PRESS RELEASE (技術)
2011年5月18日
株式会社富士通研究所
高品質な動画を途切れずに配信できるLTE基地局向け干渉制御技術を開発
従来の課題であった境界エリアでの電波の干渉を自動制御し、どこでも快適な携帯利用が可能
株式会社富士通研究所(注1)は、最先端の携帯電話システムであるLTE(注2)の基地局がカバーするエリア(セル)の境界付近における電波の干渉を解消する、独自のセル間干渉制御技術を開発しました。基地局が置かれる地形などにより変わってくるセルの形状や、各基地局が隣接する基地局と重なるセルの境界付近にいる利用者の分布に応じて、電波の干渉を低減する周波数帯域を自動で割り当てることで実現しています。本技術を基地局に搭載することで、電波の干渉による通信速度の低下が問題となる境界エリア付近において、従来と比べて約2倍の速度で通信が可能になります。
これにより、高品質な動画配信などのサービスを、どこからでも途切れることなく楽しめるようになります。
本技術の詳細は、5月15日(日曜日)からハンガリー・ブダペストで開催された国際会議「VTC2011 Spring (2011 IEEE 73rd Vehicular Technology Conference)」にて発表いたしました。
開発の背景
近年、スマートフォンの急速な普及に伴い、モバイルでの通信量が増大しています。最新の無線通信方式であるLTEは、最大150Mbpsの高速データ通信が可能であり、増加の一途を辿るモバイルブロードバンド需要を支えることが期待されています。しかし、LTEでも隣接する基地局どうしでカバーするエリア(セル)が重なってしまう部分では、互いの電波の干渉により、通信が非常に遅くなったり、動画配信などが途切れたりする場合が生じます。
今後、モバイルでの通信量が増大するなかで、利用者がどこでも快適にモバイル・ブロードバンドサービスを享受するためには、基地局がカバーする境界エリアで電波の干渉を低減する技術が重要です。
課題
電波の干渉は、図1(a)のように基地局の境界領域で、重なりあう基地局が同じ周波数を使用する場合に問題となります。図1(b)のように隣接するセルごとに異なる周波数を用いる周波数繰り返しを行うことでセル間の干渉を低減できますが、その場合には各セルで使用する周波数帯域幅が狭くなり通信速度が逆に低下してしまいます。
そこで、図1(c)のようにセルが重なっている部分のみに周波数繰り返しを行うFFR(Fractional Frequency Reuse)という方式が提案されています。これは、基地局に近いエリア(セル中心)と基地局から遠いエリア(セル端)の割り当て周波数を分離し、セル中心では送信電力を小さくしてすべてのセルで同一の周波数を用いる一方で、セル端の帯域については送信電力を大きくして周波数繰り返しを行う方式です。
図1 従来の干渉制御方式の説明
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しかし、図1(c)の干渉制御方式はセルの形状が均等であることを仮定しており、実際には以下の理由によってセルが均等でなくなり、セル間の干渉が生じる場合があります。
- 地形や建物によって電波の伝搬特性が異なる
- 送信電力やアンテナ設置高の異なる基地局が混在する
- 設置場所の制約で基地局間距離が均一でない
開発した技術
今回、セルの形状や利用者分布の偏りの影響も考慮して、セル間の干渉を抑制するLTE向けのセル間干渉制御技術を開発しました。
従来の干渉制御方式では、セルの形状や利用者の分布を考慮せずに規則的にセル端の周波数帯域を割り当てていたため、実際には隣接するセルが同じ周波数帯域であることが起こりえます(図2左)。今回の技術では、隣接する基地局が互いに状況を確認し、境界エリアの利用者への影響が少なくなるように重なり合うセルの周波数帯域を変更します(図2右)。
図2 開発した干渉制御方式の動作概要
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効果
今回開発したLTE基地局向けセル間干渉制御技術をシミュレーションによって評価した結果、セルの形状が不均一でユーザ分布に偏りが生じている場合に、干渉制御をまったく何もしない場合と比べて、境界エリアでの利用者の通信速度が約2倍に向上しました。これにより、セルの境界エリアに利用者が集中した場合でも、途切れることのない高品質な動画配信などのサービスを楽しめるようになります。
今後
今後は、開発したセル間干渉制御技術をLTE基地局に組み込んで運用するための検討を進め、2年から3年後の実用化を目指します。
商標について
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
以上
注釈
- 注1 株式会社富士通研究所:
- 代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
- 注2 LTE:
- Long Term Evolutionの略称。標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)で仕様作成された最新の移動通信方式。下り最大150Mbps、上り最大50Mbpsの高速データ伝送が可能となる。
本件に関するお問い合わせ
株式会社富士通研究所
ネットワークシステム研究所 ワイヤレス信号処理研究部
046-839-5370(直通)
press_icic@ml.labs.fujitsu.com
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