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PRESS RELEASE (技術)

2009年6月11日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所

世界初!インパルス無線方式で毎秒10ギガビット超のミリ波通信に成功

~大容量無線通信装置の小型化が可能に~

富士通株式会社(以下、富士通)と株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、インパルス無線方式(注2)に基づく70~100 ギガヘルツ(以下、GHz)帯ミリ波通信装置を世界で初めて開発し、毎秒10ギガビット(以下、10 Gbps)を超える大容量無線通信に成功しました。

これにより、従来の無線通信で不可欠だった発振器などの部品を削減でき、ミリ波通信装置の小型化・低コスト化が可能になります。開発した通信装置は、光ファイバー通信網が敷設困難な地域での基幹回線の代替として適用できデジタルデバイド(注3)解消に貢献するほか、超高速無線LANなどへ応用が可能です。

本研究は総務省委託研究「電波資源拡大のための研究開発」の一環として実施したものです。

なお、この技術の詳細は、6月7日~12日、米国 ボストンで開催されているマイクロ波の国際学会「2009 IEEE MTT-S International Microwave Symposium (IMS2009)」にて発表しました。

背景

インターネットや携帯電話のネットワークサービスのブロードバンド化などに対応するため、光ファイバーによる大容量基幹回線の整備が全国的に進んでいます。一方、厳しい地形・立地のため光ファイバー敷設が困難な地域では、光ファイバー並みの伝送容量10 Gbpsを持つ無線通信装置により基幹回線を整備し、デジタルデバイドを解消することが検討されています。

10 Gbpsを超える無線通信には、周波数帯域の確保が容易で長距離通信に適した70~100 GHz帯ミリ波の利用が有効です。しかし、そのように高い周波数で動作する電子部品はまだ単機能品が多いため使用する部品点数が増えてしまい、装置の小型化・低コスト化が進んでいません。そこで、容積が大きな発振器などが不要で部品点数が少なく小型化・低コスト化が可能な、インパルス無線方式に基づく通信装置の開発が期待されています。

課題

インパルス無線方式の通信装置(図1)では、RF(注4)送信部が短パルス(注5)発生器、フィルター、送信増幅器の3部品で、RF受信部が低雑音増幅器と検波器、後置増幅器で構成が可能です。富士通および富士通研究所では、昨年、送信増幅器を除くRF送信部の開発に世界で初めて成功し、その後、伝送試験の実施に向けRF受信部を含む通信装置の開発を推進してきました。しかし、インパルス無線方式ではミリ波パルス信号の送受信を行なうため、従来の通信方式にはない以下のような課題がありました。

  1. RF受信部のアンテナから増幅器までの配線部で発生する受信信号波形の歪みを低減し、微弱なミリ波信号を忠実に増幅することが必要です。
  2. 送信機から送信したミリ波パルス信号は時間的にゆらぎやすい性質があります。これにより、受信機内での“0”、 “1”判定のタイミングとのずれが生じ、受信誤りを引き起こします。そのため、この時間的ゆらぎを低減することが必要です。


図1 インパルス無線方式ミリ波通信装置

技術の概要

上記の課題を解決するために、富士通研究所が開発したインジウムリン高電子移動度トランジスタ(以下、InP HEMT)(注6)技術をベースに、以下の技術を開発しました。

  1. 広帯域高感度受信技術(受信機)

    従来のガリウムヒ素HEMTより高速で低雑音の増幅器を実現できるInP HEMTを用いて、広帯域で高い増幅率をもつ低雑音増幅器を開発しました。この低雑音増幅器は、受信アンテナから低雑音増幅器にいたる配線部とは反対の伝送特性を有するため、配線部で生じる波形歪みを打ち消して元の受信波形に近い信号が得られます。

  2. 高安定短パルス発生技術(送信機)

    送信信号の時間的ゆらぎは、短パルス発生器での短パルス発生のタイミングが変動するために生じます。特に、タイミング変動(ジッタ)が大きい10 Gbpsデータ信号から直接短パルスを発生させると、この時間的ゆらぎが顕著に発生します。そこで今回は、10 Gbpsデータ信号と比較してジッタの小さい10 GHzクロック信号を基に、10 Gbpsデータ信号を参照しながら短パルスを発生する新回路をInP HEMTの短パルス発生器に採用しました。

効果

上記の技術を採用し、光ファイバーインターフェースを搭載した信号処理部を含むインパルス無線方式ミリ波通信装置を開発しました。本装置の受信機において、受信感度0.25マイクロワットと、キロメートルクラスの無線伝送に必要な高感度特性とともに、良好な受信波形が得られることを確認しました(図2)。また、送信機では、10 Gbpsミリ波パルス信号のジッタが0.3ピコ秒(注7)と、昨年の実績より安定度が5倍以上向上しました。実際に送信機と受信機を対向させ、室内伝送実験を行なった結果、インパルス無線方式ミリ波通信装置として世界で初めて、10 Gbpsを超える無線通信に成功しました。

今回開発した技術により、従来の方式では不可欠であった発振器とミキサーなどが不要となり、ミリ波通信装置の小型化による低コスト化が実現します。また、光ファイバー通信網の代替としてデジタルデバイド解消に向けた基幹回線への適用が可能となります。さらに、屋内超高速無線LAN、高分解能レーダーなど幅広く応用できます。



図2 開発したインパルス無線方式RF受信部(左)と
10 Gbps受信検波出力測定結果(縦軸:出力電圧、横軸:時間)(右)

今後

無線基幹回線をターゲットとして、2012年頃の実用システム開発に向け、フィールドでの試験を重ねてまいります。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
  注2 インパルス無線方式:
インパルス無線方式は、極めて短い時間に変化する広帯域パルス信号を発生させ、フィルターを用いて使用周波数成分のみを抽出して送信する伝送技術。
  注3 デジタルデバイド:
情報格差ともいう。情報通信技術(特にインターネット)の恩恵を受けることのできる人(地域)とできない人(地域)の間に生じる経済格差を指す。
  注4 RF:
Radio Frequency.無線システムなどにおいて、アンテナを通じて送受信される高周波信号。
  注5 短パルス:
パルスとは、信号が定常状態に比べて一時的に増加または減少している状態を指す。短パルスは、信号変化時間の短いパルスのこと。
  注6 インジウムリン高電子移動度トランジスタ (InP HEMT):
HEMT(High Electron Mobility Transistor)は、1979年に富士通研究所の三村高志博士(現、富士通研究所フェロー)が発明した、高速・低雑音性にすぐれたトランジスタ。基板にインジウムリン(InP)を用いることで、従来のガリウムヒ素HEMTより高速で低雑音を実現できる。高速通信のほか、イメージセンサーなどへの応用も期待されている。
  注7 ピコ秒:
1兆分の1秒

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
基盤技術研究所 先端デバイス研究部
電話: 046-250-8244 (直通)
E-mail: kikan-press@ml.labs.fujitsu.com


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