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PRESS RELEASE (サービス)

2006-0025
2006年2月10日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所

分子軌道計算ソフトウェア「MOPAC2006 V1.0」を販売開始

富士通株式会社(以下、富士通)と株式会社富士通研究所(注1)はこのほど、タンパク質および溶液中における高分子の立体構造や電子状態をリアルにシミュレーションできる分子軌道計算ソフトウェア(注2) 「MOPAC(モーパック)」の新バージョン「MOPAC2006 V1.0」を開発し、2月10日から富士通より販売します。

本製品は、創薬をはじめとする、タンパク質や機能性有機分子(注3)に関するさまざまな研究・開発の効率化、スピード向上に貢献するもので、今回、より多様な手法による並列計算を可能にするなど、計算機能の向上を図りました。特に、同梱ソフトウェア「MOS-F(モスエフ)」において、視覚関連のタンパク質であるレチナールタンパク質の高精度な光物性シミュレーションを可能にしたことで、プリンタのインク開発などへの応用が期待できます。

網膜の内部に含まれ明暗を感じるタンパク質の分子構造
網膜の内部に含まれ明暗を感じるタンパク質の分子構造

近年、新材料の開発においては、分子や電子レベルで物性を予測する技術が不可欠になっています。中でも、計算化学シミュレーションを用いた生体物質の予測技術が注目を集めており、生体タンパク質の働きを分子・電子レベルで解明する研究が盛んに行われるようになってきました。特に、レチナールタンパク質は、Gタンパク質共役受容体(注4)の一種で立体構造も明らかになってきていることから、新薬開発におけるシミュレーションなどで幅広く研究されています。

「MOPAC」は、1万個を超える原子から構成される高分子の分子軌道計算ができる、世界で広く利用されているソフトウェアです。従来製品ではMOZYME法(注5)による並列計算のみが可能でしたが、「MOPAC2006 V1.0」では、他の多様な手法による並列計算も可能となりました。

さらに、今回、可視光・紫外線の吸収波長計算など、励起状態(分子のエネルギーが高い状態)の計算に適した分子軌道計算ソフトウェア「MOS-F」の新バージョン「MOS-F V7」を同梱しました。「MOS-F V7」は、レチナールタンパク質の光物性を極めて高精度に予測でき、網膜のタンパク質が光に反応するメカニズムを分子レベルで理解するための基礎研究のツールとして有用で、色覚のメカニズムの解明に役立つことが期待されます。また、樹脂中に分散した色素の波長計算にも原理的に適用可能なため、今後必要なパラメーターを追加することでプリンタ用のインク開発など、新たな感光材料や機能性有機色素の材料開発にも貢献すると考えます。


販売価格、および出荷時期

製品名販売価格(税別)出荷時期
MOPAC2006 V1.0 for Linux60万円 (バージョンアップ 30万円)2月20日より
MOPAC2006 V1.0 1ライセンス80万円 (バージョンアップ 40万円)3月中旬より
MOPAC2006 V1.0並列版(4CPUまで)280万円 (バージョンアップ 140万円)3月中旬より
MOPAC2006 V1.0並列版(8CPUまで)400万円 (バージョンアップ 200万円)3月中旬より

教育機関向け価格も、別途ご用意しております。



販売目標

2006年度末までに、国内・海外を合わせて売上約2億円(150本)

(富士通の決算期は3月末日です。)

本製品の特長

  1. 並列計算が可能な計算手法の拡大

    従来より対応していたMOZYME法に加え、「MOPAC2006 V1.0」では、他の手法 (一点計算、構造最適化計算、振動計算、COSMO計算)による並列計算も可能となりました。

  2. QM/MM法(注6)に基づく、タンパク質の吸収波長計算機能の向上(「MOS-F V7」)

    QM/MM法により、光に反応するレチナールタンパク質の吸収波長について、短時間で高精度にシミュレーションすることが可能となりました。

  3. ROCIS法(注7)による開殻系分子(注8)の吸収波長計算機能の向上(「MOS-F V7」)

    二重項、三重項に関する励起状態計算が可能になりました。

  4. INDO/S法(注9)による計算が可能な原子種の拡大(「MOS-F V7」)

    リチウム、フッ素、マグネシウム、ケイ素、リン、硫黄、亜鉛の各原子種でINDO/S法の計算が可能になりました。

  5. 行列対角化計算(注10)の高速化(「MOS-F V7」)

    行列対角化計算に線形数値計算(注11)ライブラリLAPACK(注12)でサポートされるアルゴリズムを使用できるようになりました。従来製品に比べ、最大で約3倍の計算速度の向上が期待できます。

動作環境

(Linux版)

OS:Red Hat Enterprise Linux 3、SUSE Linux 9.2(注)

(Unix版)

OS:Solaris 9(注)、HP-UX 11i(注)、AIX 5L V5.3(注)、IRIX6.5(注)

(注)近日中に対応予定

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

以上

注釈

  注1 株式会社富士通研究所:
社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市。
  注2 分子軌道計算ソフトウェア:
分子内にある電子のエネルギーを計算し、安定した分子の形や光吸収波長などの予測を可能にするソフトウェア。
  注3 機能性有機分子:
液晶ディスプレイにおける液晶分子のように、分子の機能自体がデバイスの主要な性能を担う有機分子。
  注4 Gタンパク質共役受容体:
光やにおいなどの刺激を最初に感じるタンパク質。新薬開発における重要なターゲットでもある。
  注5 MOZYME法:
「MOPAC」の計算手法をタンパク質などの大規模分子向けに改良した最新計算手法。
  注6 QM/MM法:
計算対象を、量子論(QM)的領域と古典論(MM)的領域とに分割して計算する手法。
  注7 ROCIS法:
開殻系分子に対する励起状態の性質を計算する方法。
  注8 開殻系分子:
電子の総数が奇数の分子など、電子がペアになっていない分子軌道が存在する分子。
  注9 INDO/S法:
フロリダ大学の故Zerner教授によって開発され、「MOS-F」で使われている光物性計算手法のひとつ。
  注10 行列対角化計算:
行列の固有値と固有ベクトルを求める計算。計算量は行列サイズの3乗に比例する。
  注11 線形数値計算:
一次方程式など、線形代数の諸問題を数値的に解く方法。
  注12 LAPACK:
連立一次方程式などの線形数値計算を行うための著名なライブラリ。

関連リンク

本件に関するお問い合わせ

バイオIT事業開発本部 バイオソフトウェアプロジェクト

電話: 043-299-3680(直通)
E-mail:winmopac@strad.ssg.fujitsu.com


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