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[ PRESS RELEASE ](技術)
2004-0126
2004年7月2日
富士通株式会社
株式会社富士通研究所

世界初!ナノワイヤーを用いた高速・高感度なたんぱく質検出法を開発

富士通株式会社と株式会社富士通研究所(注1)は、世界で初めて、人工的に合成したDNAナノワイヤー(注2)を用いた極めて微量なたんぱく質の検出法を開発しました。従来の方法に比べ、100倍の速度、100倍の感度でたんぱく質を定量的に検出することが可能です。今回開発した技術を発展させ、感染症の広がりの緊急監視、がんの再発予防医療などを可能とするたんぱく質センサーチップの実現を目指していきます。

今回開発した技術は、将来の高度なユビキタス・ヘルスケアを目指した基礎研究の一環として進めているものです。DNAを人工的に組み上げて作ったナノメートルサイズの構造体と半導体技術を融合させた全く新しいタイプのたんぱく質センサーチップにより、たんぱく質とたんぱく質の相互作用を解析する分析機器や、感染症や疾患で生じる非常にわずかな量のたんぱく質の変化を捉える簡易検査キットの実現を目指します。

なお、今回開発した技術は、文部科学省からの委託研究「ナノテクノロジーを活用した人工臓器・人工感覚器の開発」およびミュンヘン工科大学との共同研究の成果を利用しています。

【開発の背景】

近年、重症急性呼吸器症候群 (SARS)、西ナイル熱、牛海綿状脳症 (BSE)、新種トリインフルエンザなど、様々な新しい感染症への懸念が高まっています。このような感染症の流行に対して、いち早く状況を把握し対策を講じるには、感染に関係するたんぱく質を迅速かつ高い信頼性で検査・分析する技術が欠かせません。

一方、体内のたんぱく質を網羅的に調べて病気の状態や原因を探るプロテオーム(注3)研究の進展に伴って、ガンマーカーたんぱく質のように疾患の目印となるたんぱく質を決定しようとする研究が加速されています。今後、その成果を医療や健康管理の現場で役立てるためには、疾患のマーカーとなるたんぱく質を、簡便かつ迅速に分析する技術を確立しておくことが重要です。

【課題】

従来、微量なたんぱく質の検出には、BSEの1次スクリーニングに用いられているELISA(注4)のように、特定のたんぱく質とだけ結合する抗体を利用した免疫学的な手法が用いられてきました。しかし、この方法では、対象となるたんぱく質(抗原とも呼ばれる)と抗体の結合反応を繰り返す必要があり、たとえばELISAでは測定に6時間以上かかるなど、迅速に結果を求めることができませんでした。

【開発した手法】

今回開発したのは、人工的に合成したDNAナノワイヤーを用いた定量的なたんぱく質の検出法です。開発した検出法の特長は下記の通りです。

  1. DNAナノワイヤープローブの放出制御法

    人工的に合成した10ナノメートル程度の短いDNAナノワイヤーが、吸着している電極から電気的な信号に応じて放出される現象を新たに発見しました。たんぱく質を検出するプローブをDNAナノワイヤーと抗体とで構成し、これを電気信号に同期させて溶液中に放出することで、たんぱく質と抗体との反応を電気的に制御することが実現できました。電気信号に同期した現象のみを観測することで、高感度な測定が可能となります。

  2. DNAナノワイヤープローブの拡散可視化法

    上記プローブに蛍光色素を付けたとき、電極に吸着しているときは発光せず、電極から10ナノメートル以上離れたときに発光する現象を新たに発見しました。さらに、プローブとたんぱく質が結合したときに溶液中での拡散時間が長くなり、発光時間の変化する状態からたんぱく質の濃度を定量的に検出できることを見出しました。

【効果】

DNAナノワイヤープローブを構成する抗体のモデルとしてビオチン(注5)を、検出の対象となるたんぱく質としてアビジン(注6)を用いて、今回開発した手法を検証しました。アビジン添加後、約60秒で、1リットル当り1フェムトモル(注7)の濃度まで正確にアビジンを検出でき、従来の代表的な手法であるELISAに比べ、100倍の速度、100倍の感度となることを実証できました。また、1リットル当り1フェムトモル(10-15 mol/l)から10ピコモル(10-11 mol/l)までの5桁の感度範囲で、極めて定量的に検出が可能であることを確認しました(図1)。なお、今回開発した検出法の条件を最適化することにより、試料添加後20秒以内での計測が可能となる見込みです。

アビジンの濃度と発光時間に関する係数の関係
図1 アビジンの濃度と発光時間に関する係数の関係

【今後】

今回開発した手法の研究開発に加え、抗体と標的たんぱく質の結合シミュレーションや、人工抗体の作製に関わる研究を進め、これらを半導体技術と組み合わせることで、DNAナノワイヤーを用いた、たんぱく質センサーチップの実現を目指します。

以上

注釈

(注1)株式会社富士通研究所:
社長 村野和雄、本社 川崎市。
(注2)DNAナノワイヤー:
一本鎖のDNA(デオキシリボ核酸)からなるナノメートルサイズの分子。DNA自動合成機で人工的に作製できる。
(注3)プロテオーム:
細胞内に存在するすべてのたんぱく質を総体的に示す用語。
(注4)ELISA:
Enzyme-linked Immunosorbent Assay(酵素免疫測定法)の略。抗体が特定のたんぱく質と極めて特異的に結合することを利用し、抗体に目印として付けた酵素の量を測定してたんぱく質の量を決定する手法をさす。
(注5)ビオチン:
ビタミンHとも呼ばれ、脂肪酸の代謝に係わる。卵白に含まれるたんぱく質(アビジン)と強く結合するため、たんぱく質の研究ツールとして常用されている。
(注6)アビジン:
卵白に含まれるたんぱく質。ビオチンと非常に強く結合する。アビジン-ビオチン間の結合は、ELISAなどの分析にも使われている。
(注7)1リットル当り1フェムトモル:
物質の濃度をあらわす単位。アビジンの場合、1リットル当り1フェムトモルは、1モルのアビジン(68,000グラム)が1リットルの水に溶けた状態を基準とし、1000億分の6.8グラムが1リットルに溶けた状態を示す。なお、1リットル当り1モルは、1mol/lと表記。フェムトは10-15すなわち1000兆分の1を、ピコは10-12すなわち1兆分の1を意味する。

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