PRESS RELEASE (技術)
2011年6月6日
株式会社富士通研究所
C~Ku帯で世界初の窒化ガリウムHEMT送受信モジュールを開発
複数の通信装置を1つに統合し、小型化を実現
本技術の詳細は、6月5日から米国ボルチモアで開催されるマイクロ波の国際学会「IEEE MTT 2011 International Microwave Symposium(IMS2011)」にて発表いたします。
窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(窒化ガリウムHEMT)とは
窒化ガリウム(GaN)は、青色LEDとして信号機に使われており、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)といった従来の半導体材料と比較して、電子の移動速度が高速で、かつ、電圧による破壊に強いという特長を持っています。このため、窒化ガリウムを用いたトランジスタである窒化ガリウムHEMTは、高出力で高効率の動作が期待されています。
開発の背景
ネットワーク社会の進展に伴い、さまざまな無線システムの電波需要はさらに増加することが見込まれます。たとえば、航空機のレーダーでは、降雨に強く遠くまで検知できるC帯と、物体を精密に測定できるX帯、Ku帯の複数周波数を切り替えて利用しています。
現在は、そのような複数周波数帯域ごとに通信装置をそれぞれ用意しています。C~Ku帯にわたる広帯域の送受信モジュールがあれば1つの装置でさまざまな需要に対応することが可能となり、システムを小型化できます。
図1. C~Ku帯の多機能レーダーの利用イメージ
拡大イメージ
課題
図2. 窒化ガリウムHEMT送受信モジュールの写真と構成
広帯域の多機能レーダーを実現するために必須となる送受信モジュールには、複数の周波数で動作する広帯域特性と、広いエリアをカバーするための高出力特性が求められています。C~Ku帯のような広帯域で10Wクラスの高出力の送受信モジュールを実現するためには、広帯域の送信増幅器と受信増幅器を利用するほか、高出力であればあるほど発熱する送受信モジュールの放熱性を向上することも重要です。
また、送受信モジュールでは高い周波数において信号を入出力する端子部分で損失が大きくなるため、18GHzまでの広帯域を確保するために入出力端子での損失を低減することも必要となります。
開発した技術
今回、窒化ガリウムHEMTを用いて、C~Ku帯(6~18GHz)の広帯域において、高出力で小型の窒化ガリウムHEMT送受信モジュールを実現しました(図3)。
開発した技術の特長は以下の通りです。
- ヒートシンクによる放熱性の向上
高出力化に伴う発熱を効率よく逃がすヒートシンク埋め込み構造を開発し、多層セラミックス基板を送受信モジュール内に作り込みました。これにより、放熱性が従来に比べ5倍に向上し、10Wクラスの出力を扱うことが可能となりました。
- 信号の入出力端子部分による損失低減
入出力端子の高周波での損失を低減する超広帯域端子構造を考案しました。この端子構造は、モジュールに入出力される高周波の信号を、従来に比べ3倍の周波数40GHzまで伝送可能です。
- 世界最高性能の小型の受信増幅器の開発
昨年開発した世界最高出力の窒化ガリウムHEMTを用いた送信増幅器に加えて、新たに窒化ガリウムHEMTを用いた受信増幅器を開発しました。受信増幅器は2.71.2 mmと小型で、3~20GHzで信号増幅率16デシベル(以下、dB)、雑音指数2.3~3.7dBの世界最高レベルの性能を達成しました。
図3. 窒化ガリウムHEMT送受信モジュール写真と断面摸式図
効果
今回開発した技術により、送受信モジュールの大きさを1230mmと小型化し、6~18GHzという広帯域で出力10Wを実現しました。
本技術を用いることで、単一の送受信モジュールで複数の周波数を使用することが可能となり、周波数を使い分けるレーダーや広帯域通信などのシステム統合が進み、機器の小型・軽量化が可能となります。
今後
本技術を、広帯域にわたって高出力で小型化が要求されるワイヤレス機器やレーダーなどに幅広く適用する予定です。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
- 注2 窒化ガリウム(GaN):
- ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
- 注3 高電子移動度トランジスタ(HEMT):
- High Electron Mobility Transistor。バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が、通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
- 注4 C帯、X帯、Ku帯:
- それぞれの帯域を総称したもの。C帯(4GHzから8GHzの周波数帯の総称。雨や霧による減衰を受けにくい特長を持つ。衛星通信、固定無線、無線アクセス、航空管制レーダー、気象レーダーなどの用途がある)。X帯(8GHzから12GHzの周波数帯の総称。混信、干渉が少なく、妨害を受けにくい特長を持つ。衛星通信、航空誘導レーダー、気象レーダーなどの用途がある)。Ku帯(12GHzから18GHzの周波数帯の総称。混信、干渉が少なく、妨害を受けにくい特長を持つ。衛星通信、各種レーダーなどの用途がある)。
関連リンク
- C~Ku帯で世界最高出力となる窒化ガリウムHEMT増幅器を開発(2010年5月27日 プレスリリース)
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
基盤技術研究所 先端デバイス研究部
046-250-8229(直通)
gan-hemt-press@ml.labs.fujitsu.com
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