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PRESS RELEASE (技術)

2009年4月14日
株式会社富士通研究所
富士通株式会社

携帯電話向けLSIのシミュレーション環境を開発

~世界初! 実機の設計初期段階でシステム性能評価を実現~

株式会社富士通研究所(注1)はこのほど、富士通株式会社と共同で、携帯電話向けLSIにおいて、Symbian OS(注2)で動作するソフトウェアを用いたシステムの性能を、設計段階で、短時間で繰り返し高精度な評価が可能なシミュレーション環境の開発に世界で初めて成功しました。実機の設計初期段階にこの評価環境を用いてシステム全体の性能評価を行い、LSI設計にフィードバックすることによって、設計手戻りのリスクを回避し、ソフトウェア開発工程の着手を前倒しすることで、開発コスト削減を実現します。

開発の背景

携帯電話のようにハードウェア、ソフトウェアが急速に進化・大規模化している製品の開発において、設計の初期段階でシステム性能を総合的・定量的に見積もる要望が高まっています。たとえば、軽快な操作感を実現するために応答性能が必要なGUIのように、多くの機能が複雑に作用しながら動作するシステムの実機性能を、単純な机上試算(注3)で見積もることは困難です。また、見積もりと実機の性能差が大きな場合、設計手戻りや製品の機能制限が発生し、ビジネス機会の損失などといった事態に陥ってしまいます(図1(1))。



図1 大規模化するシステムに伴う課題と対策

課題

従来から、実機性能を見積もるためにLSIの動作をシミュレーションする環境(以下、モデル)の開発が行なわれてきましたが、次のような課題がありました。

  1. モデル開発の課題

    一般に、モデル開発には実装設計のデータが必要です。しかし、実装設計の方針の決定にはモデルによる評価が必要であり、そのために実装設計データを用意する手順には矛盾がありました。また、新規機能開発を行うには、モデル開発と実装開発向けの2つの異なる手法での開発が必要でした。

  2. モデルの動作速度と精度の両立の課題

    性能を正確に見積もるためには処理時間の精度(注4)が高いモデルが必要です。一方で、最適な設計方針を探求するためには、部品の組み合わせや設定変更を短時間で繰り返し実験できる高速なモデルが必要です。しかし一般に速度と精度は相反する関係にあるため、この2つを両立することは困難でした。

開発した技術

上記の課題に対して、ESL(注5)技術をもとに、新たに2つの技術を開発しました。速度と精度を兼ね備え、かつ、繰り返し評価を容易にすることが可能になりました。


図2 本技術開発で実現したモデル構成の例
拡大イメージ
  1. 汎用動作部品によるモデル構築の容易化

    動作を自由に変更できる汎用動作部品を開発しました(図2(1))。部品の動作パターンを記述するプログラム領域を編集することで、利用者は対象部品の動作をモデルに組み込んだ状態で制御することが可能になります。モデルによる評価中でも動作状態の変更が可能になるため、ソフトウェアと連動して動作する部品も、そのつど部品を開発することなくひとつのモデルで評価可能になりました。

    たとえば、ソフトウェアと連動しながら画像データを処理する部品を想定した場合、処理するデータ総量が同じでも、データを分割する処理単位、間隔、バス上の接続箇所が変化することによりシステム性能が影響を受けます。この汎用動作部品を評価対象の代替部品として組み込み、データ分割単位や間隔などのパターンをプログラムにより変更(図2(2))することで、性能への影響を容易に評価することができます。

  2. 速度優先、精度優先部品の混載によるモデルの高速化

    モデルを構成する各部品の精度を決定するためには、各部品の精度がシステムの性能に及ぼす影響を見積もる必要があります。この見積もり工程において、精度の異なる部品を容易に組み替え、混載可能な仕組みを開発しました。機能部分とインターフェース部分を分離し、必要最小限の操作でモデル構築が可能になります。(図2(3))

    これにより、精度を下げてもシステム性能への影響が小さい部分は速度優先部品に、逆にシステム性能への影響が大きい部分は精度優先部品を組み込むことで、速度と精度の両立をはかるモデルを構築することが可能になります。


効果


図3 本技術開発で実現したモデルの性能
拡大イメージ

本技術をもとに、実際の設計段階にある携帯電話LSIをモデル化し、世界で初めてSymbian OS上で評価ソフトウェアを用いた評価環境を開発し、分析結果を設計にフィードバックしました。

これにより、実機完成を待たずにシステム全体の評価が可能になりました。これは実機を用いたシステム評価工程の予定に対し、およそ1年の前倒しに相当します。

このモデルは、性能評価に必要な精度を保ちつつ、従来のモデル動作速度の数千倍(当社比)の性能になります。(図3)

たとえば、実機で1秒間の動作の性能評価を、従来数日を要したものが数十分で実施することが可能になります。

これにより、モデルによる評価を短期間で繰り返し行うことができ、設計の初期段階でシステムレベルの性能見積もりが可能になりました。実際にLSI開発完了を待つことなく最適な設計方針を探求することが可能になることで、設計手戻りのリスクを軽減し、さらに、ソフトウェア開発工程の着手を前倒しできます。(図1(2))


今後

富士通の携帯電話事業のキーワードである「ブロードバンドリーダー」として、次世代携帯電話システムの評価に適用し、基盤技術の強化を進めます。また、その他さまざまなシステムに応用展開することで、本技術開発を軸とした設計初期段階での評価手法を確立し、ビジネス化の検討を進めます。

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
  注2 Symbian OS:
携帯電話のOSとして世界で最も多く利用されている標準的なOS。
  注3 単純な机上試算:
たとえば、CPU性能比やバス帯域の比からシステム全体性能を推定すること。機能が複雑なソフトウェアの性能評価の見積もりにおいては意味をなさない。
  注4 処理時間などの精度:
ソフトウェアの性能を評価するためには、測定したい処理の平均処理時間に高い精度が求められる。一般にソフトウェア評価に必要な精度はミリ秒だが、回路設計検証にはナノ秒オーダーの精度が必要。逆に、ソフトウェアの実行順序を確認するには精度は求められない。
  注5 ESL:
Electronic System Levelの略。従来の設計で必要な実装レベル(RTL)ではなく、評価を行うために動作概念でハードウェアを表現していくレベル。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
プラットフォームテクノロジー研究所 プロセッサソリューション開発部
電話: 044-754-2783(直通)
E-mail: esl-project@ml.labs.fujitsu.com


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