[ PRESS RELEASE ](技術) |
2005-0031
2005年3月4日
富士通株式会社 株式会社富士通研究所 |
世界初! 波形整形機能を持つ半導体光増幅器、毎秒40ギガビットで動作実現
今回開発したのは、将来の超高速フォトニックネットワーク実現に向けた基礎技術です。研究の一部は、総務省プロジェクト(ナノ技術を活用した超高機能ネットワーク技術の研究開発)の委託研究の一環として行われました。
本技術の詳細は、3月6日より米国Anaheimで開催されるOptical Fiber Communication Conference (OFC'05)の招待講演で発表します。
【開発の背景】
将来の超高速フォトニックネットワークにおいて、高速光信号を高い品質で長距離伝送し、光ネットワークノード同士を柔軟に接続するためには、光の品質を復元させる光3R再生技術が極めて有効です。光3R再生技術とは、光信号の雑音やゆらぎを抑制して波形を整形するReshaping、時間的なゆらぎを除去するRetiming、増幅を行うReamplificationを実現する技術です。
しかし、従来は、光信号を電気信号に変換して電子回路により再生処理を行うため、複雑で大きな装置が必要でした。このため、光信号を光のまま再生処理する、全光3R再生装置がさまざまな研究機関で検討されています。
【課題】
半導体光増幅器では、光信号がオンのときの雑音と揺らぎを、入力信号が大きすぎると光の増幅率が下がる性質(利得飽和)を利用して抑制することが可能です。しかし、従来の半導体光増幅器では、利得飽和の応答時間が数ナノ秒と遅いため、その効果が次の信号にも影響を与え、光再生装置としては使えませんでした。
【開発した技術】
今回開発したのは、量子ドットを用いて利得飽和の応答速度を大幅に短くした半導体光増幅器です。利得飽和の応答速度が量子ドットを用いた場合には極めて速いことに注目して実現した技術です。量子ドットを用いることで利得飽和の応答速度は数ピコ秒と、従来の1000分の1となります。
また、成長技術の改良(注5)と新たなデバイス構造の設計により、光通信に用いられる波長1550ナノメートルで、高い増幅率と高い出力に加え、利得飽和が起こりやすい量子ドット光増幅器を実現しました。
【効果】
今回開発した半導体光増幅器により、世界で初めて、毎秒40ギガビットの高速光信号で、信号揺らぎを抑えた波形整形に成功しました。従来の光増幅器では、利得飽和の応答速度が遅いために、波形が乱れてしまっているのに対し、今回開発した量子ドットを用いた光増幅器では波形の乱れがありません。また、雑音を付加した入力信号に対し、出力信号では雑音が抑制されています。このときの出力信号は、入力信号に対して30倍に増幅(15dB)されているのに対し、信号に対する雑音の比は40%低減しています。
【今後】
今後、素子の最適設計をさらに進めるとともに、信号オフのときの揺らぎ抑制機能の開発、タイミング制御機能の開発を進め、全光3R再生中継器として、4〜5年後の実用化技術確立を目指します。また、波長多重光通信への応用も検討していきます。
以上
| 図1 量子ドット光増幅器と入力波形・出力波形 [クリックすると拡大表示されます] |
| 図2 利得飽和による波形整形の概念図" [クリックすると拡大表示されます] |
| 図3 従来の光増幅器と量子ドット光増幅器との比較 (波長:1550ナノメートル、信号速度:毎秒40ギガビット) [クリックすると拡大表示されます] |
| 図4 量子ドット光増幅器による雑音の抑圧(波形整形)効果 (波長:1550ナノメートル、信号速度:毎秒40ギガビット) [クリックすると拡大表示されます] |
注釈
- (注1)株式会社富士通研究所:
- 社長 村野和雄、本社 川崎市中原区。
- (注2)量子ドット:
- 半導体ナノ構造の一種。数10ナノメートルの半導体の粒で、中に電子が閉じ込められる。
- (注3)半導体光増幅器:
- 電流を流してキャリアを半導体に貯めこみ、光を増幅する半導体素子。
- (注4)全光3R再生:
- 電気信号を介さずに、品質劣化した信号光をもとの品質に復元させる光技術。振幅増幅(Reamplification)、タイミング再生(Retiming)、波形整形(Reshaping)の3つの機能の頭文字をとって光3R再生と呼ばれている。
- (注5)成長技術の改良:
- 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託による財団法人光産業技術振興協会の「フォトニックネットワークプロジェクト」の成果『InP基板上のInAs量子ドット成長技術』を活用し、これを改良した。
関連リンク
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