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[ PRESS RELEASE ](技術)
2003-0134
2003年7月10日
株式会社富士通研究所

CMOS LSI中の高精度局所歪測定技術開発に成功


株式会社富士通研究所(*1)は、CMOS LSIのトランジスタ中で局所的に発生する結晶格子の微小歪を、従来の10倍の精度で短時間に計測する透過型電子顕微鏡(*2)像の解析技術の開発に成功しました。本技術を用いることで、LSI製造プロセスで発生する歪の影響を最適化でき、トランジスタの性能向上を実現できます。

今回開発した計測技術は、次世代LSIの製造プロセス技術の最適化に利用できます。本技術を用いることで、結晶格子の微小歪とLSI製造プロセスとの関係を明らかにすることができ、最適な製造プロセスを選択することが可能となります。 なお本技術の詳細は、6月8日に札幌でおこわれた日本顕微鏡学会で発表しています。

【開発の背景】

次世代の超微細CMOS LSIでは、製造プロセスによって生じるトランジスタの内部の局所的な結晶格子の微小歪によって、トランジスタの性能が影響を受けるようになります。このことから、実際の製造プロセスで生じる結晶格子の微小歪を高い精度で計測する技術が求められていました。

【課題】

半導体の結晶格子の局所的な歪の測定については、透過電子顕微鏡(TEM)を利用したさまざまな方法が検討されており、その中でも収束電子線回折法(CBED: Convergent Beam Electron Diffraction)(*3)図1)は精度の高い手法として知られています。しかし、この方法でも、結晶格子の間隔の0.1%(1X10-3 )程度の歪測定精度しかありませんでした。CMOS LSI中の結晶格子の歪は0.01%(1X10-4 )程度でもトランジスタ特性に影響を与えることが知られており、より高い精度の計測技術が必要でした。

また、製造プロセスの影響を調べるためには、歪の空間的な分布も重要なデータです。従来のCBED法では解析に数日間を要しており、迅速な解析がおこなえませんでした。

【開発した技術】

今回開発したのは、収束電子線回折法(CBED)の透過像や回折像中に存在する複数の高次回折線(HOLZ線)(*4)の位置を、正確に自動的に計測し、結晶格子間隔を決定する方法です。試料を透過してくる電子の雑音成分を除去して鮮明な画像を取得する技術と、HOLZ線の位置を自動的に高精度で計測する技術を開発しました。

本技術の測定精度はHOLZ線の抽出精度に依存します。電子線回折理論により検証したところ、結晶格子間隔の0.003%(3X10-5)と、従来の10倍以上の精度で歪量を計測できることを確認しました。測定時間も従来の10分の1の2時間以内で完了できるようになり、多点測定による歪量の2次元分布の計測が容易になりました。空間分解能は10nm以下でした。

今回開発した技術を、実際のプロセス評価技術として、図2に示すCMOS STI(STI: Shallow Trench Isolation)(*5)形成プロセスの検討に応用した結果を図3に示します。従来プロセスでは、歪量は結晶格子間隔の0.11%の圧縮状態で、空間的にも複雑な分布状態でした(図3(a))。STI作製時の熱処理プロセスを最適化することより、歪量が0.02%の圧縮状態に低減するとともに、空間的な歪分布も均一化できることが確認できました(図3(b))。また、このように歪量を最適化することで、トランジスタ性能として飽和ドレイン電流が約7%向上することが確認できました。

今後は、他のプロセスにおける歪量変化についても定量的な測定をおこない、次世代LSIプロセスの開発を加速してまいります。

図1
CBED法の原理図。電子ビームを収束させて試料に照射すると、結晶の格子面で反射した電子が干渉をおこし、回折像が現れます。この回折像には試料中の結晶格子間隔の情報が含まれているので、解析により、結晶歪量を定量的に評価できます。
図2
CMOS LSIの断面図。CMOSは電子がキャリアとなるNMOSと、正孔がキャリアとなるPMOSの2種類のトランジスタから構成されます。これらは同一基板上に形成されるために電気的に絶縁する必要があります。そこで、両者の間に浅い溝を形成し、絶縁物を充填した、STI構造が採用されています。この絶縁物とトランジスタ形成領域との熱膨張率の差から、トランジスタ形成領域に歪が生じます。
(a)(b)
図3
今回開発した技術により求めた、トランジスタ形成領域の歪分布。a: 従来プロセスで形成したもので、歪量が大きく、その分布も不均一であることがわかります。b: 改良されたプロセスで形成されたもので、歪量は小さくなり、その分布も均一になっています。
(*1)株式会社富士通研究所
社長:藤崎道雄、本社:川崎市
(*2)透過型電子顕微鏡(TEM)
電子線を光源とする顕微鏡で、試料を透過した電子を用いて電子線回折像及び画像を得るタイプのものを指します。電子線は細く収束出来るので、狭い領域での情報を得ることが出来ます。
(*3)収束電子線回折法(CBED: Convergent Beam Electron Diffraction)
ナノメートルオーダーに絞った電子ビームをサンプルに入射して電子回折像を撮影し、像の幾何模様から結晶構造や格子定数を評価する方法です。
(*4)高次回折線(HOLZ: High Order Laue Zone 線)
電子ビームがサンプルに入射した際にわずかにエネルギーを失ったのち、結晶格子面で散乱されて得られる線。HOLZ線の位置は結晶格子の面間隔に敏感であるので、歪みが生じて面間隔が変化すると位置が移動します。
(*5)STI (Shallow Trench Isolation)
素子の間に溝(Trench)を形成し、素子間の影響を分離する技術です。LSIの高集積化において、素子分離領域の占める面積を狭くすることが可能であるため、LSIの高集積化には欠かせない技術となっています。

以上

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