継器を用いずに信号の到達距離を延ばすことが可能となるため、ネットワークの低コスト化・消費電力削減につながります。

これまで当社では、受信器内のデジタル信号処理回路で光ファイバーによる波形歪みの逆特性を実現する方式について研究開発をすすめ、昨年9月には、従来よりも大幅な回路削減を実現するための独自技術を開発しました。しかし、とどまる気配のないデータ通信量の爆発に備えるため、いっそうの高効率化・低消費電力化が望まれています。


図1 基幹伝送ネットワークとデジタル信号処理を用いた超高速光送受信器

開発した技術

今回、補償回路の規模を一般的な従来技術と比較して約20分の1(当社技術比は約3分の1)に削減し、圧倒的に高い補償効率を実現する技術を開発しました。開発した技術は以下のとおりです。

  1. 発想の転換: 「歪みを直す」から「歪んだらきれいになる」

    従来は「歪んだ波形を元に戻す」という発想で受信側のデジタル信号処理による補償を追求してきましたが、今回、「歪んだらきれいな波形に戻るように逆歪みを加えて送信する」 という発想の転換を行いました。補償回路が受信端にある場合と異なり、送信端にある補償回路の入力波形は雑音も歪みも含まないため、波形を形成するための演算処理の単純化が可能になります。

  2. 業界標準であるDP-QPSK(注5)変調方式に特化

    従来の技術では、どのような種類の信号に対しても補償可能な汎用性を追求してきましたが、補償回路規模の低減は限界に近づきつつあります。そこで今回、毎秒100ギガビット伝送装置でデファクト標準方式となっているDP-QPSK信号に対象を絞り込み、演算式を簡略化することで、大幅に補償回路規模が削減できます。

  3. 送信光出力のパルス化によるいっそうの性能改善

    送信器から出力される光信号を、RZパルス(注6)と呼ばれる形に変換することで、さらに非線形補償の改善効果が高まることを発見しました。


図2 開発技術の効果を測定する実験系の概要

効果

本技術を、毎秒112ギガビットの伝送実験に適用した結果、他社従来技術で20段の補償回路を用いて得られるよりも高い信号品質が、開発技術ではわずか1段の回路で得られることを確認しました(図3)。回路規模が小型化されることにより、大幅な低消費電力化が可能となります。

本技術により、光ファイバーによる超高速ネットワークを、低消費電力かつ低コストで構築できるようになります。これにより、これまで以上に大容量データのやりとりを必要とする、次世代スマートフォンや次世代クラウドコンピューティングの新しいサービスを提供することができるようになります。


図3 他社従来技術、当社従来技術(2011年9月)、開発技術(今回)によって
同等の伝送品質を得るために必要な回路段数

今後

今回開発した技術を毎秒100ギガビットを超える次世代長距離光通信システムに搭載し、2015年頃までに実用化を進める予定です。また、データセンター内やアクセス網などに向けた大容量の短距離伝送など、幅広い応用分野への展開も検討していきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田 達夫、本社 神奈川県川崎市。
注2 富士通研究開発中心有限公司:
董事長 佐々木繁、本社 中国北京市。
注3 非線形光学効果:
非常に強い光が光ファイバーなどの物質を通過する際に発生する、特別な相互作用。今回問題としているのは、その一種である自己位相変調と呼ばれる、光の瞬時的な強さに応じて光の波の位相が変化する現象。
注4 非線形補償技術:
長距離光ファイバーの各点で生じる非線形効果が累積することによって発生した、複雑な波形歪みを逆算して打ち消す技術。
注5 DP-QPSK:
Dual-Polarization Quadrature Phase Shift Keying(偏波多重四値位相変調)。毎秒100ギガビットの光伝送システムで事実上の業界標準となっている変復調方式。
注6 RZ:
Return-to-Zero。光変調の符号と符号の間の切り替わりの瞬間に、光を一旦消す(ゼロにする)パルス化の方式。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ネットワークシステム研究所 フォトニクス研究部
電話 044-754-2641(直通)
メール nlc@ml.labs.fujitsu.com


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