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PRESS RELEASE (技術)

2008-0047
2008年3月3日
株式会社富士通研究所

世界初!新しいナノカーボン複合構造体

~カーボンナノチューブとグラフェンの自己組織形成~

株式会社富士通研究所(注1)は、カーボンナノチューブとグラフェン(注2)という、いずれもナノメートルサイズの炭素材料(ナノカーボン)を接合した新しいナノカーボン複合構造体を、自己組織的(注3)に形成させることに成功しました。今回発見した複合構造体は、一般的なグラフェンの合成温度よりも低い500℃程度で合成させることが可能です。

高い電流密度耐性(注4)や高い熱伝導性などさまざまな特長を持つカーボンナノチューブと、高電子移動度で知られるグラフェンという、2つのナノカーボンからなる複合構造体は、今後、新たな物性研究や応用の可能性を拡げるものとして期待されます。

本技術の詳細は、3月3日から名古屋市 名城大学で開催される国際会議「第34回フラーレン・ナノチューブ総合シンポジウム」(The 34th Fullerene Nanotubes General Symposium)で発表します。

背景

カーボンナノチューブとグラフェンは、ともに炭素原子から構成されるナノメートルサイズの構造体です。グラフェンは、炭素原子が6角形の網の目のように並んだシート状の構造を持ち、カーボンナノチューブは、グラフェンをナノメートルサイズの直径で円筒形にした構造を持ちます。

これらは同じ炭素原子で構成されているにも関わらず、それぞれ独自の特長があります。例えば、カーボンナノチューブは、自然界に存在するすべての物質の中で、最も高い電流密度耐性や熱伝導性、機械的強度などを持ち、配線材料や放熱材料、電子放出源(注5)など、幅広い応用が検討されています。その合成は、電子デバイスなどに応用が可能な400℃程度の低温技術が確立されつつあります。グラフェンは、2004年に高い電子移動度が発見されて以来、将来のトランジスタのチャネル材料として期待されています。しかしその合成には、グラファイト結晶から剥がす方法、あるいは700℃以上の高温で合成させる方法が一般的でした。

当社では、これらナノカーボンの優れた物性を電子デバイスに活かす研究に取り組んできました。

技術の概要

今回、カーボンナノチューブの成長機構の解明のため、真空槽内で原料ガスを熱分解して基板上に薄膜や構造体を合成する化学気相成長法による実験を行っていたところ、基板上に配向成長(注6)した多層カーボンナノチューブ(注7)上に数層から数十層のグラフェンが自己組織的に形成された、いわゆる複合構造体が形成されることを見い出しました。

カーボン系材料は、炭素原子の結合の形によって、0次元構造のフラーレン(注8)、1次元構造のカーボンナノチューブ、2次元構造のグラフェン、3次元構造のダイヤモンドと多様な形態を示します。またこれまでに、0次元と1次元の複合構造体である、ピーポッド(注9)と呼ばれる複合構造体が発見されていますが、今回、1次元構造のカーボンナノチューブと2次元構造のグラフェンが垂直に接合している複合構造体を、世界で初めて実現しました。なお、この複合構造体は、510℃という低温で合成されました。




新規ナノカーボン複合構造体の電子顕微鏡像(a)
とグラフェン部分の電子顕微鏡像(b)


新規ナノカーボン複合構造体
(下段は、予想される複合構造)

効果

カーボンナノチューブは、線状の1次元構造のため、チューブの軸に対して垂直な2次元方向には電気伝導性や熱伝導性がほとんどありませんが、グラフェンは2次元方向の電気伝導性や熱伝導性を持っています。今回発見した新規ナノカーボン複合構造体は、構造体全体に対して、電気伝導・放熱特性を有すると期待されます。従来、配向成長したカーボンナノチューブは、その長さが不均一なために上部での接合が一様にならず、電気的・熱的に抵抗が生じていました。新規ナノカーボン複合構造体では、ほぼすべてのカーボンナノチューブの先端部分が均一にグラフェンに接続しており、かつ表面のグラフェンは平坦なため、電気的・熱的に高い伝導特性が得られるものと考えられます。

本技術により、グラフェンの電子デバイス応用への道が一歩近づいたと期待されます。

今後

新規ナノカーボン複合構造体の形成機構を解明し、詳細な物性を明らかにすることで、その特長を活かした電子デバイス応用技術の開発を目指します。一方、材料技術として、低温での高品質ナノカーボン形成技術の開発も目指します。

以上

関連リンク

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
代表取締役社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
  注2 グラフェン:
炭素原子が6角形の網の目状に並んだ構造で、グラファイトはこのグラフェンが積層したもの。
  注3 自己組織的:
複雑な制御を行わなくても、所望の構造が自律的に形成されること。
  注4 電流密度耐性:
高密度の電流を流しても、その物質が構造的に安定でいられること。
  注5 電子放出源:
電界を加えることで、固体表面から電子を引き出す装置。電子が蛍光体に衝突した際に、発光する原理を用いた表示装置を電子放出ディズプレイ(FED)と呼ぶ。
  注6 配向成長:
基板に対して垂直方向に揃って成長すること。
  注7 多層カーボンナノチューブ:
カーボンナノチューブの一種で、多層のグラフェンが同軸状に円筒形になった直径数ナノメートルから数10ナノメートルの構造。
  注8 フラーレン:
炭素原子60個が集まったサッカーボール型の分子。
  注9 ピーポッド:
カーボンナノチューブの中空構造に多数のフラーレンが1列に詰まった複合構造体。その形がサヤエンドウに似ていることからこの名前がついた。

本件に関するお問い合わせ

株式会社富士通研究所
ナノテクノロジー研究センター
電話: 046-250-8234(直通)
E-mail: nano-mate@labs.fujitsu.com


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