富士通

 

  1. ホーム >
  2. プレスリリース >
  3. 世界初!カーボンナノチューブを用いた100Wクラス次世代基地局用増幅器の動作に成功
  • English

PRESS RELEASE (技術)

2009年12月11日
株式会社富士通研究所

世界初!カーボンナノチューブを用いた100Wクラス次世代基地局用増幅器の動作に成功

第4世代移動通信システムの実用化に大きく前進

株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、カーボンナノチューブ(注2)を増幅器のトランジスタ放熱素材として使用し、世界で初めて、高周波・高出力(100Wクラス)の第4世代移動通信システム向け基地局用フリップチップ増幅器(注3)の動作に成功しました。今回、増幅器の熱出力源であるトランジスタチップの両面から放熱を行う「ダブル放熱」技術を開発し、増幅器の高周波化・高出力化・高増幅率化を実現しました。さらに、トランジスタチップの大きさも従来の3分の2以下の小型化が可能になります。

今後は、高速・大容量通信にむけて高周波化が予定されている、第4世代移動通信システム(IMT-Advanced)向け携帯電話基地局の高出力増幅器の実用化を進める予定です。

本技術の詳細は、12月9日からシンガポールで開催中の国際会議「IEEE International Symposium on Radio-Frequency Integration Technology 2009 (RFIT 2009)」で発表いたします。

背景

携帯電話の性能向上と通信の高速化により、携帯通信で扱う情報量が飛躍的に増大しています。将来の第4世代移動通信システムでは、高周波の帯域を利用することにより50Mbps~1Gbpsの超高速大容量通信が想定されています。これにともなって、携帯電話と情報をやりとりする無線基地局に対して、一度に大量の情報を送るための高周波化と、広いエリアの携帯電話をカバーするための高出力化(100Wクラス)の両方が求められています。

課題

高周波・高出力の増幅器を実現するための課題は、高周波で増幅率を低下させない電気的な接続方式と、高出力時の発熱を抑制する放熱方式の2点です。

従来の電気的な接続方式では、配線に長い金属ワイヤを用いているため、高周波になると配線の長さに起因する増幅率の低下が問題となっていました。また、従来の放熱方式では、高出力トランジスタチップ裏面からの放熱を利用しているため、トランジスタチップ自体を小さくすると放熱に必要な面積が足りず、小型化ができませんでした。

新技術の概要

富士通研究所では、高周波特性に優れたフリップチップ構造(図1)と呼ばれる構造を用い、増幅器の熱出力源であるトランジスタチップの両面から放熱を行う「ダブル放熱」技術を開発し、増幅器の高周波化・高出力化・高増幅率化を実現しました。本技術によって、100Wクラスの第4世代移動通信システム向け高周波・高出力増幅器が実現可能になります。


図1 従来の配線方式(左)とフリップチップ構造(右)

「ダブル放熱」技術は、以下の2つの技術により実現しました。

  1. カーボンナノチューブによる放熱技術

    フリップチップ構造を用い、増幅器の表面(回路面)の電極(接続用金属)と基板の間をカーボンナノチューブバンプ(注4)で配線して放熱性を高めました。さらに、増幅器の裏面にもヒートシンクをつけ、増幅器の表面と裏面から放熱することで高い放熱性を実現しました(図2)。


    図2 ダブル放熱
  2. カーボンナノチューブの成長技術
    1. カーボンナノチューブの長さを20μm(注5)以上に成長(図3-1

      増幅器に接続するカーボンナノチューブの配線の長さが短すぎると、高周波領域での電気特性が悪化し、高い増幅率が得られません。高周波で高い増幅率を得るためには、配線の長さとして10μm以上が必要となります。今回、触媒にアルミニウム-鉄(Al-Fe)膜を利用して、基板に垂直に長さ20μm以上のカーボンナノチューブ成長をすることにより、配線の長さを確保して高い増幅率を実現しました。

    2. カーボンナノチューブバンプの電極部分との設置部位を10μm以下に生成(図3-2

      放熱性を高めるためには、カーボンナノチューブバンプを増幅器の発熱源であるトランジスタに近づけることが重要です。従来の金やハンダなどのバンプ技術では、バンプの大きさを20~25μmまでしか小さく作ることができず、バンプを発熱源であるトランジスタの微細な電極に直接接続することができませんでした。今回、カーボンナノチューブを用いて10μm以下の微細なバンプを作る技術を利用し、カーボンナノチューブバンプを電極に直接接続することで良好な放熱性を実現しました。


      図3 カーボンナノチューブバンプ

      図4 カーボンナノチューブバンプによる
      高出力増幅器の実装

効果

今回開発した「ダブル放熱」技術により、フリップチップ実装した高出力増幅器の100Wクラスでの動作が可能になりました。従来と比較して放熱性が1.5倍程度向上しています。トランジスタチップの大きさも、従来の3分の2程度に縮小できるため、増幅器を小型化することも可能です。

今後

今後は、本技術を使った100Wクラスの増幅器の実用化に向けた開発をすすめ、2011年以降に立ち上がることが予想される第4世代移動通信システム向けの携帯電話基地局への適用を目指します。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長:村野和雄、本社:神奈川県川崎市。
  注2 カーボンナノチューブ:
鉛筆の芯の材料であるグラファイトのシートがチューブ状に丸まったもののこと。ナノチューブの太さはその名の通り1ナノメートル(nm)から10nm程度で、長さはその数千倍に達する。強靭な強度、化学的な安定性、高い熱伝導率、低い抵抗値、高い許容電流密度といった優れた物理的特徴を有する。
  注3 フリップチップ構造:
実装基板上にチップを実装する際に、従来のようにチップを金属ワイヤで接続するのでなく、チップの回路面を下に向けて突起電極で接続するもの。
  注4 バンプ:
半導体と基板を接続するために、素子面に形成された突起電極。材料には、金やハンダ、カーボンナノチューブが用いられる。
  注5 μm:
マイクロメートル。0.001mm。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ナノエレクトロニクス研究センター
電話: 046-250-8234(直通)
E-mail: nano-mate@labs.fujitsu.com


プレスリリースに記載された製品の価格、仕様、サービス内容、お問い合わせ先などは、発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。あらかじめご了承ください。