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PRESS RELEASE (技術)

2011年8月8日
株式会社富士通研究所

計算機上で新しいナノデバイスの設計を可能にする大規模計算に成功

スパコンを利用して原子1,000個の電気特性シミュレーションを実現

株式会社富士通研究所(注1)は、計算機上で新しいナノデバイスの正確な設計が可能となる、原子1,000個の電気特性シミュレーションに成功しました。従来に比べて数倍の原子数を計算できるようになったため、計算機にデータを打ち込むだけで正確な結果を得ることができ、従来のように試作を繰り返す必要もなく、ナノデバイスの早期の実用化に貢献することが期待されます。

ナノスケールの世界では、原子のわずかな配置の違いがデバイスの電気特性に大きく影響するため、従来の手法では全く新しい配置構造の電気特性を正しく予測することは不可能でした。今回、原子レベルから物理の性質を正確に計算できる「第一原理計算(注2)」手法を利用し、さらに大規模な計算を効率良く並列処理することで、ナノデバイスの設計に必要となる原子1,000個の電気特性シミュレーションを実現しました。

本技術を活用することにより、超高速で省電力の全く新しいナノデバイスを設計することが可能になり、これまでにない画期的な最先端機器の実現が期待されます。

開発の背景

現在、LSIに使われるトランジスタのチャネル(電気の通り道)用の材料にはシリコンが使われており、デバイスサイズの微細化によって、デバイスの高速化や低消費電力化が実現されてきました。しかし、近年は微細化の限界に近づきつつあると言われており、性能向上が次第に困難になってきています。そのため、全く新しい素材を材料とした次世代のトランジスタ開発が盛んに行われています。

ナノテクノロジーは、ナノ(10億分の1)メートル規模の大きさを持った物質を創製し、新しい材料やデバイスを産みだす技術です。そのため、原子レベルからの研究となり、原子自身の特性はもちろんのこと、同じ原子でも原子どうしの配置の違いにより、まったく別の性質を持った物質が作られます。

ナノテクノロジーで産みだされる代表的なナノ材料にナノカーボンがあります。なかでも、2010年にノーベル物理学賞の受賞対象になった炭素素材グラフェンや、それに先駆けて1991年に発見されたカーボンナノチューブは、デバイス応用に適した優れた性質を多く持つことが判明しています。このように、これまでにない全く新しいナノデバイスの開発は、幅広い業界から期待されています。


図1 配置を変えた原子の構造ごとに全く性質が異なるカーボン材料

課題

全く新しいナノデバイスを開発する際に、実験をおこなわずに計算機上だけで正確な電気特性の計算ができれば、開発期間とコストを短縮できます。しかし、原子の配置構造のちょっとした違いでもデバイスの電気特性に大きく影響が生じてしまい、全く新しいナノデバイスの電気特性を計算機上で予測することは不可能でした。

従来にない新しいデバイスの特性を正確に予測するには、1つ1つの原子の振る舞いを正確に計算する第一原理計算による電気特性シミュレーションを利用します。しかし、第一原理計算は大規模な計算が必要なため、その適用は数100原子にとどまっており、ナノデバイスの設計に必要と考えられる原子1,000個規模の電気特性シミュレーションを実現することができませんでした。

開発した技術

北陸先端科学技術大学院大学(注3)が開発した第一原理計算プログラムであるOpenMX(注4)を利用し、原子1,000個の大規模な構造でも確実に電気特性の計算を可能にする技術を開発しました。

電気特性の計算においては、入力値を少しずつ更新しながら、計算結果が収束するまで計算を繰り返します。しかし、大規模な第一原理計算では計算が終わらなかったり、計算に大変時間がかかるといった問題が発生することがありました。

今回、北陸先端科学技術大学院大学と共同して、プログラムと運用法の改良を行い、少ない繰り返し回数で第一原理計算を確実に終了できるようになりました。


図2 技術の概要

第一原理計算には膨大な計算時間と計算メモリが必要ですが、名古屋大学情報基盤センター(注5)のスーパーコンピュータ「FX1システム」の3分の1(1,024コア)を利用し、効率の良いハイブリッド並列処理(注6)の導入により大規模なモデルの計算が可能になりました。改良した第一原理計算プログラムとスパコンの利用を組み合わせて、原子1,000個規模のモデルの電気特性を約3日間で計算できます。

効果

ナノカーボンでは、非常に電子移動度が高いグラフェンやカーボンナノチューブが開発されており、グラフェン電極とカーボンナノチューブの組み合わせは、全く新しいナノデバイスであるオールカーボン・デバイス実現の有力な候補の一つです。今回開発した技術を利用し、グラフェン電極とカーボンナノチューブを組み合わせた構造の中で、図3の構造の時の電気特性だけが、デバイス実現に望ましいオーミック特性(注7)となり、ナノチューブの長さや接合部分の構造により電気特性が大きく異なることが分かりました。この予測は、経験的な手法や従来の限られた原子数の第一原理計算では得ることができませんでした。

このように、原子数1,000個規模の電気特性シミュレーションにより、現実的なナノデバイス構造の電気特性を把握することが可能になり、新しいナノデバイスの設計の実現に向けて大きく前進しました。


図3 今回計算した原子数1,002個の構造(上から見た図と横から見た図)と電気(電流電圧)特性
(灰色球:炭素原子、黄色球:水素原子、緑色球:リチウム原子)

今後

ナノデバイスの電気特性シミュレーションだけでなく、原子レベルからの材料設計のシミュレーションなどについても、計算機上でより大規模な計算を効率的にできる技術を開発し、計算機上での仮想ものづくりを目指すとともに、新しいナノデバイスの実現に貢献します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
注2 第一原理計算:
実験データや経験パラメーターを用いず、電子や原子が従う量子力学の基本法則から物質の性質を計算する方法。
注3 北陸先端科学技術大学院大学:
学長 片山卓也、所在地 石川県能美市。
注4 OpenMX:
Open source package for Material eXplorer。
注5 名古屋大学情報基盤センター:
センター長 阿草清滋、所在地 愛知県名古屋市。
注6 ハイブリッド並列処理:
プロセス並列とプロセス内の共有メモリ(マルチスレッド)並列を併用する並列処理方法。
注7 オーミック特性:
金属などでみられる電気特性で、かけた電圧に流れる電流が比例する性質。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
次世代ものづくり技術研究センター
電話 046-250-8843(直通)
メール simu@ml.labs.fujitsu.com


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