[ PRESS RELEASE ](技術) |
2003-0165
2003年9月5日
株式会社富士通研究所
富士通株式会社 |
世界初、ゲート酸化膜下のシリコン原子1層の歪みを測定
今回開発した計測技術は、90ナノメートル世代の最先端LSI製造プロセス技術の最適化に利用しています。
本技術の詳細は、8月31日に福岡大学で開催された応用物理学会で発表しました。
【開発の背景】
現在の最先端CMOS LSIでは、ゲート電極に用いられているポリシリコンからのホウ素の拡散防止やゲートでのリーク電流低減のために、ゲート酸化膜に窒素を添加しています。この窒素がシリコン基板にまで拡散すると、ゲート酸化膜と接する界面シリコン原子層の結晶構造に乱れが生じ、電子の移動度低下、界面準位の発生、リーク電流の増大など電気特性に悪影響を及ぼします。したがって、窒素の添加量の制御など、製造プロセスの最適化を実施するためには、界面シリコン原子層の状態を評価する技術が必要となります。
一方、ゲート酸化膜とシリコン基板の界面では、酸化膜にかかる応力や添加した窒素の分布を敏感に反映して、界面のシリコン原子層の位置が非常にわずかに変位します(図1)。このことを利用し、界面歪みを高い精度で評価できる技術を確立することで、半導体製造プロセスの評価が可能となります。
【課題】
従来の結晶歪みの評価技術では、界面シリコン原子1層の歪みを評価することは困難でした。たとえば、X線回折を用いた通常の結晶歪み評価の場合、X線がシリコン結晶基板の内部まで到達することから、シリコン結晶全体の歪み情報しか得ることができません。また収束電子線回折法を用いた歪み測定では、約5ナノメートル(原子層で10層程度)の分析領域が必要となり、界面シリコン原子1層レベルでの歪み評価はできませんでした。
【開発した技術】
今回開発したのは、通常のX線回折技術では測定されない表面X線回折を用いた界面シリコン原子の歪み計測技術で、下記の特長があります。
- (1)SPring-8ビームラインの高輝度X線の利用
- 産業用専用ビームライン建設利用共同体(*3)が建設したSPring-8ビームラインのきわめて高輝度なアンジュレータ放射光(*4)を利用しています。X線回折には、シリコン基板の結晶構造を反映した点状の通常の回折と、非常に弱いために(強度1/1000)通常は計測できない試料の表面のみの構造を反映したロッド状の表面回折とが含まれています(図2)。SPring-8の高輝度X線(通常のX線回折に用いられるものの約1000倍以上の輝度)を利用することにより、この弱い表面X線回折の測定が可能になりました。
- (2)表面回折X線の計測・評価技術
- 表面X線回折は、結晶全体からくる回折に比べて極めて弱く、測定自体も難しいため、高分解能の精密測定を行う計測技術を開発しました。また、その強度分布の非対称性から界面シリコン原子層の変位を高精度に導出する解析ソフトウェアを開発しました。本技術により、表面回折X線の強度分布の非対称性(図3)から、ゲート酸化膜下の界面シリコン原子層の位置の変位を0.0005ナノメートルの精度で求めることに、世界で初めて成功しました。
【効果】
本技術を用いて先端CMOS用窒素添加ゲート膜の評価をおこなったところ、界面シリコン原子がゲート酸化膜に添加された窒素原子の分布を敏感に反映していることが明らかになりました。酸化膜側に窒素が多い条件では界面シリコン位置が酸化膜側に伸び、シリコン基板側に窒素が入り込んでいく条件では界面シリコンの位置が基板側に縮むことを見出しました。(図4)
また、ゲート酸化膜への各種の窒素添加方法において、界面シリコン原子層の変位と電気特性との相関関係が確認できました。このことにより、製造プロセスの評価を、トランジスタ構造を作る前に判定することが可能となり、LSI製造プロセス開発の効率化が実現できました。
【今後】
今回開発した歪評価技術は、計測方法がゲート絶縁膜の厚さに依存しないため、65ナノメートル以降の次世代LSI製造プロセスの最適化技術としても有効です。今後は、他のプロセスにおける歪量変化についても定量的な測定をおこない、次世代LSIプロセスの開発を加速してまいります。
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(a) 電子顕微鏡写真 | (b) ゲート絶縁膜およびシリコン基板 の模式図 |
図1 LSIに用いられるトランジスタの断面図 |
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図2 通常のX線回折と表面X線回折 |
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図3 表面回折X線の強度分布の非対称性と表面原子層の位置変位との関係 |
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図4 窒化条件の異なる試料の界面シリコン原子層の変位 |
以上
用語説明
- (*1) 株式会社富士通研究所:
- 社長:藤崎道雄、本社:川崎市
- (*2) 大型放射光施設SPring-8:
- 世界最高性能の放射光を発生することができる大型研究施設で、日本原子力研究所と理化学研究所が共同で建設したものです。(財)高輝度光科学研究センターが運営しています。
- (*3) 産業用専用ビームライン建設利用共同体:
- SPring-8放射光施設の高輝度放射光を利用した先端材料の開発を促進する目的で、民間13社により設立されたコンソーシアムです。SPring-8にビームライン2本と材料分析装置を建設し、新材料開発に利用しています。
- (*4) アンジュレータ放射光:
- 加速器の直線部に周期的に配置した永久磁石により電子を蛇行させることにより発生する高輝度のX線のことです。
関連リンク
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