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[ PRESS RELEASE ](技術)
2005-0184
2005年12月5日
株式会社富士通研究所

次世代携帯基地局増幅器向けHEMTの開発に成功

株式会社富士通研究所(注1)は、世界で初めて、絶縁ゲート(注2)を用いた窒化ガリウム(注3)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注4) において、実用レベルの100 ワット(以下、W)以上の出力を得ることに成功しました。ゲート電極からの漏れ電流を従来の100万分の1以下に低減することで、次世代携帯基地局増幅器向け高出力窒化ガリウムHEMTの高効率動作が可能になります。

今回開発した技術は、次世代以降の携帯電話基地局システムにおける送信用増幅器の大幅な低消費電力化に貢献します。

本技術の詳細は、12月5日から米国ワシントンDCで開催される国際会議IEDM(International Electron Devices Meeting)で発表します。

【開発の背景】

無線通信の高速化にともない、携帯電話基地局の消費電力は増大しています。

低消費電力を実現するために、窒化ガリウムHEMTを用いた増幅器が開発されていますが、次世代以降では、高出力化にともなう消費電力の増加を大幅に低減させるためにさらに高い電力効率が必要です。しかし、従来の窒化ガリウムHEMTの構造では、電力効率を高めるとゲート電極からの漏れ電流が増加し、信頼度や増幅特性に問題があることがわかってきました。

【課題】

ゲート電極からの漏れ電流を改善するために、ゲート直下に電子が漏れないバリアとして絶縁体を挿入する方法が考案されています(図1(a))。しかし、絶縁体と半導体とが接する面に界面準位(注5)と呼ばれる電子の動きを邪魔する領域が大量に形成され、トランジスタの出力性能が劣化するという問題があり、実用レベルの100 Wを超える出力は得られていませんでした。これは絶縁体と接触する半導体表面にアルミニウムが含まれている窒化アルミニウム・ガリウム層を用いていたためです。アルミニウムは酸化しやすく、その酸化物が性能劣化の原因でした。

(a)従来および(b)今回開発した窒化ガリウムHEMTの断面図
図1 (a)従来および(b)今回開発した窒化ガリウムHEMTの断面図

【開発した技術】

今回、窒化ガリウムHEMTの表面構造を改良することにより上記課題を解決しました (特許出願中) 。このトランジスタは、表面に薄いn型窒化ガリウム層をもつ窒化ガリウムHEMT結晶上に窒化珪素絶縁膜を堆積することにより作製しました(図1(b))。半導体表面に従来の絶縁ゲート型トランジスタで使用されていた窒化アルミニウム・ガリウム層ではなく窒化ガリウム層を用いることでアルミニウムの表面酸化を抑制しました。

【効果】

今回開発した技術により、ゲート電極からの漏れ電流を0.1マイクロアンペア(µA)以下と、絶縁ゲートを用いない場合に比べ100万分の1以下に低減することができました(図2)。

特性についても最大出力110Wが得られています(図3)。絶縁ゲート型HEMTで100 W以上の出力を確認したのは世界初です。これは界面準位を減らすことに成功したためです。また、基地局用増幅器には必須である歪補償回路(注6)を組み合わせることで隣接チャネル漏洩電力(注7)の値を実用レベルまで低下させることが可能であることを実証いたしました(図4)。絶縁ゲート型HEMTで歪特性を実証したのも世界初です。

この絶縁ゲート技術により最大効率領域での動作が可能となり、高効率領域に対応できる次世代歪補償回路の開発と組み合わせることで、送信増幅器の消費電力を大幅に削減することが可能です。

【今後】

今後、今回の絶縁ゲート技術を製造プロセスに適用し、次世代以降の基地局システムに対応できる窒化ガリウムHEMTのデバイス開発を進めていきます。

絶縁ゲートを有する窒化ガリウムHEMTのゲート漏れ電流特性
図2 絶縁ゲートを有する窒化ガリウムHEMTのゲート漏れ電流特性
絶縁ゲートを有する窒化ガリウムHEMTの出力性能
図3 絶縁ゲートを有する窒化ガリウムHEMTの出力性能
第3世代移動通信信号で歪補償回路を使用した場合の歪補償性能
図4 第3世代移動通信信号で歪補償回路を使用した場合の歪補償性能

以上

注釈

(注1)富士通研究所:
社長 村野和雄、本社 神奈川県川崎市
(注2)絶縁ゲート:
電流がきわめて流れにくいゲート構造。絶縁膜としては酸化珪素、窒化珪素などがある。
(注3)窒化ガリウム:
ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
(注4)高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor):
バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
(注5)界面準位:
絶縁膜と半導体、金属と半導体など異種材料が接触したときに発生する準位。電子の捕獲・放出が生じるため電流をコントロールすることが困難になる。
(注6)歪補償回路:
発生する歪の逆特性をあらかじめ加えておくことで歪補償を行うデジタルプリディストーション(Digital Pre-Distortion: DPD)方式。
(注7)隣接チャネル漏洩電力:
信号を入力した際に生じる漏れ電力のことで隣接チャネルに発生した場合は干渉を起こし通信に障害が発生する。

プレスリリースに記載された製品の価格、仕様、サービス内容、お問い合わせ先などは、発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。あらかじめご了承ください。ご不明な場合は、富士通お客様総合センターにお問い合わせください。

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