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PRESS RELEASE (技術)

2010年4月16日
株式会社富士通研究所
ミュンヘン工科大学

世界初!DNAを用いた革新的なバイオセンサー技術を開発

従来の100倍のスピードでタンパク質を高精度に検出し、病気の診断が飛躍的に向上

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)とミュンヘン工科大学(注2)は、今までにない全く新しいバイオセンサー技術を共同で開発しました。今回開発した技術は、負に帯電しているDNA(注3)に周期的な運動をさせ、その様子を計測することで、タンパク質を高速に検出する、世界で初めての技術です。

人体の中では、何万種類ものタンパク質がそれぞれ重要な働きをしています。この中から病気に関連して変動するタンパク質を計測することで、適切な診断や病気の早期発見、最適な治療が可能になります。本技術により、従来と比較して100分の1の時間で高精度なタンパク質の計測が可能になるため、健康の維持や病気の予防に大きな効果が期待できます。

本技術については、ミュンヘン工科大学内のチームが、富士通研究所のサポートのもと、ドイツ経済技術省のインキュベーションプログラムEXIST(注4)に沿って事業化を進めています。このたび、技術水準の高さと事業化への期待の大きさが評価され、本技術の事業化案がドイツのビジネスプラン・コンテスト(注5)で入賞しました。

タンパク質とは?

タンパク質は、人体の筋肉や臓器などの人のからだを作るほか、消化や運動、免疫、遺伝に関わるさまざまな働きを担う重要なものです。その種類は、数万から数千万種類あると言われており、病気と闘う抗体や血液中のヘモグロビン、皮膚などを構成するコラーゲン、髪の毛などもタンパク質の一種です。タンパク質は、それ自身が分解されたり、タンパク質どうしが協力することでさまざまな働きを示すため、人体の健康に大いに関係しています。そのため、タンパク質の働きに異変が起こるとさまざまな病気が引き起こされます。

開発の背景

新型インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)などの新しい感染症の出現につれて、適切な診断や早期発見、健康維持や予防医学への関心が高まっています。また、近年、癌や糖尿病などの原因となるタンパク質を見つけ出す研究が盛んに行なわれており、タンパク質の種類や量、大きさを調べることで、病気の早期発見や適切な治療が可能になると期待できます。そのため、疾患の目印となるタンパク質を迅速かつ、精度良く検出する技術が重要となっていました。

課題

従来、タンパク質の検出のためには複数の工程が必要であるため、コストがかかり、また病院に行って検査を受けても診断結果が出るまでに時間もかかっていました。さらに、複数の工程で処理するために、検査対象のサンプル(たとえば血液など)を多めに用意しなければなりません。

開発した技術

富士通研究所とミュンヘン工科大学ウォルターショトキー研究所(注6)(Abstreiter教授グループ)は、バイオセンサー技術の研究を2001年から共同でおこなってきました。今回、DNAを利用してタンパク質を計測するという、今までにない全く新しいバイオセンサー技術を開発しました。

開発した技術は以下のとおりです。

  1. 電場によるDNAの操作とそれによるDNAの動作を可視化する技術

    DNAが水溶液中では負に帯電する特性を利用し、電極に対して交互に正と負の電位をかけることで、DNAを電極に引き寄せたり離したりする技術を開発しました(図1)。さらに、DNAの先端に目印としてつけた色素の蛍光が、電極から離れていると明るく、電極に近づくと暗くなる性質を利用することで、DNAの動作を可視化することに成功しました。


    図1.DNAの動作の可視化
  2. タンパク質の検出と分析

    蛍光色素を付けたDNAの先端に、測定対象のタンパク質と相性よく結合する分子を付けます。タンパク質がこの分子に結合すると、DNAの動きがタンパク質によって妨げられるため、DNAの動きを観察することによって、測定対象のタンパク質の有無、どれくらいの量のタンパク質が結合しているのかを解析できます。また、電極にかける電位の正と負の切り替えを速くすることで、結合したタンパク質の動き方を知ることができ、結合したタンパク質の形状(サイズ)に関する評価も可能です。

DNAの動作の可視化とタンパク質検出の様子
(再生時間 1分17秒)

効果

本バイオセンサー技術により、測定時間を従来の100分の1に短縮でき、かつ100分の1のサンプル量で精度の高いタンパク質の計測が可能になります。さらに、タンパク質の検出だけでなく、サイズの測定にも使うことができるため、従来の手法に比べ、測定の精度が向上し、さまざまな分野への応用が可能です。

今後

本バイオセンサー技術を用いた迅速で精度の高いタンパク質の計測が実現すれば、疾患の正確な早期診断が可能となり、適切な早期治療の実現が見込まれます。今後は、医療機関との連携を進めて、本技術の実用化を目指します。

ビジネスプラン・コンテストでの入賞

ミュンヘン工科大学は、2009年8月に採択されたドイツ経済技術省の事業化インキュベーションプログラムEXISTにより、大学内に事業化チームを結成し、富士通研究所のサポートのもとで本技術の事業化をすすめています。

今回、ミュンヘン工科大学の事業化案が、ドイツ・バイエルン州の経済運輸省が主催するミュンヘン・ビジネスプラン・コンペティションにおいて、182提案中の上位10提案に入賞しました。さらに、ドイツ・ヘッセン州が主催するライフサイエンスに特化したビジネスプラン・コンペティション(Science4Life)においても、62提案中から上位10提案に入賞しました。

今回の受賞は、全く新しいタンパク質計測技術と、それを用いた事業化への期待度が高く評価されたものです。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 富田達夫、本社 神奈川県川崎市。
  注2 ミュンヘン工科大学:
Technische Universität München、所在 ドイツ バイエルン州ミュンヘン市。
  注3 DNA:
デオキシリボ核酸。水溶液中では負に帯電。本研究では、ナノメートルサイズの人工的に合成したDNAを活用。
  注4 EXIST:
ドイツ経済技術省の大学、あるいは、公共の研究機関からのスピンアウト・ベンチャーをサポートする事業化インキュベーションプログラム。
  注5 ビジネスプラン・コンテスト:
ビジネスプラン・コンペティションとも表記し、新規事業プランを事業家、投資家、技術者、コンサルタントなどの複数の専門家で評価し、事業プランの事業収益性を競い合うコンテスト。
  注6 ウォルターショトキー研究所:
ミュンヘン工科大学内の半導体電子物理の応用研究を中心とした研究所。近年は国際的な流れから、融合領域研究へも注力。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ナノエレクトロニクス研究センター
電話: 046-250-8845 (直通)
E-mail: switchdna@ml.labs.fujitsu.com


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