PRESS RELEASE (技術)
2011年12月14日
株式会社富士通研究所
業界初!スマートシティへの展開に向けたピーク電力削減技術を開発
オフィスのノートPC内蔵バッテリーを使った実験により、ピーク電力を約10%削減することを実証
株式会社富士通研究所(注1)は、業界で初めて、スマートシティへの展開に向けたピーク電力削減技術を開発しました。
従来は、ビルや家庭に配置された蓄電池を電力使用量のピーク時に放電して、それ以外の時間帯でユーザーごとに充電することで、ピーク電力削減に対応してきました。しかし、この場合、蓄電池に充電する時間帯が偏って、ピーク電力を逆に増加させる危険性がありました。
本技術では、オフィスや住宅街などの使用電力や、そこに分散配置された蓄電池の残量、使い方などの情報をクラウド上に収集し、クラウド上から蓄電池を統合制御することで、ピーク電力を効果的に削減します。その際、複数パターンの需要予測とユーザーの使い方を考慮した充放電スケジュールを計画するため、ユーザーの使い勝手を損なわずにさまざまな電力需要の変動に対応させることができます。
今回、本技術をオフィスに分散して多数存在するノートPCの内蔵バッテリーの充放電制御に適用したところ、オフィス全体のピーク電力を約10%削減させることに成功(注2)しました。今後は、スマートシティへの展開を目指し、安定した電力社会を実現していきます。
開発の背景
東日本大震災の影響による電力の供給力不足に対し、省エネ規制が総電力量からピーク電力量の削減に見直され、太陽光発電や蓄電池の活用が期待されています。今後は、スマートシティにおいて、ビルや家庭などさまざまな場所に多数の蓄電池が配置されると考えられ、使用電力が少ない間に蓄電池に電力を蓄えたり(充電)、使用電力が多くなったときに蓄えておいた電力を利用する(放電)ことによって、ピーク電力の削減や使用電力の平準化を実現する仕組みが重要になってくると予想されます。
課題
スマートシティで実際に展開する際には、ビル内のオフィスや住宅街、商業地といったコミュニティー単位で、その中に配置された蓄電池の充放電を制御し、階層的にスマートシティ全体でのピーク電力を削減していきます(図1)。しかし、オフィスや住宅街など小さな規模のコミュニティーでは、ユーザー数や利用する電気機器により、使用電力が大きく変動するため、その変動を正確に予測することが困難です。また、蓄電池の充電時間帯が偏ってピーク電力が増加したり、無理な充放電スケジュールにより蓄電池の寿命を縮めたり、実際停電した時に電力が残っていなくて利用できなかったりということがないよう、ユーザーによるさまざまな蓄電池の利用用途や、蓄電池の寿命を考慮した充放電スケジュールを計画する必要があります。
図1 スマートシティにおけるピーク電力削減の実現
開発した技術
今回、コミュニティーの特性を考慮して電力需要を複数予測し、ユーザーの使い勝手を損なわずにピーク電力を削減する蓄電池の充放電制御技術を開発しました。これにより、コミュニティー内に分散配置された蓄電池を効率よく利用したピーク電力削減が可能になります。
開発した技術は以下のとおりです。
- コミュニティーの特性を考慮した複数パターンの電力需要予測技術
コミュニティー全体の過去の電力需要の変動を、午前中・昼間・夕方で使用電力が多いパターンや、一日を通じて使用電力があまり変わらないパターンなど、いくつかのパターンに分類します。次に、予測時点までの電力需要の変動から、起こりうる可能性の高い電力需要パターンに絞り込み、さらに補正をかけて予測していきます。このように予測した複数の電力需要をもとに充放電スケジュールを計画することで、どのような電力需要になっても対応することができます。
- ユーザーの蓄電池の利用用途や寿命を考慮したピーク電力削減のための充放電制御技術
クラウド上に収集したユーザーごとの使い方や各蓄電池の残量などの情報にもとづいて、ピーク電力の削減量だけでなく、各蓄電池の充放電による残量の変動も考慮した充放電スケジュールを計画します。これにより、ピーク電力を削減しつつも、放電で残量がなくなって実際にユーザーが使いたい時に使えなかったり、特定の蓄電池だけを充放電させて寿命を縮めたりすることがないようにすることが可能です。
今回、オフィスをスマートシティにおける1つのコミュニティーとし、ノートPCの内蔵バッテリーをコミュニティー内に分散配置された蓄電池に見立て、オフィス全体のピーク電力を削減する実験を行いました(図2)。実験では、オフィス内の使用電力やノートPCのバッテリー残量、ユーザーごとの使い方などの情報を、ネットワークを通じてクラウド上に収集します。クラウド上で収集したデータをもとに、オフィス内の電力需要を予測し、オフィス全体のピーク電力が削減されるよう各PCのバッテリーを充放電させるスケジュールを計画して、各PCにそれぞれの充放電スケジュールを通知しました。実際には、出張が多いユーザーのノートPCは放電時間を少なくして(バッテリー残量を多めにして)出先でのバッテリー切れを防いだり、放電させる(バッテリーで駆動させる)ノートPCが偏らないようにして特定のバッテリーだけが極端に劣化しないようにするなどの対応もクラウドから行いました。
図2 実験の概要
効果
当社のオフィス(約40名)で一部のノートPCを使った実証において、ピーク電力を削減できることを実証しました。その結果を踏まえ、オフィス内の全PC(40台)をシミュレーション上で統合制御したところ、約10%削減できることを確認しました(図3)。
図3 シミュレーション結果
今後
今後は、社内・社外での実証実験を通じて、ピーク電力削減技術の検証を進めていく予定です。さらに、スマートシティに設置される蓄電池の特性や電力の送配電などの条件、さまざまなコミュニティーの特性を考慮した電力需要予測と充放電制御によるピーク電力削減技術の研究開発を進め、持続可能な電力社会の実現を目指します。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
- 注2 オフィス全体のピーク電力を約10%削減することに成功:
- 富士通研究所内の一部署における実電力を使ったシミュレーション結果。適用部署により効果は大きく変動する可能性があります。
関連リンク
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ソフトウェアシステム研究所 ソーシャルソリューション研究部
044-754-2674(直通)
fuba-staff@ml.labs.fujitsu.com
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