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PRESS RELEASE (技術)

2010年2月10日
株式会社富士通研究所
University of Toronto

次世代不揮発性メモリのスピン注入型MRAM高信頼読み出し方式を開発

フラッシュメモリの代替デバイス実用化に大きく前進

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)とトロント大学(注2)は、次世代の不揮発性メモリ(注3)の一つとして期待されるスピン注入型MRAM(注4)について、従来から課題となっていた誤書き込みが発生しない高信頼な読み出し方式を世界で初めて開発しました。

携帯電話やPDAなど、多くの電子機器で広く使われているフラッシュメモリ内蔵マイコンに搭載されているNOR型フラッシュメモリは、近い将来、微細化の限界に達すると予想されており、代替となる微細化が可能で低消費電力な不揮発性メモリの実用化が求められていました。

今回、スピン注入型MRAMの課題の一つである誤書き込みの問題を解決し、将来の小型・低消費電力の電子機器で必要とされるフラッシュメモリの代替デバイスの実用化に向けて、大きく前進いたしました。

なお、今回の技術の詳細は、2月7日からサンフランシスコで開催されている半導体の国際会議「ISSCC2010 (International Solid-State Circuits Conference 2010)」にて発表いたします。(発表番号 14.1)

開発の背景

携帯電話やPDAなど多くの電子機器では、ソフトウェアの書き換えが可能なことから、フラッシュメモリ内蔵マイコンが使われています。しかし、フラッシュメモリ内蔵マイコンに使われているNOR型フラッシュメモリは、近い将来、微細化の限界に達すると予想されており、その代替となる各種のメモリの研究が行われています。

磁性材料を記憶素子として利用するスピン注入型MRAMは、微細化に適していることや、高速性があり低消費電力であることから、フラッシュメモリの後継として注目されています。

課題

スピン注入型MRAMは、MTJ素子(注5)などの磁性材料に電流を流すことで磁化の方向が反転する現象を利用した記憶素子です(図1)。電流を流した際に磁性材料の磁化の方向が平行になったり逆になったりすることで、素子が低抵抗と高抵抗になる現象を、デジタル情報の“1”と“0”として対応させることで、不揮発性の磁気メモリとして利用しています。


図1. スピン注入型MRAMの書き込み原理

スピン注入型MRAMの読み出し時には、磁性材料に電圧をかけ、流れる電流によって素子の抵抗値が高い(“1”)か、低い(“0”)かを調べます。抵抗値の高低を正しく判定するためには、素子に高い電圧をかける必要がありました。この電圧によって流れる書き込み電流と読み出し時の電流の差が小さいことや、MRAMの素子特性のバラツキによって、読み出すつもりで流した電流によって磁化の方向が反転する誤書き込みが課題となっていました。


図2. スピン注入型MRAMの課題である誤書き込み

開発した技術

富士通研究所は、スピン注入型MRAMの読み出し時の課題であった誤って書き込みをしてしまう問題を、回路を工夫することで、世界で初めて解決いたしました。

開発した読み出し方式には、MTJ素子に対して、素子の高抵抗値と低抵抗値の中間の値の負性抵抗を並列に接続した回路を用いました(図4)。この回路は、MTJ素子が高抵抗の場合には負性抵抗としての特性を示し、低抵抗の場合には通常の抵抗としての特性を示します。この特性によって、従来よりも低い電圧で抵抗の値を読み出すことが可能になり、読み出し時に磁化の方向が反転しないように制御することができるため、誤って書き込むことを防ぐことができます。


図3. 負性抵抗を用いた回路

図4. CMOS混載スピン注入型MRAM回路

効果

負性抵抗を用いた新しい読み出し回路の開発により、素子の特性バラツキによる誤書き込みが発生しないスピン注入型MRAMを実現しました。本成果を利用して、微細な不揮発性メモリをスピン注入型MRAMで実現することで、携帯などの電子機器のさらなる高性能化が見込まれます。

今後

スピン注入型MRAM素子の書き込み電流の低減、微細加工技術の開発など、スピン注入型MRAMの実用化に向けた研究開発を推進していきます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
  注2 トロント大学:
University of Toronto。大学長 David Naylor、所在地 カナダ オンタリオ州トロント。
  注3 不揮発性メモリ:
電源を切っても内容を保持できるメモリ。
  注4 スピン注入型MRAM:
Spin Torque Transfer Magnetoresistive Random Access Memory。磁性材料に電流を流すことで磁化の方向が反転する現象「スピン注入磁化反転」を利用したMRAM。
  注5 MTJ素子:
Magnetic Tunnel Junction(磁気トンネル接合素子)。磁気抵抗効果を持つトンネル接合素子。情報を記憶する強磁性層・原子数個程度の厚さの絶縁膜・電流により磁化の方向が変化しない強磁性層からなる。
  注6 負性抵抗:
電圧を増すと電流が減るという負性の抵抗値を持つ素子。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
プラットフォームテクノロジー研究所 テクノロジーインテグレーション研究部
電話: 046-250-8379(直通)
E-mail: til-si@ml.labs.fujitsu.com


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