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PRESS RELEASE (技術)

2010年5月20日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所
東京大学

世界初!量子ドットレーザーで毎秒25ギガビットの高速データ通信を実現

次世代高速データ通信の光源としての適用が可能に

富士通株式会社(以下、富士通)(注1)、株式会社富士通研究所(以下、富士通研究所)(注2)、東京大学(注3)は、次世代の半導体レーザーとして期待されている量子ドットレーザー(注4)で、世界初の毎秒25ギガビット(以下、Gbps)の高速データ通信を実現しました。量子ドットの数を増加させるとレーザーの動作速度が向上することから、従来より高密度に面内配列した量子ドットを多層積層することにより、2倍の動作速度を達成しました

これにより、現行の10倍となる100Gbpsのデータ量の送受信を目指す次世代高速データ通信の光源としての適用(注5)が期待されます。

本技術の詳細は、5月16日から米国サンノゼで開催される国際会議「CLEO/QELS2010 (The Conference on Lasers and Electro-Optics and The Quantum Electronics and Laser Science Conference」にて発表いたします。

なお、本研究の一部は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)に委託されたプロジェクトに関し、一部は文部科学省の科学技術振興調整費において実施しました。また、量子ドットレーザーの研究開発は、東京大学の荒川泰彦教授の研究室と富士通、富士通研究所、株式会社QDレーザ(以下、QDレーザ社)(注6)とが共同で進めているものです。

量子ドットレーザーとは

富士通および富士通研究所が、東京大学の荒川研究室との産学連携にもとづいて開発した、大きさがナノメートル(10億分の1メートル)サイズの半導体微粒子(量子ドット)を発光部に適用した半導体レーザーです。量子ドットレーザーは、温度変化にともなうレーザーの光出力の変動を大幅に低減できるほか、低消費電力・長距離伝送・高速などの点で、従来の半導体レーザーを凌駕する画期的な特性を持ち、情報トラフィックが飛躍的に増加している光通信において、今後高性能な光源を実現する中核技術となることが期待されています。

開発の背景

クラウドコンピューティングサービスや高精細画質の映像配信サービスなどインターネットのブロードバンド化に伴い、ネットワークトラフィックは急速に増大しています。このように、年々増加するデータ伝送量に対応するために、光ネットワークのさらなる高速化、大容量化が求められています。

現在のデータ通信では10Gbpsのイーサネットが主流ですが、さらなる高速化に向けて、現行10倍となる100Gbpsの高速通信が可能な次世代データ通信の国際標準規格化(以下、100GbE)(注7)などが進められており、このような次世代高速データ通信に適用可能で高速かつ低消費電力なレーザー光源が求められています。

課題

従来、このようなデータ通信用光源として用いられていた量子井戸レーザー(注8)は、高温時に駆動電流が増大し消費電力が大きくなるという問題がありました。一方、当グループが開発してきた量子ドットレーザーは、3次元半導体ナノ構造により発現する量子力学的効果によって、温度安定動作や低消費電力動作といった優れた特性を持つ半面、データ転送速度が10Gbps以下に限られることが課題となっていました。

開発した技術

量子ドットレーザーの速度を上げるためには、レーザーの光利得を増やす必要があり、そのためには、元となる量子ドットの数を増加させることが必要になります。今回新たな量子ドット作製技術を開発し、これを適用することで、25Gbpsの高速動作が可能な量子ドットレーザーを開発しました。

開発技術は以下の通りです。

  1. ガリウムヒ素(以下、GaAs)基板上にインジウムヒ素(以下、InAs)量子ドットを高密度に面内配列する技術。これにより、量子ドットの数を従来の2倍の1cm2あたり6×1010個を実現。
  2. 高密度に配列した量子ドット層を多層化積層する技術。これにより、従来の5層から8層に増大。

量子ドットは、高真空中に置かれたGaAs基板の上にInとAsの原子ビームを照射して作製します。基板上でInAsを結晶化させる場合、原子間の距離がGaAsと比べて大きいため歪みが発生しますが、その歪を解放するように、3次元結晶化します。この3次元ナノ結晶の1個1個が量子ドットとして働きます。

今回、量子ドットの3次元結晶化のための成長条件を最適化させたことで、面内方向に従来の2倍の1cm2あたり6×1010個の量子ドットを高密度に形成する技術を開発しました。また、面内方向の高密度配列を維持したまま、従来の5層から8層まで多層化積層する技術も開発しました。

上記技術を利用して作製することで、量子ドットの数を増加させることができるため、光利得が向上し、この活性層を適用した量子ドットレーザーで、世界初の25Gbps高速変調動作を実証しました。


図.高密度配列した量子ドットを活性層にもつ量子ドットレーザー

効果

開発した技術を用いることで、100GbEをはじめ、さまざまな次世代高速データ通信において、温度安定かつ低消費電力な量子ドットレーザー光源を利用することが可能となります。また、温度コントローラー内蔵の高価なパッケージが不要となり、低コスト化を促進します。

今後

今回の開発により量子ドットレーザーの次世代高速データ通信用光源への適用に大きく前進しました。今後はさらに改善を加えて、伝送距離の拡大や高信頼化を進めていく予定です。そしてQDレーザ社を通した製品化を検討していきます。

商標について

その他、記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

  注1 富士通株式会社:
執行役員社長 山本 正已、本社 東京都港区。
  注2 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田 達夫、本社 神奈川県川崎市。
  注3 東京大学:
総長 濱田 純一、本部 東京都文京区。
  注4 量子ドットレーザー:
3次元のナノ構造体である量子ドットを発光部に適用した半導体レーザー。その量子力学的効果により、温度に依存せず動作させることが可能であり、温度変化にともなうレーザーの光出力の変動を大幅に低減できる。
  注5 次世代高速データ通信の光源としての適用:
100Gbpsの伝送速度を実現するために、10~40kmの距離に関しては、25Gbpsの光信号を4多重して、1本の光ファイバーで伝送する方式で標準化が進められている。
  注6 株式会社QDレーザ:
代表取締役社長 菅原 充、本社 神奈川県川崎市。
  注7 国際標準企画化:
100ギガビットイーサネット(100GbE)。100Gbpsの伝送速度を実現する国際標準のイーサネット伝送方式。
  注8 量子井戸レーザー:
厚さ数ナノメートル(1メートルの10億分の1)程度のエネルギー準位の低い半導体の薄膜結晶をエネルギー準位の高い他の半導体結晶で挟みこんだ活性層構造を持つレーザー。薄膜層は量子井戸層と呼ばれる。電子が薄い量子井戸層に閉じ込められてレーザーの特性が向上する。現在、光通信用光源として広く利用されているが、温度依存性が大きい。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ナノエレクトロニクス研究センター
電話: 046-250-8249(直通)
E-mail: nanoele-photonic@ml.labs.fujitsu.com


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